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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-25 お忍び3

「いってえ……あっ、ジェシカ様!?」
 ジェシカ・ノートンは、顔・名前共に有名人である。
 近衛女性騎士隊隊長であると言うこと以上に、『優秀な』火属性魔導士だからだ。
 最近は、優秀『過ぎて』暴走気味な火属性魔法も、かなり落ちついてきたと言われている。

 それはさておき、ジェシカの顔を見たレダーの顔は引き攣っており、殴られた痛みも忘れてしまったようだ。
 そもそも、近衛女性騎士隊隊長がこんな町の警備兵詰め所に顔を出すことが希有けうなのだから。
 彼女の背後には、リシアだけでなく、5名ほどの近衛兵も見える。

「そ、それで、ジェ、ジェシカ様がこんなと、ところに何用があらせられますのでしょうか?」
 かなり挙動不審である。
「うむ、姫さまの知人が言われなき疑いをかけられたと聞いて飛んできたのだ」
「はあ、姫さま……ですか」
「姫さまだ」
「姫さま……姫さまって、リースヒェン王女殿下ですか!?」
「今、他に姫さまはおらんだろう」
「ひひ姫さまが!? こちらに?」
 レダーの顔は真っ青である。
「そうだ。……おい、どこへ行く?」
「うぎゃっ」
 こっそりと逃げ出そうとしていたキャブレラの襟首をジェシカは捕まえ、詰め所の中へと放り投げた。
「さて姫さま、お忍びもこれくらいになさいませ」
 そしてリースに向かって敬礼をした。
 その様子を見れば、『姫さま』が誰なのか、いやでも悟ろうというもの。
「えっ! こいつ……いや、このお方が王女殿下!!」
「そうだ。そのお方に貴様、先程何か言っていたな?『一晩泊まっていってもらうことになる』とかなんとか」
「お、お許しを!!」
 土下座するレダー。
「いや、(わらわ)と知らずに言ったこと、それ自体は責める気はない」
「おお……!」
「じゃが、明らかに犯罪者を庇い、無実の者を罪に陥れようとしたその行為は見逃すわけにいかぬ」
「ひい……!」
「レダー・マオエとキャブレラを拘束、連行しろ」
「はっ」
 レダーとキャブレラは近衛兵4名に連行されていった。
 残った近衛兵1名は、後任の者が来るまで、臨時にこの詰め所を預かることになるそうだ。

「ジェシカ、ご苦労であった。リシア、見事な気配りじゃったな」
 リースヒェン王女はジェシカとリシアを労った。
「ありがとうございます」
 リシアは恐縮して頭を下げた。
「姫さま、そろそろお戻りになりませんか?」
 ジェシカが少し渋い顔で言う。
 時刻はいつの間にか午後4時を回り、まだ日の短いこの季節、空は暮れ始めていた。
「うむ、わかった。……そうじゃジェシカ、金子きんすは持っておるか?」
「は? ……はい、少々でしたら」
「城に戻ったら返すので、金貨1枚、一時いっとき貸してもらえぬか? そこにおるローランドに人形を買ってもらったのでな」
「そういうことですか。わかりました。……ローランド殿、王女殿下がお世話になったようだ」
 礼を言って金貨を1枚、手渡した。人形の代価は980トールほどであったので、10倍以上だ。
「案内の礼と、迷惑料じゃ。今日はいろいろ世話になった」
「ありがたき幸せ」
 礼を言って、ローランドは金貨を受け取った。彼は、この金貨を記念に取っておこう、と思った。

 ローランドとはそこで別れて、仁たちは王城へと戻ったのである。

*   *   *

「ジン、今日は本当に勉強になった」
「それはよかった」
 仁たちは応接室で寛いでいた。
「あれが町の素顔なのじゃな……」
「スリが横行しているわけじゃないと思うからな? その辺ははき違えないでくれよ?」
「ふふ、わかっておる。しかし、警備兵にもたちが悪い者がおるのじゃなあ……」
「姫さまがそれをお知りになったことだけでも、本日のお忍びは価値がありましたね」
 ティアが目を細めて言った。
「うむ、そうじゃな……今日は勉強になった」
 そう言いながら、買ってもらった人形を取り出すリースヒェン王女。
 包み紙をがさがさと剥ぎ取り……。
「あああああ!?」
 悲鳴とも嘆息ともつかない声をあげた。
「お、折れておる……」
 脆い材質だったらしく、人形の胴体がぽっきりと折れていた。
「ああ、あの時か」
 スリのキャブレラが、人形を持ったローランドに突き当たった時しか考えられない。
「……」
「どれ」
 悲しそうな顔をするリースを見かねて、仁が手を差し伸べた。
「お、おおお! そうじゃ、ジン! 直してくれるのか!?」
「そんな顔されちゃ黙って見ていられないじゃないか」
 少しおどけたように言って、仁は壊れた人形を調べる。
「陶器じゃなくて乾燥した粘土に塗料を塗ってるのか。そりゃ脆いわけだ」
 素材を確認した仁は、折れた胴体を手で継ぎ合わせ、
「『接着(ボンディング)』」
 工学魔法で繋ぎ合わせた。
「よし、ここをもうちょっとこうして……『接合(ジョイント)』」
 微調整後、結合。そして、
「『強靱化(タフン)』」
 丈夫にしてできあがりだ。
「ほら、直ったよ」
「おお、ありがとう、ジン!」
「お姫さま、よかったね」
 ハンナも嬉しそうだ。
 礼子、エドガー、ティアもなんとなく顔が微笑んでいる。ただの人形とはいえ、やはり仁が修理したことが嬉しいのだろう。

 この日はその後、入浴。
 リースヒェン王女、ハンナ、リシア、エルザは一緒に浴室へ行った。
 仁は、さすがに堂々と礼子を連れて風呂に入るわけにはいかないので、エドガーに頼んだ。
 因みに、その代わりとして礼子がエルザに付いて行っている。

 蓬莱島ほどではないが、王城の浴室も十分な広さで、のんびり入浴ができた。
 そして仁たちとリースヒェン王女だけで夕食。
 食後は歓談をして就寝、という流れになったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 お知らせ
 19日(日)昼過ぎもしくは夕方まで、実家に帰省のため不在となります。
 その間レスできませんので御了承ください。

 20170221 修正
(旧)「いや、(わらわ)と知らずにいたこと、それ自体は責める気はない」
(新)「いや、(わらわ)と知らずに言ったこと、それ自体は責める気はない」
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