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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

1453/1620

39-38 追い上げ

「応急修理が終わったゼッケン6、速い! 速すぎると言ってもいい!!」
 マルシアは、最早作戦などかなぐり捨て、全速で船を駆っているようだった。
(うん、スクリューの動作は安定しているようだな。あれなら大丈夫だろう)
 多少バランスが悪くても、強度が十分にあれば、競技の間くらいは十分に保つはずである。
 仁は画面に映し出されたゼッケン6の船を見て、そう判断した。
(ただし、振動はかなり来ているようだけどな……)
 バランスが取れていないスクリューを強引に回しているので振動がもの凄いことになっているだろうことを仁は推測していた。

*   *   *

「行ける! アロー、このまま行くよ!」
「はい、マルシア様」
今、先頭の船はトリュ島を回り込んだところである。
 ゼッケン6のマルシアは今最下位。7位との差は1キロ弱。
「出し惜しみはなしだよ!」
 スクリュー軸からは激しい振動が伝わってくるが、そんなものは気にも止めず、マルシアは少しでも空気抵抗を減らすべく艇体に身体を伏せ、透明なシールド越しに前方を見据えていた。
 波が艇体を揺さぶり、飛沫が艇体を濡らす。
 一筋の白い航跡を引いて、ゼッケン6は突き進んでいった。

*   *   *

「ゼッケン6の艇体はいい出来ですねえ」
「そうなんですか?」
 仁の言葉に司会者が食い付いた。
「はい。船の出来の良し悪しを見分ける一つの目安は、走った後にできる、あの白い航跡にあります」
「はあ」
「バランスが取れていれば左右対称にできます。そして抵抗が少なければ少ないほど、航跡も小さくなる」
「ははあ、なるほど」
 司会者は頷いた。
「ゼッケン7もまた、同様に出来がいいことがわかりますね」
「ありがとうございます。……魔法工学師マギクラフト・マイスタージンさんの解説でしたー」

*   *   *

「マルシアお姉ちゃん、大丈夫かな」
「だ、大丈夫ですよ、きっと」
 ハンナとリシアは心配そうな顔だが、
「アローが付いてる。大丈夫」
 と、エルザは断言した。
「アローは、ジン兄が作った、マルシアさんのための専用ゴーレム。だからマルシアさんは、負けない」

*   *   *

 1艇も欠けることなく、8艇はイオ島へと戻って来た。
 順位は3、7、1、8、4、2、5、6。
 マルシアは未だ最下位であるが、彼我の距離は50メートル未満まで詰まってきていた。
「ゼッケン6、すっごぉい追い上げですっ!」
「頑張れ、マルシア!」
「いいぞ、ゼッケン6!!」
 追い上げるマルシアに声援が飛ぶ。
 イオ島付近に設けられた浮子うきによるテクニカルステージを抜ければ、あとはゴールまで無制限の高速ステージだ。
 ここでゼッケン1、リーチェがスパートをかけた。
「おっ、ゼッケン1、速度を上げた! 速い速い! ゼッケン7に並びましたっ!!」
「あの船もいい仕上がりですね」
 仁が感心するように言った。
 リーチェが乗る船はマルシア工房純正である。やはり出来が違うのだ。
 トップは相変わらずゼッケン3、黄色の水着を着たエイニーは今回が初出場。そのせいか気負い込んでいる。
 スタートしてからずっと、トップをひた走っているのだ。
 そのゼッケン3を猛追する7と1。
 トップグループの首位争いは激化していく。

 そしてセカンドグループでは、ゼッケン8が抜きん出ようとしていた。
「おおっ、エゲレア王国のトライネ嬢、いよいよ本気を出すか!?」
「エゲレア王国も船の開発に力を入れているといいますからね。期待しましょう」

*   *   *

「うーん、知らなかったなあ……」
 貴賓席では、そのエゲレア王国の第3王子であるアーネストが首を傾げていた。
「ネスト様、王族といえども全てを知らされているわけではござりませぬ。そうお気になされますな」
「うん……」
 船の勉強をするつもりでやって来たエリアス王国で、自分の知らない自国の船が競技に出ていたことに、やはりショックは隠せないようだ。

*   *   *

「あれが最後尾だね! ゼッケン5かあ。確かノールンって言ったっけ。行くよ!」
 イオ島を回り込むコースももう終盤。
 大きな弧を描く艇体を僅かに右に振り、外側から抜きにかかるマルシア。
 ノールンは弧の内側を警戒していたようで、右側から追い抜いていくマルシアの船を横目で睨むように見つめていた。
「やった! これで7位だ! あと6艇抜けばトップだよ」
 そして舞台は長い直線コースとなる。
 8艇の船はさらに速度を上げてゴールのポトロックを目指していった。

*   *   *

(アローはいい調子だな。スクリュー軸の強化もギリギリだがゴールまでは保つだろう)
 特別ゲスト席の仁は心の中で安堵の溜め息を吐いた。

「全員、直線ステージに入りました。これからゴールまで、スピード勝負です!」
 司会者の声もトーンが上がる。
 観客も盛り上がっていく。
 そして一番燃えているのは、当事者たちである。
「ここでスパート! 今まで温存していた分も全部注ぎ込むのよ!!」
「負けない! 全力全開!!」
「行っけー!」
 各自、それぞれの持てる力を全て出し切るべく、闘志を燃やす。

 しかし、純粋な速度勝負となると、船の性能がものを言うのだ。

「アロー! 軸は大丈夫かい?」
「はい、マルシア様。ゴールまで保ちそうです」
「よーし、頑張っていくよ!」
「はい、お任せください」
 ゼッケン6、マルシアもラストスパートをかけた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170304 修正
(誤)そのせいか気追い込んでいる。
(正)そのせいか気負い込んでいる。

 20170305 修正
(旧)「ネスト様、王族といえども全てを知らされているわけではござらぬ。
(新)「ネスト様、王族といえども全てを知らされているわけではござりませぬ。
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