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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

1444/1503

39-29 アスント見物

「ここがメイン通りです」
「わあ、凄い!」
 エゲレア王国首都アスントの中央通りは、それこそ現代日本でいう10車線道路くらいの幅がある。
 中央には儀礼用の歩道が設けられ、その両側には街路樹が植えられており、例えるなら鎌倉は鶴岡八幡宮の参道、段葛だんかずらに少し似ていた。
 その部分は貴族以上の身分の者が王城に向かう、あるいは退出する時に使うもので、普段は閉鎖されている。

 そうした説明をリアンナから受けつつ、仁一行はアスント見物を開始していた。

「服飾の店はどうでしょうか?」
 エルザやハンナ、リシアの興味を思い、仁が聞くと、リアンナはすぐに返事をくれた。
「はい、ございます。こちらです」
 中央通りの中でも一等地にある店に一行は案内された。
「わあ……」
 エゲレア王国のデザインは、ショウロ皇国やクライン王国とはやや異なる。
 機能重視のショウロ皇国、気候上防寒に偏るクライン王国に比べ、開放的で装飾が多めなのだ。
 これは女性にとって見逃せないようで、エルザ、ハンナ、リシアはブラウスや上着類を手に取ったり試着したりしてはしゃいでいた。

 一方仁は、女性陣のはしゃぎっぷりは理解できるものの、最後まで付き合うには少々辛いものがあった。
 それでそっとリアンナに、
(「魔導具の店は近くにないだろうか」)
 と尋ねてみる。
(「はい、ございます。2軒隣がそうです」)
 と答えが返ってきたので、リアンナとエドガーにあとのことは任せ、仁はそっと店を抜け出した。お伴は礼子だけである。
「ああ、やっぱり苦手だ」
「ふふ、お父さまはやっぱりああしたお店は合わないのですね」
 礼子が微笑みながら仁に言う。久しぶりに2人きりなので機嫌もいい。
「ここだな」
 店構えはかなり立派である。クライン王国のラグラン商会よりも上だ。
 店内の広さは学校の教室2つ分くらいで、半分ほどが商品の陳列棚。
 仁が店の中に入ってみると、10人ほどのお客がいた。その半数には店員が付いて説明を行っている。
 仁にも店員が寄ってきたが、ゆっくりと店内を見たいからと断った。

「ふうん、なかなか品揃えはいいな」
 武器、アクセサリー、生活道具、趣味のもの、等にコーナーが分かれており、それぞれ数種類から十数種類の品物が陳列されていた。
「お、ここにも冷蔵庫がある」
 見覚えのある魔導具に近寄ってみる仁。
「これはビーナの作だな」
 ブルーランドから仕入れた物のようだ。ちゃんとビーナ作の印も入っている。
 こうした魔導具を首都に卸しているということは、ブルーランドの経済状況は悪くないのだろう、と仁は考えた。もちろんこれ一つで断定はできないだろうが。
「お父さま、こちらもビーナさんの作のようです」
「どれどれ……お、これは」
 それは『温水器』。かつて、仁がブルーランドでビーナと共に露店で売るためのものを開発していた際に作ったもので、木の桶に発熱体を組み込んだものだ。
 だが、目の前にあるものはずっと洗練されていた。
 桶ではなく、『強靱化(タフン)』処理された陶器のかめになっており、簡易的に密閉されるため埃やゴミが入りにくく、熱効率も向上している。
「ははあ、瓶の底に発熱体を組み込んで焼き上げているのか」
 熱に強い魔導基板(プレート)を使えば、確かに陶器の焼成温度に耐えうる。
「ビーナも頑張ってるんだな」
 『仁ファミリー』として最近会っていないので、このような魔導具を開発していたことを仁は知らなかったのである。
「『ファミリー』のみんなと一緒に暮らせたらいいんだろうが……それは夢だな。現実的じゃない」
 皆、それぞれの暮らしがあるのだから。
転移門(ワープゲート)魔素通信機(マナカム)があるんだしな」
 必要があればいつでも連絡が取れるのだから、と仁は自分に言い聞かせた。

「お父さま、あちらも見てみましょう」
 そんな仁の心情をおもんぱかったのか、礼子は仁をアクセサリーコーナーへと誘った。
「ふうん……へえ……」
 こちらはある意味専門外なので、少し落ち込んだことも忘れ、仁は興味深く眺めていった。
「魔導具だから、一応いろいろな効果が付いているようだな」
 ブローチにはほんの僅かに『治療(キュア)』の魔法効果があった。
(これを付けていると、乗り物酔いくらいなら防げそうだな)
 仁はその発想に少し感心する。
(だけど、この品質だと、2年以内に効果が切れるだろうな……)
 ブローチに付けられた魔結晶だけでは、内包する自由魔力素(エーテル)が枯渇すればそれで終わり、というわけである。
(俺なら必要な時だけ発動するように構成するけどな)
 だが、そんな詳細な『書き込み』など、仁以外にできるわけもなく、このように大雑把な魔導具になってしまっていたのであった。

「こっちは武器か。短剣だな」
 武器屋ではないので、魔導具としての短剣くらいしかおいていないようだ。
「これは……ええ?」
 仁が『分析(アナライズ)』と『精査(インスペクション)』してみたところ、その短剣は『麻痺(スタン)』の魔法が発動するようになっていた。
(出会った時ビーナが持っていた『麻痺の杖』と同レベル、か……。もしかして製作者が同じなのかも)
 とはいえ、殺傷能力のある短剣に麻痺の効果を持たせる意味が仁にはわからなかったのだ。
「お父さま、かすっただけでも相手が麻痺するなら意味があるのではないでしょうか」
 小声で礼子が助言した。
「ああ、確かにな。ありがとう、礼子。すっきりしたよ」
 礼子が看破したとおり、かすったり触れたりしただけで麻痺効果が発動するので、こうした剣や槍に麻痺の効果があるというのは意外と重宝するのだ。

 そして仁と礼子は趣味のものコーナーへ。
「おお、ここは面白い」
 最も雑多な、もっともごちゃごちゃとした商品で溢れかえっている場所。
「でも魔導具じゃないんだな」
 本当に、単なる趣味のものコーナーなのであった。
「人形、ぬいぐるみ、それにこれは……何だろう?」
 卵の殻に顔を描いたようなものが幾つもあった。色使いはカラフルで、子供向けに見える。
「それは『お楽しみ(ファニー)(エッグ)』ですね」
「あ、リアンナか」
 気が付けば、エルザやハンナ、リシアもやって来ていた。
「卵の殻にお菓子を入れて、小さい子供にあげるんです。最近は、お菓子に混ぜて指輪などを入れる恋人も増えてきたと聞いています」
「へえ……」
 現代地球でいう『イースターエッグ』みたいな風習かな、と仁は思った。まあ仁もイースターエッグについては詳しくないのだが。

「ジン兄、これ、面白い」
 エルザが何かを見つけたようだ。
「あ、これ可愛い」
 少し向こうではハンナも陳列品を手に取っている。
「わあ、これ素敵です」
 そしてリシアも……。
 急に賑やかになった自身の周りに、仁は苦笑しつつも一人ではない幸せを感じていた。
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