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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-14 ニア

「レナード王国を流行り病が襲いました。それは『魔力性消耗熱』といって……」
「全土に広がった病は最早止めようがなく、この地の人々も皆……」
「私は、せめて、この地で培われた知識と、いくつかの技術を後世に遺すために作られたのです……」

 ゴーレムの過去語りは老君も傍聴していたが、特に目新しい内容はなかった。
 以前旧首都ディアアの地下で聞いた内容と大差なかったからだ。
 それよりも、ゴーレムが語る過去以外の情報の方がよほど役に立ちそうである。

「空気清浄装置は……」
「時を計測する道具……」
「私を作っている金属は……」

*   *   *

 この3つが、蓬莱島としても目新しかった。
「ふうん、面白い考え方だな」

 まず1つめの『空気清浄器』。
 これはおそらく『魔力性消耗熱』対策のために、ギリギリになって開発されたものと思われる。
「一旦吸い込んだ空気を高温にして滅菌、冷却して吐き出すわけか」
 この時の温度はおよそ600度。埃などは燃え尽きてしまうだろう。
 が、より融点の高い金属粉や石の粉などには無効な上、エネルギー効率が悪すぎる、と仁は感じた。

 2つめ『時を計測する道具』。
 これは、一言で言えば『水時計』であった。
 色を付けた水が、透明な容器から流れ出していき、その減り方で時間を知るもの。
 容器は2つに分かれており、片方が空になるともう片方が満杯になるので、上下を入れ替えればいい。
 この道具は時刻を知るというよりも、経過時間を知るためのものであった。
「実験や料理なんかに使っていたのかな?」
「お父さま、訓練時間の測定にも使えそうですね」
 キッチンタイマーやストップウォッチ的な使い方をしていたのかもしれない、と仁は思った。

 3つめ。
「『ゴーレムを作っている金属』か。……この組成はジュラルミンだな」
 アルミニウムと僅かな銅、マグネシウムの合金で、現代日本でA2017と呼ばれる合金にごく近いものであった。
 ただし、耐食性がやや劣るため、あのゴーレムの表面は輝きを失っているものと思われた。
「アルマイト処理してないからなあ」
 仁が少しだけピントの外れた感想を呟いた。
 アルマイト処理は、表面に酸化アルミニウム(アルミナ)の膜を作る処理である。硬度が高く、部材を傷や腐食から守ってくれるものなのだ。

「それにしても、転移門(ワープゲート)の技術に関しては遺されていないんだな……」
 そんな仁の呟きに、老君が答えた。
御主人様(マイロード)転移門(ワープゲート)につきましては、魔導大戦時の少し前に軍事用として制定されて以来、民間での保有ができず、失伝したものとみられます』
「そうなんだな。……確かに、転移門(ワープゲート)の技術は、軍を送り込むのに最適だが」
 食糧や資材についても同様である。
 そういった意味で、今現在セルロア王国が再開発した転移門(ワープゲート)が、エネルギー効率が悪く、実用まであと一歩ということは喜ぶべきなのかもしれない。
「『世界会議』と『世界警備隊』ができあがったなら、『魔導大戦』のような過ちを繰り返さないで済むだろう」
 希望的観測と言われようと、仁はそうであって欲しいと願わずにはいられなかった。
「あとは、あの謎かけからして、『賢者(マグス)』シュウキ・ツェツィの情報を持っているんじゃないかと思ったんだがな」
御主人様(マイロード)、それはさらに認証鍵(パスワード)を掛けて封印されている可能性があります』
「そうか。それなら今後の課題だな」
『はい』

*   *   *

「なかなか役に立つ情報が得られましたわね」
「そうだな、エレナ」
 エレナとドナルドは知識を増やすことができたのでほくほく顔である。
「もう質問はありませんか?」
 ゴーレムが尋ねてきた。
「そうだな……もうない、と言ったらお前はどうするんだ?」
「休止することになります」
「そうか。……この地下室の保持はどうなっているんだ?」
「あなた方が入って来たホールに、専用のゴーレムがいるはずです」
「え?」
 そのようなものは見なかった、とドナルドは告げた。
「この部屋は向こうよりも埃っぽかったですよ? 本の保存には適していないのではないでしょうか?」
 エレナも事実を告げる。
「そうですか。……時の流れのせいですね。それは摂理です。時が私に『朽ち果てよ』と言うのなら、それに従うのみ」
 ゴーレムは、いやに達観したようなセリフを口にした。
「待て待て。それはいかにももったいない。お前は今の世に大きな貢献をしてくれそうなんだが……」
「それを御希望なさるのでしたら『制御装置』をそう設定してください」
「『制御装置』? これか?」
 謎かけをしてきた魔導具。ドナルドがそれを制御装置であると判断したことは正しかったようだ。
「それです」
「使い方は教えてもらえるのか?」
「はい。まずは、画面の右下の……」
「ふむ」
 ゴーレムの指示に従って、制御装置の設定を変更していくドナルド。

「それで終了です」
「そうか」
 ほっとするドナルド。
「できましたら、私に名前を付けてください」
「そうだな……エレナの妹分みたいなものだから……エレナ、君が付けてやってくれないか?」
「私でいいんですの?」
「頼むよ」
 ドナルドに乞われたエレナは少し考え込む。そして、
「では、ニア、と」
「わかった。……お前は今からニア、だ」
「はい、ありがとうございます。私はニア、です。ご主人様、これからよろしくお願いいたします」
 こうして、思わぬ経緯いきさつから、ドナルドは情報ゴーレムを手に入れることができたのである。

「そろそろ日が落ちるわ。ドナルド、ここを出ましょう」
「そうだな。ニア、持ち出すものは何と何だ?」
「ここの資料は、全て私が記憶しています。ですので、制御装置だけを持ち出してください」
「わかった」
 護衛兵が制御装置を背負った。
 そしてニアを含めた一行は、護衛兵が設置し直した縄梯子を使い、地上へと戻った。
「月日の流れは、このように風景を一変させてしまうのですね」
 地上の様子を確認したニアは淡々とした口調でそう言った。
「そうだ。ニア、他に情報が得られる場所はあるか?」
「はい。私の情報のままであれば、50メートルほど先に、研究所があったはずです」
 だが、そこに見えるのはつる草に覆われた廃墟。
「うーん、中身が無事かどうかわからんな。いずれにせよ、今日はもう暗くなる。明日にしよう」
 ドナルドはそう断言し、一行は野営をすることとなった。

 ニアは魔導大戦の後に作られたゴーレムなので、現状の自由魔力素(エーテル)濃度に適応しており、動作は問題ないようだった。
「どこか調子の悪い箇所はないか?」
 ドナルドが尋ねると、ニアは首を振った。そんな仕草はちょっと人間っぽい。
「いえ、今のところ問題はございません」
「そうか。それならいい。……後でいいが、お前の構造を解析させてもらえるか?」
「もちろんです、ご主人様」
「そうか、それは楽しみだ」

 そんなやり取りの影で、エレナが少し膨れていたことに気がついたのは護衛兵だけであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170208 加筆
 冒頭に3行(空白改行も入れれば4行)、ゴーレムの語りを追加しました。
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