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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-41 メンテナンス

 アルスでは2月最後の日、つまり30日。
 仁たちは朝からマルシア工房に来ていた。アーネスト王子とリースヒェン王女はさすがにまだ来ていない。
「まずアローを直してやらないとな」
 昨夜は祝勝会だったため、済まないと思ったが後回しになってしまったのだ。
「頼むよ、ジン」
「ああ、任せとけ」
 仁は、まずアローを作業台に寝かせると、動作を停止させる。
 そして、エルザと礼子、エドガーを助手に、アローの分解を開始。

 この間、リシアとハンナはマルシアに工房内の説明をしてもらっている。

 外装と筋肉系を取り外した仁は、まず骨格のチェック。
「うん、骨格にはガタは来ていないな。関節もオールオッケーだ」
「さすが、ジン兄」
「さて……」
 そこに声が響き渡った。
「あーっ! ジン、僕がいないうちに始めちゃずるいよ!!」
「ネ、ネスト様、もそっと小さなお声で……」
 アーネスト王子とリースヒェン王女であった。まだ午前8時だというのにやって来たのだ。
 お伴はロッテとティアのみ。もっとも、陰ながら護衛する者たちが数名そこら辺にいるらしい、と礼子が察した。
 アーネスト王子はすたすたと仁のそばまで歩いてきて、
「これがマルシアのアローかあ。僕のロッテのお姉さんになるんだよね?」
 と興味深そうに言った。
「そういうことになるね」
 仁は答えながらも手を止めない。
「礼子、64軽銀をくれ」
「はい、お父さま」
「エドガー、こっちを押さえていてくれ」
「はい、ジン様」
 助手が2人いると作業は速い。
 あっという間に左腕は再生され、筋肉系も再取り付けされてしまった。
 もちろん、全身の関節もクリアランスなどのチェックをされ、調整されている。
「いつ見ても見事だよね……」
 仁の手際に見とれるアーネスト王子。
「うん、問題ないな」
 アローの全身チェックも済ませ、再組み立てに入った仁は、2分掛けずに組み立てを終了させた。
「は、速い……」
「……」
 アーネスト王子は一言だけ呟き、リースヒェン王女は絶句している。
 仁はアローを再起動させ、具合はどうか尋ねる。
「はいジン様、問題はありません。これまで以上にマルシア様のお役に立てます」
「それはよかった。今後も頼むぞ。……殿下、ちょうどいい機会ですからロッテとティアもチェックいたしましょうか? マルシア、いいかな?」
「うん、もちろんだよ」
 快く頷いたマルシア。そして2人の殿下に否やのあろうはずはない。
「え? あ、ああ、是非お願いするよ!」
「うむ、是非頼む!!」

 というわけで、マルシアの工房を借りて仁は2体のオーバーホールを行うことにした。
 ティアの方は、いろいろと作り込みがあるので、分解はエルザに頼むことにした。
 5分も経たずに骨格状態にまで分解された2体を前に、仁はチェックを行っていた。
「うん、アダマンタイトコーティングした関節はまったく磨り減っていないな。いい調子だ」
 そして再度、クリアランスやバランスを調整しながら組み立てていく。
 筋肉系も、無茶をしていないとみえ、まったく問題ない状態であった。
 しかし仁には、単にそのまま組み立てるつもりはない。
 元々、2体とも、その筋肉系はそれなりに強力な魔物の素材が使われている。つまり、まだまだパワーを上げることができるのだ。
 仁は魔素変換器(エーテルコンバーター)魔力炉(マナドライバー)の効率を上げ、その分だけ魔法筋肉(マジカルマッスル)のリミッターを緩めた。
 これで反応速度は2倍、パワーは1.5倍くらいに上がった筈だ。
「うわあ、何やってるかわかんないや……」
 溜息を漏らすアーネスト王子であるが、リースヒェン王女ははなから無言のままである。
 そして仁は組み立てを開始。ティアの魔法外皮(マジカルスキン)取り付けはエルザに任せ、仁はロッテの組み立てを行った。
 所用時間、およそ10分。
「どうだ、ティア、ロッテ?」
 再起動した2体に尋ねる仁。
「はい、とってもいいです。ありがとうございました」
「はい、今までよりさらによくなりました。ありがとうございます」
 2体とも調子は上々のようだ。
「これでよし。さあ、本番開始だな」
「えっ?」
 訝しげなアーネスト王子に、
「いやいや、船の話を聞くんだろう?」
 と仁が言うと、
「あっ、そうだった。ジンの手際に見とれて忘れちゃってたよ」
 と頭を掻くアーネスト王子なのであった。

*   *   *

「まず、何が知りたいのか、が重要だと思うんだ」
 時間が限られているからこそ、まずはっきりさせたい、と仁は言った。
「うん、それはわかるんだけどね……目移りしちゃうんだよね」
 アーネスト王子の言い分もわかる。マルシアの工房は船に関する資材、資料、現物で一杯なのだから。
「ジンとマルシアに任せるよ。僕がこうしていられるのも午前中いっぱい……というより午前11時までだから。11時半から、トライネ嬢を交えての昼食会なんだ」
「うん、わかったよ」
 エゲレア王国から参加したトライネを労うのも王族の務めだから、と言ってアーネスト王子は笑った。

 忙しい中、かなり無理をして時間を作っているはずのアーネスト王子とリースヒェン王女。
 仁は短時間で船に関するもろもろを教えるにはどうすればいいか少し考え、やはり基礎から始めるのがいいと結論した。

「それじゃあ、始めよう。まず、どうして船は浮くかわかるかい?」
「え? ええと、軽いから?」
「間違っているとは言わないけど……まずそこから始めよう」
 仁は、マルシアの工房に備え付けてある、仁がプレゼントした、地底蜘蛛樹脂(GSP)製のホワイトボードもどきを用意し、そこに図を描き始めた。
「まず、物体を水に入れた時、押しのけた水の量だけその物体は軽くなるんだ。これを前提として覚えてほしい。どうして、と聞かれても俺にも説明できない」
「うん、わかった」
「つまりだ、押しのけた水の重さよりも軽い物体は浮き、重い物体は沈む。これは鉄で作った船であっても同じだ」
「ああ、だから『崑崙島』で見たあの船は浮いているんだね!」
「そういうことさ」
「ふうん、そうだったんだね! なんとなく今までは勘みたいなもので作っていたよ」
「え?」
 気が付くとマルシアとロドリゴも仁の講義に聴き入っていた。
「ジンの話はためになるね。あたしたちも聞いていいだろう?」
「そりゃあもちろんさ」
 仁はマルシアに頷き掛け、説明を続けるのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170307 修正
(誤)もちろん、前身の関節もクリアランスなどのチェックをされ、調整されている。
(正)もちろん、全身の関節もクリアランスなどのチェックをされ、調整されている。

(旧)元々、2体とも、その筋肉系は蓬莱島標準のものが使われている。
(新)元々、2体とも、その筋肉系はそれなりに強力な魔物の素材が使われている。

(誤)「エドガー、こっちを抑えていてくれ」
(正)「エドガー、こっちを押さえていてくれ」
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