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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

1450/1567

39-35 ポトロックにて

 仁は、アーネスト王子とリースヒェン王女を伴ってエリアス王国へ。
 結論から言うと、簡単に許可が下りた。
 何せ、『崑崙君』ジン・ニドーが同行するのである。これ以上安全で速い移動手段はないというわけである。
 ただし、公式とはいえ、あくまでも『勉強のため』という名目になったのは致し方のないところであろう。

 因みに、昨夜のうちに、アメズ1から料理長へ、ご飯の炊き方と天ぷらの衣をさっくり仕上げるコツを教えてある。
 おかげで、朝食に出てきたご飯はまずまずの炊き上がりであったことを付け加えておく。

「では、行ってきまーす」
「うむ、アーネスト、しっかり勉強してくるのじゃぞ」
「姫さま、お気をつけて」
「うむ、ハーヴェイもな」
 アーネスト王子は父であるハロルド・ルアン・オートクレース=エゲレア国王に。
 リースヒェン王女はハーヴェイ魔法技術省次官に見送られて。
「『崑崙君』、息子をよろしく頼む」
「はい、お任せください」
 そして『コンロン3』はエゲレア王国の空へと浮かび上がった。
 メンバーは仁、エルザ、礼子、エドガー、ハンナ、リシア、リースヒェン王女、アーネスト王子、アン、ロル、レファ、ティア、アメズ1、ロッテという大所帯となっている。

「わあ、飛んでる飛んでる」
 アーネスト王子ははしゃいでいる。リースヒェン王女も、アーネストと一緒なので嬉しそうだ。
「速いねえ。どのくらいの速さなんだろう?」
「時速100キロほどだそうですよ」
 リースヒェン王女はアーネスト王子相手だと『のじゃ』をあまり使わないところが面白く、でもたまに出てしまうところがまた可愛らしい、と仁やエルザは横で聞きながら思っていた。
 向かうのは、首都ボルジアではなく、造船ドックのあるポトロックである。
 距離にしておよそ300キロ、3時間で着く予定である。

「でも、4人とも、青髪という点は共通だけど、雰囲気はまるで違うよね」
 アンたち四姉妹を見て、アーネスト王子はそう評した。
「うまく言えないけど、やっぱり個性なのかな?」
 この疑問には仁が答えた。
「殿下、生まれは同じでも、その後の経験によって変わってくるんですよ、みなそれぞれの過去があるんですから」
 アンは慰安婦として、ティアは乳母としての改造を受けているが、そこまでの説明は控えた仁であったが、アーネスト王子はその説明だけで納得してくれた。
「そうか……そうだよね。人間でも同じだものね」
 そんな王子を、仁は好ましく感じたのである。

*   *   *

 現地時間正午前、『コンロン3』はエリアス王国ポトロックに到着した。
 ここには飛行場がないので、海岸に着陸する。
「なんだか賑やかだな」
「ん、観光客も多い気がする」
 仁とエルザは何度目かのポトロック。雰囲気がいつもと違うのできょろきょろしている
 そんな中、礼子が指を差した。
「お父さま、出迎えが来ています」
 そこには、連絡を受けてフィレンツィアーノ侯爵が自ら一行を出迎えていた。
「ようこそいらっしゃいました、アーネスト殿下、リースヒェン王女殿下、ジン・ニドー卿、そしてご夫人とご友人方」
「お世話になります」
 海岸での挨拶は簡単に済ませ、まずは迎賓館へ。

 迎賓館は領主館に隣接している。
「歓迎いたしますわ」
 相変わらず凛とした雰囲気を纏うフィレンツィアーノ侯爵は仁たちを前に、軽く会釈を行った。
 まずは昼食。
 ポトロックらしく、海の幸がふんだんに使われた献立だった。
 焼き魚をはじめ、白身魚の天ぷら、剥きエビとキュウリもどきをワインビネガーであえたシーフードサラダなどなど。
 もちろん焼きたてのパンや大麦のお粥もあり、半ばバイキングのように、食べたいものを言うと給仕役がよそってくれるのである。
 蛇足ながらこちらの天ぷらはさっくり仕上がっていた。
 満足した仁たちは、食後、ゆっくりと会談をする。

「アーネスト殿下は、船についていろいろと勉強なさりたいということですわね。ちょうど明日、船の競技会が開催されますのでご覧になっていってください」
 競技会、という単語に仁が食い付いた。
「ええと、船の競技会ということは『ゴーレム艇競技』ですか?」
「ええ、そうです」
 懐かしさを覚える仁。
 マルシアに声を掛けられ、共に挑んだ3457年の早春。
 エルラドライトの密輸を巡る騒動や凶魔海蛇(デス・シーサーペント)の襲来などいろいろあったが、あれがあったからこそ親友ラインハルトと、そして愛妻エルザと出会えたのだから。
 そして、海岸で感じた賑わいは、競技会のためであることが判明した。
 それはエルザも同じようだった。
 侯爵はさらに言葉を続ける。
「予選が昨日行われまして、本日は1日予備日を挟み、明日本戦なのです」
 いつもは2月中頃開催なのだが、今年は海流の関係で開催が少し遅れたそうだ。
 が、アーネスト王子にとっては逆に幸運だった。
「それは楽しみです」
 アーネスト王子は喜々として言った。
「うーん……1日予備日、ってどうしてです?」
 仁が質問した。かつての『ゴーレム艇競技』はそんなことをしなかったからだ。
「今回は前回、前々回よりも少々……いえ、かなりハードな競技内容になっているので、操船者に十分な休養、そして船に万全の整備をしてもらうためなんです」
「……その内容は、どうなっているの、ですか?」
 今度はエルザからの質問。彼女もかつての参加者として気になっているらしい。
「距離が伸びたのです。具体的には2倍に。ですから、操船者と船への負担は大きいのですよ」
「なるほど……」
 船の速度と安定性が増したことから、見せ場としては抜きつ抜かれつのシーンを多く見られるよう、ステージ配分を変えたのだという。
 要は、暗礁地帯を減らし、速度主体のステージを増やしたということである。

「観光客からの評判はよかったわよ」
 昨日の予選でも、デッドヒートを繰り広げた組は盛り上がったらしい。
「それは楽しみですね」
 アーネスト王子も少し興奮気味だ。リースヒェン王女は何も言わなかったが、紅潮したその顔が全てを物語っていた。

「貴賓席を用意するわ」
 フィレンツィアーノ侯爵は仁たちにそう告げた。そして更に、
「ジン殿には、特別ゲストとして解説をしていただけたら、と思うのですが、いかがかしら?」
 と言いだした。
「ええ、いいですよ」
 仁は二つ返事でこの申し出を受ける。
「ありがとう、嬉しいわ。これで明日はさらに盛り上がるわね」

「あの、侯爵閣下、決勝戦って何人残っているんですか?」
 リシアからの質問。仁もエルザも、それを聞き忘れていた、と思った。
「決勝は8人。……ジン殿の元チームメイト、マルシアも残っているわよ」
「え、マルシアが」
 ここ数日、仁はエルザたちと旅行中だったので、老君からの細かい報告は受けていなかった。それで知りそびれたのである。
「マルシアは横置き水車駆動、他の7人は普通の水車駆動ね」
「そうなんですか」
 横置き水車駆動、すなわち『スクリュープロペラ』だ。
 仁は競技を見るのがさらに楽しみになった。

「おにーちゃん、マルシアさんも出場しているの?」
「そうらしいな」
「明日は応援する!」
 ハンナもその事実を知って、少し驚くとともに、明日が楽しみなようだ。
「ふうん、ジンの知り合いか。僕も見るのが楽しみだよ」
(わらわ)も楽しみじゃ」
 リースヒェン王女も期待しているようだった。
「この競技が終わったら、大型船用のドックもご案内しましょう」
「それは、楽しみです」
 アーネスト王子は朗らかに笑った。
 それからも貴賓室で寛ぎ、いろいろな話を交わす仁たち。

 気が付けばポトロックの空は夕焼けで茜色に染まり、翌日も好天であろうことを期待させていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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