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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

1441/1509

39-26 報告会

 2月25日は、グロリアたち調査隊の報告会だ。

 が、それが始まる前、ジェシカが仁たちの部屋を訪れた。
「おはようございます」
「おはようございます。何かあったんですか?」
「いえ、そうではなく。報告会の前に、昨日の結末を、と思いまして」
「ああ、そういうことですか」
 昨日の結末、つまりスリのキャブレラと、癒着していた警備兵レダーの取り調べ、そして処遇。
 2人は取り調べを始めるとぺらぺらと余罪を全て白状したという。
「昨日のようなやり口が11件。2人とも鉱山送りです」
 『犯罪者識別の首輪』を付け、最も辺境の鉱山の一つ、ピグモルド鉱山送りになるだろうという。
「迷惑を掛けた住民への補償もしたいのだが名前が分からなくて、見送らざるを得ません」
 残念そうにそう言うと、ジェシカは戻っていった。

「まずはよかった……のかな?」
「ん」

 そして時は過ぎ、いよいよ報告会である。
 大会議室に国王・宰相をはじめとする大臣たちや、騎士団長などの上位軍人、それに各地の領主といった重鎮が集まった。
 仁とエルザは来賓として、またリシアはトカ村の領主として参加している。
 国外からは、最友好国であるエゲレア王国から、ウィリアム・ヘクス・サールド内務相が仁同様来賓として参加していた。

「それでは、時間が来ましたので報告会を行います」
 進行役の宰相がそう告げると、調査隊隊長を務めたグロリアが立ち上がった。
「このたびの調査隊の隊長を任されました、グロリア・オールスタットです」
 一礼して、発表が始まった。

「我々はボッツファ遺跡の再調査を行いました。……そうです、昨年、『もどき』と呼ばれる怪物に襲われた遺跡です」
 会議室内が一瞬ざわめいた。
「まずは空中からじっくりと観察し、異常がないことを確認後、着陸。探知結界を張り、野営いたしました」
 一部からおお、という声が上がる。グロリアが同じ場所で大怪我をしたことを知っている者たちだ。
 過去の出来事がトラウマにならず、再度の訪問と野営ができたということに対しての驚きである。

「今回は野獣にも遭遇せず、落ちついた調査ができたと思います。しかしながら……」
 前回の騒動でかなりの部分が崩れてしまっていたこと、それ以外の場所ではめぼしい発見がなかったことを淡々と説明していく。
「成果といえるものは、石板が一つです」
 会議室の隅に置いてあったそれから、掛けておいた布を、グロリアの隣に座っていたパスコー・ラッシュが歩いていき、取り除いた。
「おおっ」
 小さな声が上がる。
 文字が掘られた単なる石板ではなく、『彩色』がなされていたのである。
「ご覧のとおり、半分は文字、もう半分は絵のようです。これが何を意味するのか、勝手な判断はしない方がいいと思い、ここに運ばせました」

「ふむ、これについて何かわかる者はいるかね?」
 宰相がそう言うと、皆一様に首を傾げた。

 仁は、老君から報告を受けていたので知っていたが、やはり現物を見ると驚きを隠せなかった。
 その石板に描かれた絵は、なんと『飛行機』の絵であったのだ。それも『ゼロ戦』らしき形状をしている。
 胴体は緑色に塗られ、日の丸が描かれているからまず間違いないだろうと思われる。
 とはいえ、かなり大雑把で、言うなれば子供の絵レベルであるが。
(まず間違いなく『賢者(マグス)』シュウキ・ツェツィに関係しているんだろうな)
 だが、不完全な絵であるし、説明することもできなかったので、ここでは口を噤んでいることにした仁なのである。

「……これも古の魔導機(マギマシン)なのだろうな。なかなか奥が深いものだ」
 誰かが呟きを漏らしたのを切っ掛けに、グロリアはまた説明を始めた。

「時間を掛けて探しましたが、他にめぼしいものは見つけられませんでした。今回の調査で、自分の力不足を実感した次第であります」
 本当に残念そうな顔をしているグロリア。
「こうした遺跡調査のエキスパートが育つことを切に願います。私からは以上です」
 一礼をしてグロリアは席に着いた。
「うむ、ご苦労。それでは、他の参加者からも少し話を聞くことにしよう。まず、パスコー・ラッシュから頼む」
「は、はい」
 グロリアの隣、パスコー・ラッシュが立ち上がる。少々緊張しているようだ。
「パ、パスコー・ラッシュであります。今回、図らずも遺跡調査隊に抜擢されたわけですが、見るもの聞くもの初めてのものばかりでありました」
 少々ではなくかなり緊張しているようだ。
「そ、そんな中、グロリア隊長の指示と判断は適切だったと思います。自分は未熟者ゆえ、遺跡調査よりも安全確認を担当したわけですが、もっと実力があればと痛感いたしました」
 それからも、報告というより感想の発表が続いた。
「次があれば、もっとお役に立ちたいと思う次第であります。以上です」
 一礼して着席したパスコーに、温かい拍手が贈られた。
「それではティファニー・バルダック、君はどうかね?」
「はい」
 調査隊の治癒士、ティファニーは立ち上がって、語り出した。
「今回の調査では、グロリア隊長の指示が適切でしたので、怪我人は出ませんでした。ですので治癒士としての私の出番はありませんでした」
 治癒の必要がなかった、それは喜ぶべきことである。
「調査行全体を通じて見た、私なりの感想では、こうした未知の遺跡を調査するためには、いわゆる『考古学』の知識人を一人伴うのがよろしいかと愚考いたします。以上です」
 ティファニーも一礼して着席した。

「ありがとう。さて、報告を聞くのはこれくらいにしておいて、次は質疑応答の時間としたい。グロリア、よいかな?」
「はい」
「うむ。では、まず私から質問だ。空を飛んでの移動について、気が付いたことはなかったかね?」
 さすが進行役の宰相と言うべきか。それは、グロリアたちも報告し損ねた項目だった。
「はい、報告しそびれましたね。申し訳ございません」
 隊長として、グロリアが代表で詫び、答え始めた。
「空……空路での移動は、所用時間が短縮され、野獣・魔獣の危険もないこと、それに地形の把握が容易なこと、これらが長所であります。残念ながら短所もありまして、それは道中の植生や生物が把握しづらいことであります」
「なるほど。よくわかった。……他に質問のある者は?」
「では、私から」
 仁が挙手すると、宰相は少し驚いたような顔をした。
「おお、ジン殿、どうぞ」
「はい、それでは。……ええと、今回の調査を通じて、飛行船の評価を聞きたいと思います。忌憚のない意見を聞かせて下さい」
「うむ、製作者として当然であるな。さすがジン殿、向上心に溢れておる」
「では私から。……移動速度は文句ありません。その有用性についても、いうことなしです。希望としましては、もう少し乗れる人数が多いといいのですが」
 ヘリウムでの浮揚であるから、どうしても積載量が限られてしまう。それは仁も承知していた。
「なるほど、ありがとうございます。次回作の参考にさせていただきます」
 とはいえ、既に『コンロン3』はヘリウム使用ではないのだが。

「私からもいいですか?」
「ええ、是非」
 ティファニーが挙手をし、発言を始めた。
「乗り心地はよかったです。一つ贅沢を言わせていただきますと、風が強いと揺れるんです。怪我人は出なかったんですが、乗り物酔いになった人がいました」
「なるほど、ありがとうございます。安定性の向上ですね」
 因みに、乗り物酔いになったのはパスコー・ラッシュらしく、顔を赤らめて俯いていた。

「それじゃあ、せっかくですのでパスコー殿、何かありませんか?」
 俯いているパスコーに、仁から水を向けた。
「え、ええと、それでは……」
 仁の顔色を伺うような態度でパスコーが口を開いた。
「上空から地上を援護してもらえると、安心感が増すと……思います」
「それは武器を搭載して欲しいという意味でしょうか?」
「そう……です」
「なるほど。参考にさせていただきます。ありがとうございました」
 仁からの質問は以上で終わった。

 それからも幾つかの質疑応答が行われ、この日の報告会は終わったのである。

*   *   *

「いろいろと参考になったな」
 ヘリウム系の飛行船に関して、安定性と浮力の向上が改良点であるということ。
 武器に関しては、当面は各国に任せたいと仁は思っていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170220 修正
(誤)いわゆる『考古学』の知識人を一人伴うのがよろしいかと愚行いたします。
(正)いわゆる『考古学』の知識人を一人伴うのがよろしいかと愚考いたします。
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