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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

1434/1564

39-19 温泉の中で

「報告……ですか?」
 興味を持った仁が少し身を乗り出すと、
「はい。実は、トカ村まで街道を再整備することが決まったのです」
「それはいいですね」
 街道が整備されれば、行き来が楽になり、街道沿いにある村や町の発展にもつながる。
 懸念事項は、逆に人が流出しやすくなったことによる過疎、であろうか。
 だが、それについては、クライン王国においては、領主の許しを得ずに一家が移住することは禁じられているので、いきなり過疎化する心配はないだろう。
 とはいえ、家長、嫡男以外の次男三男、また娘には当てはまらないのだが。

 閑話休題。
「1月前、クライン王国の首都アルバンからシャルル町への街道を整備する、というお触れが出されまして」
 ローランドが説明してくれる。
「それならトカ村まで延長したほうがよい、と王女殿下が進言なさったそうなんです」
「リースヒェン王女が?」
「はい。……カイナ村は『崑崙君』のものであるから、その手前まで、ということらしいです」
「なるほど」
 おそらく老君は把握していたであろうが、仁は聞かされていなかった。
「それが完成すれば、こちらへ来るのも楽になりますし、トカ村も発展するのではないでしょうか」
「だといいですね」
 逆に人の流出で過疎化する心配もあるのだが、この場でそれを口にする仁ではなかった。

 一通り話が済んだので、仁は仕切り直すことにした。
「まだ日は高いですが、何か御希望はありますか?」
 時刻は午後3時。
「そうですな、やはり孫の店へ行ってみたいですな」
「お義父さん、いいですね」
 祖父と父が賛成している。
「私は少しのんびりしたいです」
 ボーテはずっと御者をさせられていたようで、疲れた顔をしていた。
「それではボーテさんは部屋で寛いでいて下さい。お世話はゴーレムメイドがいたします。……ルビー101、頼むぞ」
「はい、承りましてございます」

 こうして、ボーテは二堂城でのんびり。ローランドとラグランはエリックの店へ行ってみることとなった。
 仁と礼子が案内していく。
「雪はあまりないんですね」
「いえ、降りましたけどちゃんと除雪しているんですよ」
 雪は雪室に入れておき、夏に利用する、とも説明する。
「ははあ、すごい発想ですね」
 ローランドは感心し、ラグランは感銘を受けたようだ。
「いやいや、ジンさんはすごい発想をなされますなあ。さすが魔法工学師マギクラフト・マイスターでいらっしゃる」

「あ、おみせやのおじちゃんだ」
 一行を見つけて、村の子供が手を振る。
 カイナ村の子供たちはローランドのことを『おみせやのおじちゃん』と呼んでいる。
「あ、おにーちゃん。……と、行商のおじちゃん」
 が、ハンナはさすがにもうそうは呼ばず、『行商の』と呼んだ。
「やあハンナ。ローランドさんは知ってるよな。こちらはラグランさんっていうんだ。エリックのお父さんとお祖父さんだよ」
「あ、そうなんだ!」
 そして、
「ええと、エリックのおにーちゃんとバーバラおねーちゃんだったら、今温泉に行ってるよ?」
 と情報を教えてくれた。
「ああ、そうか。ありがとう」
「うん」
 仁はローランドとラグランに向き直る。
「お2人は今、温泉だそうです。そっちへ行ってみますか? それとも出てくるのを待ちますか?」
 これにはローランドが即答した。
「ジンさん、義父も是非温泉に入れてあげてください」
「わかりました」
 仁は行き先を変更し、温泉へと向かった。
 温泉にも、振りの客用にタオルが用意されているので問題はない。
「おやジン、お客さんかい? あら、ローランドさんじゃない。お久しぶりね」
「ご無沙汰しております」
 温泉の入口で、出てきたおかみさんとすれ違う。
「バーバラがいたから、きっとエリックもいると思うよ」
 そう言い残して去っていった。

「では、入りましょう」
 ローランドは入ったことがあるが、ラグランは初めてである。
「ああ礼子、向こうにバーバラがいると思うんで、こっちのことを説明しておいてくれ」
「はい、わかりました」
 エリックが遅くなっても心配しないように、との気配りだ。

「ほう、これはこれは」
 脱衣所を見てラグランが目を見張った。
「広いですな。それに雰囲気がいい」
「このタオルを使ってください。それから、脱いだ服はこの籠に入れて、棚に置いておくんです」
 カイナ村は治安がいいのでロッカーではない。単なる棚と籠だ。
 もっとも、『庚申』の目がここにも光っているのだが。
 ゆえに、盗みや覗きはできないのだ。

 浴場に入ると、数人の村人と……。
「父さん!? それに、お祖父ちゃん!」
 驚いた顔のエリックがいた。
「久しぶりだな、エリック。……うむ、いい顔になったな。一人前の顔だ」
「え?」
 ラグランは湯船の中でエリックの顔を見、開口一番褒める。
「独り立ちしてどうしているかと思ったが、頑張ってるようだな」
「う、うん?」
 普段は厳しい祖父が予告なしにいきなり現れ、褒詞を口にしたことでエリックは混乱している。
「エリック、温泉から出たらゆっくり話をしよう」
「うん……父さん」
 祖父に対してとはうって変わって、ローランドとエリックは静かに会話が成り立っている。

「……なあジン、あれ、誰だ?」
 温泉に浸かりに来ていたロックが、小声で仁に尋ねた。
「ローランドさんは知ってますよね。もう1人はエリックのお祖父さんですよ」
「ああ、孫に会いにきたのか。それに嫁の顔も見たくなったというわけだな」
「そういうことです」
 仁とロックは湯船の中で少しエリックたちから距離を取っている。
「しかしあの爺さん、いい身体してるな。商人とは思えないぜ」
「昔は準男爵で、軍にもいたとかいないとか」
「すげぇ経歴だな……」
「でも、商売を離れれば孫とお祖父ちゃんじゃないですか」
「まあなあ……」
 温泉に浸かりながらいろいろと話を交わすその様子は、やはり血の繋がった祖父と孫、父と子であることを感じさせた。
 仁はその様子を見て、少しだけ羨ましく思ったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170213 修正
(旧)「やあハンナ。こちらはローランドさんとラグランさんっていうんだ。エリックのお父さんとお祖父さんだよ」
(新)「やあハンナ。ローランドさんは知ってるよな。こちらはラグランさんっていうんだ。エリックのお父さんとお祖父さんだよ」
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