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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-39 激闘の果てに

「速いっ! ゼッケン6、その実力を遺憾なく発揮し始めました!! 今、ゼッケン8を抜き、4位に浮上!」
 現順位は3、1、7、6、8、2、4、5となっている。
「横置き水車駆動……スクリューの速度は1ランク上ですね」
 解説のベルナルドも舌を巻いている。
「ええ、やはり効率がいいからこそ、ここ一番に強いようですね」
 ゲストである仁も補足する。
 ポトロック中央広場の巨大魔導投影窓(マジックスクリーン)には、疾駆する船の映像が次々に映し出されている。
 7艇は後方へ大きく水飛沫を上げて走っており、壮観だ。
 そんな中、1艇だけは水飛沫を跳ね上げることなく疾駆している。言わずと知れたゼッケン6、マルシアの船である。
 スクリュー軸の回転力のほとんどが水を後ろへと押しやる力になり、船はその反作用で前へと押し出される。
 水車駆動は、その原理上、半分以上が水上にあるがゆえに、パワーロスが多いのだ。
 もちろん、1世代前の推進装置であるオールもしくはパドルに比べたら効率はいいのだが、スクリューには負ける。

「速い! ゼッケン6、3位に浮上! 2位のゼッケン1を猛追しております!!」

*   *   *

「行け、アロー!」
 マルシアの前にいるのはあと2艇。ゼッケン1と3だ。
 実は、どちらの船もマルシア工房で作られたもの。違いは駆動方式のみ。
 図らずも姉妹対決となったわけだ。
 マルシアの船はじりじりと差を詰めていく。
 2位のゼッケン3まであと10メートル……5メートル……2メートル……1メートル……。

「並んだ! ゼッケン6、今、2位のゼッケン1に並び……抜きましたああああああっ!」

*   *   *

「すげえな……」
「ああ、スゲえよ、あのゼッケン6」
「最下位から追い上げて、2位まで上がって来ちまったもんな」
「いや、もう1位はすぐそこだぜ」
 観客もマルシアの追い上げに目を奪われていた。

「マルシアさん、すごい。やっぱりスクリューは、効率がいい」
「ほんとだね!」
「私には正直、難しいことはわかりませんけれど、素直にマルシアさんが頑張ってることはわかります。感動しました」
 エルザ、ハンナ、リシアもマルシアの追い上げには驚いていた。

「ネスト様、すごいですのう、あのゼッケン6は。どうやらジンの知り合いらしいですが」
「うん、あのゴーレム、ジンが作ったものだよね。凄い、そう言う以外に言葉がないよ。自分の腕を素材にして船を修理するなんて。さすがジンの作!」
 アーネスト王子の脳裏に、かつての『ゴーレム園遊会(パーティー)』の騒動の時、身を呈し、ボロボロになりながらも守ってくれたロッテの姿が浮かんだ。

(うん、アローの調子は上々だな、左腕がなくとも、バランスは崩れていない)
 仁は仁で、マルシアの船とアローの調子を魔導投影窓(マジックスクリーン)越しに確認していた。
(スクリュー軸も大丈夫そうだな。まあ、アローの左腕を使ったんだ。そりゃあオーバースペックにもなろうってもんだ)
 仁が何度かメンテナンスという名の改造を加えた結果、今のアローの骨格は64軽銀。その身体スペックは並みのゴーレムに比べたら10倍にもなる。
 そのアローがほぼ全力でスクリュー軸を回しているのだ。これで速くないわけがない。
 とはいえ、仁が持つ現代日本の知識に照らし合わせてみればまだまだその『スクリュー』は未完成で、ロスの大きい運用をしているのだが。
 これについてはマルシアの、『自分たちだけで研究し、実用化させてみたい』という意思を尊重している。
 そのため、スクリューのぶれとスクリュー軸の強度不足という欠陥が表に出てしまったのだが。

*   *   *

「アロー、頑張っておくれ!」
「任せて下さい!」
「あと少しでトップだよ!」

「……やっぱり凄いわ、マルシアさん。でも」
 トップを行くゼッケン3、エイニーは、ちらと後ろを向き、猛追してくるゼッケン6を見て不敵に微笑んだ。
「それでこそ、あたしが憧れて、超えようと思ったチャンピオンよ!」
 エイニーが乗る艇体はマルシア工房のものであったが、水車を駆動するゴーレムは特注品であった。
 その特性上、ペダルを漕ぐ脚部を強化し、腰部より上は貧弱な作りになっている。
 結果、並みのゴーレムの3倍近い出力を誇る。
 ただし、長時間の駆動には、魔力貯蔵庫(マナタンク)魔力素(マナ)が保たないので、これまでは半分に出力を抑えていたのだ。
「ここからが、勝負!」
 ゴールまではあと4キロほど。全力を出して魔力素(マナ)が足りるギリギリの線は過ぎた。
「行くわよ!!」

*   *   *

「おおっ、ゼッケン3もさらにスピードを上げた! ゼッケン6と同等の速度を出しております!! これは凄い!」
「まさに温存していたようですね。ゴールまでの距離を考慮し、全速を出すことにしたようです」
「そういうことなんでしょうか、ジンさん?」
「ええ、そう思います。最初から全速では魔力素(マナ)が足りなくなってしまうのでしょうね」

*   *   *

「速度を上げた? やるじゃないか。こっちも負けないよっ!」
 あと少しで抜ける、と思ったその矢先、ゼッケン3の船はぐん、と速度を上げた。
 マルシアは相手を讃えると共に、一層の闘志を燃やす。
「あと少しだ、アロー、行けるかい?」
「はい、大丈夫です」
 アローは、仁が作ったゴーレムだけに許される、限界以上のパワーを発揮し始めた。

「ううっ!? まだ向こうにも余力があったの? ……これじゃあ、マルシアさんが最初に優勝した時をなぞってるみたいじゃない!!」
 エルザとマルシアが競った、第10回ゴーレム艇競技。
 あの時も、ゴール間近でエルザの船とマルシアの船がデッドヒートを繰り広げたのだ。そしてその競り合いを制したのはマルシアであった。
 奇しくも、その時のエルザもゼッケン3。そして同じく黄色の水着を身に着けていた。

「あの時も、エルザの船を追いかけていたっけね!」
 マルシアもまた、2年前を思い出していた。

*   *   *

「すぅっごい競り合いですっ! 舷側と舷側が触れ合いそうな距離で競り合う2艇! 決勝戦最終ステージに相応しい激闘です!!」
 司会のアナウンスも絶叫に近くなっている。
 ゴールまで2キロを切り、未だトップは決まらず。
 まさにサイド・バイ・サイド。
 観客の熱狂も天井知らずだ。
「頑張れーゼッケン6!」
「負けるんじゃねえぞ、3!!」
 完全にトップ争いはマルシアとエイニー。3位以下は500メートル以上後方だ。
「まさに激闘ですね。2年前を思い出します!」
 解説のベルナルドもまた、あの激戦を思い出しているようだった。

「マルシアさん、頑張れ」
「マルシアお姉ちゃん、頑張って!」
「マ、マルシアさん、頑張って下さい!!」
 そして2艇は肉眼で見える距離まで近付いて来た。先頭は……。
「ゼッケン6が先頭だっ! ついに、最下位から全艇を抜き、TOPに立ちました!!」

 その時。
 ゼッケン6、マルシア艇が右に傾いた。
「あっ!?」
 スクリュー軸から伝わる振動に艇体が耐えられなくなり、3つある艇体のうち右側に亀裂が入ったのである。
 浸水する艇体。内部には隔壁があるので水没することはないが、大きな抵抗が生じた。
「ここまで来て! 負けるものか! アロー! 速度は緩めないで!!」
「はい、マルシア様」
 マルシアは舵を左に切り身体も左に傾けて、右へ右へとずれて行こうとする船を必死にゴールへと向けていた。
 それは当然速度を低下させる。

「チャンス!」
 エイニーはこれをチャンスと捉え、さらに速度を上げるべくゴーレムに指示を出した。
 が。
「あっ!?」
 ゼッケン3も速度が落ち始める。
 ゴーレムが内包する魔力素(マナ)が欠乏してきたのだ。要はガス欠である。

「ああっ! ゼッケン3、チャンスに見えましたが速度が落ち始めました! ゼッケン6、やや優位か!?」

 ゼッケン6とゼッケン3は、共にベストコンディションとは程遠い艇を駆り立て、ゴールを目指した。
「ゴールまであと少し! 激闘を制するのはどちらだっ!!」

 ゴールまで200メートル。
 150メートル。
 100メートル。
 50……。
「ゴォーーーール!! ゼッケン6、優勝ですっ!!」
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