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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-20 街道の駅とは

「……のぼせた」
「馬鹿ね」
「済まんな、バーバラさん」
「いいえ、お義父さん」
「面目ない」
「お義祖父様、お気になさらないでください」
 温泉の中で長話をしたため、エリック、ローランド、ラグランの3人はのぼせてひっくり返っていた。
 今は、温泉に併設された談話室でバーバラが3人を介抱している。
 『癒し(フェルハイレ)』や『治療(キュア)』で治すこともできるだろうが、ここは敢えてバーバラに任せた仁であった。

*   *   *

「いやあ、面目ない」
「ごめん、バーバラ」
「ジンさん、今夜はありがとうございます」
 その夜は、ローランドとラグラン、ボーテだけでなくエリックとバーバラも二堂城に招待した仁。
 夕食の献立はカイナ村系でまとめた。
 大麦の粥、エルメ川で捕れた川魚の塩焼き、村で穫れた野菜を使ったシチュー、山鹿マウンテンディアーの燻製。
 また、山菜の天ぷら、味噌汁、焼きおにぎりも付け合わせ的に少量出した。
 お茶はペルヒャ茶。
 ただし調理と味付けはペリド101渾身の作である。
「これは美味しいですな」
 お粥や塩焼きの味付けも、ただの塩ではなく藻塩を使っているし、シチューにも出汁を使っている。
 燻製も、香りのよいクェリーのチップだけで作ったものだし、その他の料理も皆見えない所にも手を掛けていた。
「ジンさんはいろいろと手掛けてらっしゃいますなあ」
「そうだよ。父さん、僕もいろいろと教わることが多かったよ」
 王都におけるラグラン商会のヒット商品であるペン先とゴムボールは、今ではエリックが加工して送り出しているのだ。
「そうかそうか、エリックは魔法工作士(マギクラフトマン)としても成長しているのだなあ」
 商売を離れるとここまで変わるのか……と思わせるほどに好々爺然としているラグランなのであった。

「それでボーテさんが仰っていた、街道の話ですが」
 珍しく仁が気を使ってボーテに話題を振った。彼はテーブルの端で肩身が狭そうに、しかし美味そうに食事を咀嚼中であった。
「ふぉ!?」
 自分に話が来たことに慌てたボーテは、食べたものを喉に詰まらせてしまう。
「げほっげほっ」
 その様子を見て、ローランドとラグランは頭を抱えていた。

「ええと、ですね……」
 少しして落ちついたボーテは、訥々と話し始めた。

 要は、クライン王国の公共事業として街道整備が進められることになったというわけだ。
 その手始め、つまり第1期として首都アルバンからシャルル町までが対象となった。
 その際、第3王女リースヒェンが、
『アルバンからシャルル町までは、曲がりなりにも馬車が通れる街道が通っている。逆に、シャルル町からトカ村は整備が行き届いていない。なのでトカ村までを整備範囲としたほうがよい』
 と助言したということだ。
 さらに、この公共事業は、国だけでなく、商人たちからも寄付を募り、その対価として一定期間税を安くしてもらえるとのこと。
「わがラグラン商会も300万トール(約3000万円)を寄付しまして、向こう3年間は税が半額となっております」
 最後はローランドが説明してくれた。
「ですので、税が安い3年間に、少し大きな取引をしておきたいな、というわけでして」
 ボーテが付け加えた。
「あっ、こらっ」
「あいたっ」
 馬鹿正直に手の内を全てさらけ出すボーテの頭に拳骨が1発。
「お前はそれだから商人に向いていないといわれるんだ」
「す、済みません……」
「まあまあ、ローランド。それくらいにしておいてやれ。ジンさん相手に隠しごともないだろうからな」
「それはそうですが、こういう時に教育しておかないと、なかなか覚えませんので」
 お祖父ちゃんモードのラグランに対し、入り婿であるローランドは、こんな時にも部下の教育を怠らないのであった。

「ええと、それでどこまで話しましたっけ。……ああ、トカ村まで街道を整備する、という話でしたね」
 ローランドが引き取って説明を再開した。
「カイナ村はジンさんの領地ですので勝手なことはできませんので、手前のトカ村までを再整備するようです」
「なるほど」
「再整備といいましても、道路の凹凸をならすことが主で、場所によって道幅の拡幅をする、この程度ですが」
「……なるほど」
「あとは古くなった橋を架け替える、こういったところでしょうね」
「わかりました」
 舗装技術のないこの世界であるから、整備といってもその程度となってしまうのだろう、と仁は感想を持った。
 石畳にするにはとてもじゃないが予算が足りないだろうし、アスファルト舗装も、西の果てミツホから輸送してくるにはコストが掛かりすぎて無理だ。
 地ならしだけでもよしとしなければならないだろう。
「……せめて、『街道の駅』を整備すればいいのにな」
 仁がぼそりと呟いたその言葉に、ローランドは食い付いた。
「ジンさん、『かいどうのえき』とは何ですか?」
「ああ、済みません。ええと、街道の要所に設けた、無料の休憩所、といったところでしょうか」
「無料の……ですか?」
 商人としては無料、という点に引っ掛かるらしい。仁はそのことをすぐに悟った。
「ええ。そうやって利用しやすくしておいて、多くの旅人を誘致します。そこに店を置くんですよ」
「なるほど!」
「それはいいですな!」
 ローランドのみならず、ラグランも飛び付いてきた。
「休憩は無料にすることで多くの旅人が集まる。そこに、特に地元産の商品も置くと、宣伝にもなるんですよ。もちろん、特産物がないと駄目ですが」
「素晴らしいですね!」
 根っからの商人であるローランドたちには、仁の言う『街道の駅』がどれだけの可能性を秘めているか気が付いたようだ。
「水はただ、でも食糧や薬は有料で……」
「街道の情報もあれば……」
「それは国にやってもらうとして……」
「食堂の併設や、簡易宿泊所も……」
 すぐに2人で相談を始めたので、仁は苦笑する。
「父さん、お祖父ちゃん、失礼だよ」
 見かねたエリックが、そんな2人に注意した。
「お、おお、済まん」
「……ジンさん、失礼しました」
 フランクに接してはいるが、仁は領主である。ローランドとラグランは非礼を詫びた。仁は笑ってそれを許す。
「いいんですよ。それより、そうした提案を国にしておいてもらえますか?」
「いえ、それはジンさんがご自分で王国に提言なさるのがよろしいかと」
「ええ、そのとおりです」
「……そういうものですか」
 仁としては面倒事はしたくないのだが、クライン王国には知り合いも結構いるので、今回は仕方ないと重い腰を上げることにした。
「なら、ハンナも連れて行ってあげるか……」

 クライン王国首都アルバン行きを決めた仁であった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170214 修正
(誤)そうやって敷居を低くしておいて、多くの旅人を誘致します。
(正)そうやって利用しやすくしておいて、多くの旅人を誘致します。
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