挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

1446/1472

39-31 報告会その1

「遺跡内部は、かつて訪れた時と何も変わっていないように見えました」
 ポウル・レイドの言葉に、ほう、というような安堵の溜め息を吐いた者もいる。
「お察しのとおり、あれ以降超巨大蟻(ギガアント)は現れていないということですので、我々としても安心して調査をすることができました。もちろん、油断はしておりません。万が一のことは考えながらの調査です」
 皆、真剣に耳を傾けている。
 が、ここで声が上がった。
「申し訳ない。先程、『超巨大蟻(ギガアント)が封じ込めてあった』と言っていたと思うが、何か根拠があってのことでしょうか?」
「失礼しました。それはにつきましてはこの先で説明いたしたく、まずは報告を続けさせていただきます」
 一礼してポウル・レイドは話を続ける。
「あれだけの遺跡が、単に超巨大蟻(ギガアント)を封じ込めていただけではないだろうというのが調査隊メンバーの考えでした」
 そしてこれは、エゲレア王国本国も同じ考えであった。
「丸2日調査しましたが何も成果がなく、我々は考え方を変えるべく、頭を寄せ合って相談いたしました」
 この、日記を読むかのような時系列に沿った説明は、騎士の特徴なのだろうか、と仁は説明を聞きながら頭の片隅で考えていた。
 そしてそれは正解である。騎士、少なくともエゲレア王国の騎士の報告は、こうした日記風に行うのが慣例なのだから。

「その結論として、超巨大蟻(ギガアント)を封じていた洞窟とは別の場所に、何らかの手掛かりがあるのではないか、ということになりました」
 それは正しい推論である、と仁は思った。超巨大蟻(ギガアント)を封じているその場所に資料などを置くはずがないからだ。
 また、あまり離れた場所というのも考えづらい。資料を置く意味が薄れるからである。

「そしてまた丸2日、探し回りました。今度も駄目か、そう思いかけた矢先のことです。隊員の1人が、おかしなものを見つけたのです」
 皆、咳一つせずに耳を傾けている。仁はそれが何かを老君から聞いたので知っていたが。
「それは、真球に研磨された魔結晶(マギクリスタル)でした。……魔結晶(マギクリスタル)を真球にする意味は、ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、1つはゴーレムなどの制御核(コントロールコア)、もう1つは麻痺の杖(スタンロッド)などの魔導具の(コア)です」

 実は、仁が知る限りもう2つある。それは障壁(バリア)発生の魔導具の極とする場合と、魔力探知機(マギレーダー)の探知部に使う場合だ。
 いずれも、全方向に同じ強度で魔力線を放つため真球に研磨される。

「いずれにしても、人工的に研磨された魔結晶(マギクリスタル)が見つかったということは、近くに人工物が隠されているということ。我々は、暮れかかる空の下、付近一帯を捜索しました」
 そのあたりのことも、仁は老君から聞いていた。
「そして、辺りが暗くなる前に、地中に埋もれている空洞を発見したのです」
 おお、という声がそこかしこから漏れた。
「さすがに夜の闇の中、発掘するのは憚られたので、その日はそれまでとし、翌日早々に発掘を開始しました」
 そこに待ったが掛かった。
「ちょっと待ってくれ。地中の空洞を見つけたといったが、どうやって見つけたのだね?」
 その質問をしたのはジュードル防衛相であった。
「失礼しました。……我々は長い槍状の『調査棒(ゾンデ)』を持っておりまして、それを用いて地面を突き刺して調べていったのです。その結果、地中1.5メートルほどの深さに空洞があることを発見しました」
 仁はこれを聞いてなるほどと思った。老君からはその点については詳しく聞いていなかったのである。
 話を総合すると、調査棒(ゾンデ)とは、長い棒の先端に土属性魔法『穿孔(ボーリング)』を付与した魔導具であった。
 『穿孔(ボーリング)』は土属性魔法上級の下で、大きな穴を開けるには大量の魔力素(マナ)を必要とするが、小さな穴なら消費量が少ないので使いものになるのだ。
(参考になったな)
 例えば、矢の先にこの効果を持たせておけば、大抵のものを貫通する矢ができそうである。

「……先に空けた穴を通じ、中に危険なものはないことを確認していましたので、全員で発掘に取りかかりました。そして、3時間ほどで目的の空洞を掘り当てることができました」
 仁は考えを中止し、再び聞くことに専念する。
「そこは、元は地上一階建てもしくは半地下の建物だったようです。それが長い年月の間に土に埋もれたのか、あるいは超巨大蟻(ギガアント)を封じ込める際に埋められたのか、それはわかりません」
  聞く者たちも興味をそそられている。
「埋もれていた建物の中は思ったよりも綺麗でした。密閉状態だったからでしょう」
 今回、数百年ぶりに日の目を見たわけだ。
「中には若干の資料がありました。そこには、超巨大蟻(ギガアント)の脅威についてと、ゴーレムの設置について書かれております」
 ほう、という声が上がった。
「詳細につきましては専門部署に任せたいと思いますが、おおよそのところを説明させていただきます。……超巨大蟻(ギガアント)は、巨大蟻(メガアント)の突然変異種らしいです」
 それは仁たちも認識していた。
巨大蟻(メガアント)が何らかの理由で巨大化し、凶暴化した魔物……それが超巨大蟻(ギガアント)ということになります」
 仁たちは、その『何らかの理由』というものが、濃すぎる自由魔力素(エーテル)にあると思っている。
 細胞内で余剰に作り出された魔力素(マナ)は、人間の場合は『魔力過多症』を引き起こすのに対し、巨大蟻(メガアント)の場合はさらなる巨大化を促すようなのだ。
 魔物といわれる生物の多くは、自由魔力素(エーテル)の偏在によって発生したものではないかと仁たちは思っていた。

「鉱山の奥から現れたこの魔物は、被害を出しながらも封じ込められ、押さえ込むためのゴーレムを配置。さらに、他に穴を空けて地上へ出ないよう、誘引剤の役目を果たす魔結晶(マギクリスタル)を大量に積み上げ、超巨大蟻(ギガアント)が他へ行かないよう仕向けたとのことです」
 手前から見つかった大量の魔結晶(マギクリスタル)にはそういう意味があったのだった。

「説明が前後致しますが、『超巨大蟻(ギガアント)が這い出してきた』などと言うべきところを『封じこめた』という言い方をしましたのは、この記録を読んだからであります」
 ポウル・レイドは補足説明をした。
「ゴーレムにつきましては、ご存知のとおり、這い出してきた超巨大蟻(ギガアント)に対抗するためのものでした。そして、資料にはそのゴーレムについて書かれていたようです」
 自分はゴーレムについての詳細は語れないと、この項目についてはめるポウルであった。

 それからは戻ってくるまでの簡単な報告がなされ、
「以上で報告を終わります」
 との言葉でまずは終了。
「質問がある方はどうぞ」
 進行役のウィリアム・ヘクス・サールド内務相が会場を見渡しながら言った。

 まずは騎士らしき男が挙手をした。
「どうぞ」
「はい。……以前は歩いて遺跡へ行ったと思いますが、今回は空からでしたね。どうやって目的地を特定したのですか?」
 なかなかいい質問だ、と仁は思った。仁たちは『マーカー』を用いたり、観察用衛星『ウォッチャー』を使ったりできるが、彼等はどうやったのであろうか。

「その点は別途報告する予定でしたが、ちょうどいいのでこれよりご説明致しましょう。……仰るように、地上と空中では、自分のいる位置の把握方法が異なります。といいますより、空中での位置把握は非常に困難です。町などでしたら、目立つ建物を目標物にすればいいのですが、未知の土地や、変わり映えのない森林上空ではそれもままなりません」
「うむ」
「そこで我々が取った方法は、飛行船に搭載されている『方位磁石コンパス』を使って方角を知ると共に、途中こまめに目印を設けることでした。目印には、『一際大きな木』『一際大きな岩』『池や沼』『川』等を利用し、それとわかるように加工したり印を刻んだりしました」
 仁は、森を行く木樵などが、木の幹に鉈目なためを入れて目印にしたという話を思い起こした。
「時間は掛かりましたが、今の自分たちには他のやり方も思い付けず……」
「わかりました。ありがとう」

 これは、船で外洋を航海する時にも通じるはずであった。
 『方位磁石コンパス』は、ショウロ皇国の大型船には搭載されており、友好国のエゲレア王国も知っている。
 だが、航海術と呼べるものはまだまだ発展途上のようである。
 海路に灯台が役に立つように、空路にもそういった『目印』があってもいいな、と仁は考えていた。

「その埋もれていた部屋の壁や床はどんな材質でできていたのですか?」
 別の者から質問が出た。
「はい。私どもは専門家ではないのでわかりかねますが、比較的軟らかな石でした」
 仁はその石材について知っていた。『大谷石』である。
 この石材は、旧レナード王国のそこかしこで採れ、加工しやすいために多用されていた。
 それで、
「エリアス王国のポトロックでもそういった石が使われていますが同じものでしょうか?」
 と助言をしておく。
「あっ、そうですね。私は行ったことがありますが、同じだと思います。助言、感謝します」
 進行役の内務相は仁に短く礼を言い、続けた。
「他に質問はありませんか?」
 技術系と思われる壮年の男が挙手をし、口を開いた。
「ゴーレムについての詳細は発表されるのでしょうか?」
「それに関しましては本日の午後といたします」
 そのやり取りを聞いていた仁は、男の名前を思い出した。
(確か、ジェード・ネフロイといったか。『タウロス』を作った魔法工作士(マギクラフトマン)だっけかな)
 ブルウ公爵のところで少し話をしたことがあったのでなんとなく憶えていたのである。
「それは楽しみだ」
 本当に嬉しそうな顔でジェード・ネフロイは席に着いたのであった。

 その後も幾つか質問と回答がなされ、話題も出尽くしたところで午前の報告会は終了となったのである。
 技術的な報告は、別の担当が午後に行うということであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ