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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-16 あっちもこっちも

 ランドル家に泊まった翌日、2月19日。
 仁は礼子をお伴に、ラインハルトの領地、カルツ村へ向かった。
 『コンロン3』で5分足らず。移動時間よりも離着陸に掛けた時間の方が長いくらいだ。
「ようこそ、ジン!」
 領主の家、『蔦の館(ランケンハオス)』ではラインハルトと彼の愛妻ベルチェが仁を出迎えた。
 まだ寒いのでユリアーナは家の中である。
「ラインハルト、ロイザート以来だな」
「まあ、中に入ってくれ」
「うん、ありがとう」

 通されたのは応接室。
 そこにラインハルト作の自動人形オートマタ、『ベラ』がお茶を持ってやって来た。
「どうぞ」
「ありがとう」
 この『ベラ』も、ラインハルトにより改良を受け、今では人間そっくりの動きをしている。
「うん、うまい」
 淹れるお茶の味も、お客の好みに合わせられるまでになっていた。
 因みに仁はやや濃いめのほうじ茶。もちろん温度は少し冷ましてある。
「それで、相談事というのは?」
 ほうじ茶の香りを楽しみながら、仁が尋ねた。
「うん、実は……」
 ラインハルトはゆっくりと話し始めた。

「盗難?」
 仁は驚いて聞き返した。
「そうなのさ。最近、備蓄しておいた穀物の盗難が相次いでいると、村人から訴状が上がっているんだ」
 当然領主としては犯人を捜し、盗まれた穀物を取り返すべく手を打った。
 だが、捜索を始めて1週間、未だに手掛かりさえ得られていないという。
「不本意だが、ジンの協力を頼みたいんだ。……できれば自分たちだけで、と思ったんだが」
 ことが村人の生活に関わるので、打てる手は打ちたい、と言うラインハルト。
「頼むよ、ジン」
 もちろん断るような仁ではない。
「わかった。手伝うよ」
「ありがとう」
「こうした場合、蓬莱島のバックアップは正直有り難いよ」
 半ば反則チートなのは承知の上、それでも住民の不利益は黙って見過ごせないラインハルトであった。

「そうすると、どうやるか、だが」
 ラインハルトは腕組みをして考え始めた。
「俺としては、マーカーを付けた穀物をわざと盗ませて追跡するのが手っ取り早いと思うんだがな」
 マーカーさえ付いていれば、『魔力探知機(マギレーダー)』で追跡できるのだ。
「確かに。と言うか、それで済みそうだ」
 ラインハルトは笑う。
「ジンと蓬莱島の技術があれば、なんだかとても簡単な事件のような気になってきたよ」
「それにしても、まだ盗賊みたいな連中がいるんだな」
「残念だけどね」
 ということで、仁とラインハルトは細かな打ち合わせを開始した。
 礼子と、礼子を通じて老君も参加し、詳細が詰められていく。
 とはいうものの、不確定要素が多いので、3分の1くらいは臨機応変に動く必要があるのだが。

「まずは、盗難にあった地域を地図上に記してみよう」
「そうだな」
 仁の提案に、ラインハルトはカルツ村周辺の地図を取り出し、テーブルに広げた。
「ここと、ここ、それにここだ」
 ラインハルトが印を付けた箇所は、いずれも村の北側で、森に面した倉庫であった。
「7箇所の倉庫に穀物を分散させて備蓄しているんだ。これまで3箇所がやられた。これ以上やられたら、次の収穫前に食糧が不足してしまう」
「うーん、特に規則性があるわけでもないな。とにかく、4箇所全部の穀物にマーカーを付けてしまおう」
 具体的には、倉庫内の穀物袋に蓬莱島産の穀物を少し混ぜておくだけだ。
 蓬莱島産の作物は、穀物、果実など全てにおいて『自由魔力素(エーテル)』含有量が高い。
 十分にマーカーとして役に立つのである。
「なるほど」
 そこで仁は、ラインハルト邸に設置してある転移門(ワープゲート)を使い、蓬莱島から小麦と大麦を取り寄せた。
「これを各倉庫に配ろう。そして、戸締まりをより厳重にしておこう」
「うん? どういうことだい?」
 仁の提案を、ラインハルトは理解できなかったようだ。
「ええとな、これだけ盗難が続いているんだから、警戒しないというのはかえっておかしいだろう?」
「ああ、そういうことか。確かに、警戒を強めるのが普通だな」
「そういうこと。いかにも罠があります、と思われたら意味がないしな」
「わかったよ。そうしよう」
 施設時代に見た刑事もの、また時代劇捕物帖などを参考にした仁であった。

*   *   *

 それから丸1日が経ったが、何ごとも起きなかった。
「うーん、諦めたのかな?」
「いや、1日くらいでそんな判断はするべきじゃない。もう少し様子を見よう」
 ラインハルトは、昼間は日常の業務があったので、仁はラインハルト邸にいる間、一旦蓬莱島に戻ってサキの話を聞くことにした。

「やあジン、破片解析、ほぼ終了したよ」
「おお、好都合だ。聞かせてくれるかい?」
「もちろんさ。まず、集めた破片の半分強は、『ペンゴルタ』の衛星のコアの部分だったんじゃないかと思われるんだけどさ。金属元素のうち鉄とニッケルが72パーセントを占めていた」
「それは割と使えるな」
「だろう? ……で、残りがマンガン8パーセント、バナジウム6パーセント、モリブデン3パーセント、クロム2パーセントってところかな。小数点以下は四捨五入してあるよ」
 いずれも、鉄に加えると高性能な合金を作れそうな元素だった。
「それは朗報だ」
「くふ、だろう? で、あとは、アルミニウム、チタン、マグネシウム、リチウムがそれぞれ2パーセント弱。残りは金、銀、白金族、鉛、亜鉛がそれぞれ1パーセントだ」
「アルスとは分布が違うのかな」
 仁が言うと、サキは頷いた。
「そんな感じだね。あとはカルシウム、カリウム、イオウ、リン、珪素などが0.3パーセントってところだね。そして残りの微量な元素を加えると、周期表にあるウラン以下の元素のほとんどは含まれているようだよ。人工放射性元素はないけどね」
「ええと、人工じゃない放射性元素も……かい?」
 ちょっと心配になった仁が尋ねると、サキはにこりと笑って頷いた。
「うん、ウランやラジウムも0.001パーセントくらいあったみたいだ。それはもちろんボクが調べたんじゃないけどね」
 仁は胸を撫で下ろす。
「それを聞いて安心したよ」
 解析に夢中になるあまり、被曝でもしていたらと気が気ではなかったのだ。
「くふ、老君のおかげだね。そうした放射性元素はユニーの特定の場所に深い穴を掘って保管しているよ」
「そうか、それなら安心だ」
 金属元素系がおそらく『ペンゴルタ』の衛星の破片であるとすれば、『長周期惑星』モデヌの破片はどうか、ということになる。

「『長周期惑星』モデヌの破片と思われるものには、魔結晶が多かったね。ユニバシウムもかなりあったよ」
 これもまた、有用な資源となる。
「これも、純度の高いものから優先させてユニーに保管してもらうことにした」
「ああ、それでいいな」
 仁が大量の資材を必要とする時はそこから持ってくればいい。アルス産の資源を使わなくても済むわけだ。

 鉱物資源的には、向こう数百年分以上の備蓄ができたと考えてよい。
 自由魔力素(エーテル)の浪費もなくなった今、資源の面においてアルスの未来は明るかった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170210 修正
(誤)「仁と蓬莱島の技術があれば、なんだかとても簡単な事件のような気になってきたよ」
(正)「ジンと蓬莱島の技術があれば、なんだかとても簡単な事件のような気になってきたよ」

(旧)周期表にある元素のほとんどは含まれているようだよ」
(新)周期表にあるウラン以下の元素のほとんどは含まれているようだよ」
 ネプツニウムより先は人工的に作ったらしいので。

 20170211 修正
(旧)周期表にあるウラン以下の元素のほとんどは含まれているようだよ」
「ええと、放射性元素も……かい?」
(新)周期表にあるウラン以下の元素のほとんどは含まれているようだよ。人工放射性元素はないけどね」
「ええと、人工じゃない放射性元素も……かい?」

 20170331 修正
(旧)「ラインハルト、ミツホへ行って以来だな」
(新)「ラインハルト、ロイザート以来だな」
 39-11 で会ってました orz
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