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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-40 祝勝会

 マルシアが優勝した同日夕刻、祝勝会が行われた。
 場所はマルシアの工房に隣接している自宅兼事務所である。
 主賓はもちろんマルシア。その隣にはニコニコ顔の父親、ロドリゴが座っている。そして従業員、バッカルスとジェレミーも緊張した顔で隅っこに座っていた。

「マルシアさん、おめでとう」
「ありがとう、エルザ」
「おめでとう、マルシア」
「ありがとう、ジン」
「マルシアお姉ちゃん、おめでとう!」
「ハンナちゃん、ありがとう」
「マルシアさん、おめでとうございます」
「リシアさん、ありがとう」
「マルシアとやら、見事じゃった」
「マルシア、凄かったよ」
「……で、なんでここに王子様と王女様がいるんだい?」
 心なしかマルシアの額に冷や汗が浮かんでいる。根っからの庶民、バッカルスとジェレミーに至っては縮こまっていた。
「気にするな、忍びじゃ」
「そうそう。ジンの友人ということで参加させてもらっているだけだから」
「気にするなと言われても……」
「因みに、祝勝会の費用はアーネスト殿下が全部、出してくれた」
 エルザがさらりと裏事情を暴露する。
「ええっ!」
「あはは、優勝賞金はちゃんと自分のために使いなよ」
「そうじゃとも。そもそも祝いは祝う側が用意するもので祝われる側が気にすることはない」
 アーネスト王子とリースヒェン王女はちゃんとわかっているようだ。
「ねえねえ、食べようよ」
「あ、そうじゃな、ハンナの言うとおりじゃ」
 気を取り直して乾杯である。
「乾杯!」
「乾杯!!」
 ハンナはシトランジュース、後の者は発泡ワインだ。
「おおっ! これは口当たりがいい!」
 ただし、アルコール度数はかなり低く、リースヒェン王女が飲んでも大丈夫……というか、王族は12歳になるとワインなどを飲むこともあるのだという。
「エリアス王国西部特産だそうだよ」
 アーネスト王子は、こうした情報を事前に集めていたらしい。
「ん、美味しい」
 エルザも気に入ったようだ。
「甘くて口当たりがいいな」
 仁も飲みやすいワインだと評する。ワイン通のラインハルトにお土産にしてみるか、と考えながら。
「美味しいです。初心者向けかも知れませんね」
 リシアも舌鼓を打っていた。

 それからは食べながらの歓談。
 クライン王国だけでなく、エゲレア王国でも食事中の雑談は行儀が悪い、と言われるのだが、郷に入れば郷に従え、エリアス王国南部では楽しく歓談しながら食べるのだ。
 もっとも、親しい間柄であり、お祝いごとのような目出度い席で、の話であるが。
「船について勉強したくて、エリアス王国に来たんですよ」
(わらわ)はネスト様に付いてきたのじゃ」
「そういうわけだから、明日、見学させてやってくれないかな?」
「ジンの知り合いだし、何より殿下だからねえ……引き受けたよ!」
「ありがとう、マルシア」

「しかし、スクリューの実用化、大変そうだな」
「うん、『船外機』の時は平気だったんだけどね」
「そうなんですよ、ジン殿。今回はゴーレム駆動にするため、軸を伸ばして船内まで持って来たところ……」
「振動の発生と……強度が不足したわけだ」
 仁は今回のトラブルについて分析を始めている。マルシアとロドリゴも乗り気なので、エルザとハンナはまた始まった、と苦笑し、リシアはついていけずに目を白黒させている。
「うーん、この探求心がやっぱりジンだね」
「そうじゃな……」
 アーネスト王子とリースヒェン王女は悟ったような顔をしていた。

「今回、軸の防水に一番気を配ったんですよ。そうしたら強度が不足して……」
 ロドリゴが経緯を述べる。
 スクリュー軸を通すパイプのことをスタンチューブと言うが、そのスタンチューブと軸の間にはどうしても隙間ができてしまい、そこから水が船内に侵入してしまうのだ。
 それを防ぐため、グリスを詰めるという簡単な方法から、高度なシール方式まで様々な工夫がなされている。
「グリス箱というものにしてみました」
「へえ……それはすごいや」
 グリス箱、グリスボックスというのは、スクリュー軸がスタンチューブから船内に突き出す部分にグリスを詰めた箱状の部品を介する方法である。
 スタンチューブの中から水が上がってきても、グリス部分で絶縁させるというわけだ。
 船の模型では比較的使われている方法である。
 この場合、スタンチューブとスクリュー軸には錆びにくい材質を使う必要があるが、ロドリゴは軽銀を使っていた。
 ただし高価なので軸径を細くしてしまい、強度不足に陥ったのは失敗だった、と言った。
「今回の優勝賞金を使って軽銀を購入し、より完成度の高い船に仕上げてみせますよ」
 意欲たっぷりにロドリゴは宣言したのである。

「マルシアさん、お店は順調?」
 仁がロドリゴと話し込んでいるので、エルザはマルシアに話し掛けた。
「うん、すごく! 三胴船トリマランも取り回しはいいし、動力を取り付けるバランスもいいしね」
 極力魔導機関(エンジン)を使わない船、というコンセプトで開発しているということだ。
 今回はゴーレムが漕いでいるが、人間が漕ぐこともできるようになっている。もっとも、その場合は速度と航続距離が極端に落ちるわけであるが……。
魔力素(マナ)がなくなっても走れるというのは強みだよね」
「確かに、そう」
 仁と違い蓬莱島のバックアップがない一般人にとって、そうした特性は重要だろう。

「ところで王子様は何を知りたいんだ……でしょうか?」
「あはは、ここにいる間はみんなと一緒の口調でいいよ。……ええと、ゆくゆくは20メートル級の輸送船を建造したいと思っていて、そのためにいろいろ勉強したいと思っているのさ」
「ははあ、そうですか。そうなると、船の基本的なことからお話しした方がいいかもしれませんね」
「うん、頼むよ!」
 マルシアとアーネスト王子も打ち解けてきたようだ。
 元々アーネスト王子はモノ作り、特にゴーレム系に興味を持っていたため、こうした話にも付いていける。
「詳しくは明日、もう一度来るから、その時よろしく!」
「は、はい」
 今日だけかと思っていたら明日も来るという、そのバイタリティに少し驚かされるマルシアであった。

「あたしもお船のこといろいろ知りたいな」
「うむ、ハンナも(わらわ)と一緒に、ネスト様のそばにいればいろいろ話が聞けるぞ」
「あ、そうだね! ありがとう、王女様!」
 ハンナにそう言われたリースヒェン王女はちょっと難しい顔をする。
「うーむ、非公式の場では王女様、はやめて欲しいのう」
「うーんと、それじゃあ……リースお姉ちゃん、って呼んで、いい?」
 この提案に、リースヒェン王女はぱっと顔を輝かせた。
「お、おお、それでよい! いや、そう呼んでくれ!」
 末っ子のリースヒェン王女は、ハンナに『お姉ちゃん』と呼ばれることが嬉しいのだった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

(旧)より完成度の高い船に仕上げて見せますよ」
(新)より完成度の高い船に仕上げてみせますよ」
  補助動詞なのでカナ表記にします

 20170308 加筆
(旧)その隣にはニコニコ顔の父親、ロドリゴが座っている。
(新)その隣にはニコニコ顔の父親、ロドリゴが座っている。そして従業員、バッカルスとジェレミーも緊張した顔で隅っこに座っていた。

(旧)心なしかマルシアの額に冷や汗が浮かんでいる。
(新)心なしかマルシアの額に冷や汗が浮かんでいる。根っからの庶民、バッカルスとジェレミーに至っては縮こまっていた。
 従業員も祝勝会に参加してもらいました。セリフはないですが。
+注意+
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