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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-11 精錬の改革

 2月15日、仁とエルザ、そしてラインハルトは、ショウロ皇国宮城(きゅうじょう)内、上級工房にいた。
 女皇帝に『精錬の魔導具』完成の報告するためである。お伴は従騎士の礼子とエドガーのみ。
 礼子には試作品を、エドガーには試験用の鉱石を運んでもらっている。

 彼等のいる上級工房は、宮城(きゅうじょう)内で最も重要な研究をする工房で、普段は閉鎖されている。
 こうしたイベント的な時に使われるのだ。

「ジン君、エルザ、ラインハルト、ようこそ」
「ジン殿、ちょっとだけ耳にしたが、これが精錬の魔導具なのかね?」
 同席しているのはショウロ皇国宰相ユング・フォウルス・フォン・ケブスラーと、
「もしこれが量産されたらすごいことになりますぞ」
 ショウロ皇国魔法技術相デガウズ・フルト・フォン・マニシュラスである。

「これは試作ですので小型ですが、大きなものを作れば、生産量は上がります」
 試作は作業台の上に乗る程度の大きさで、60センチ角の立方体だ。
 上の面はほとんどが鉱石を入れる『投入口』で、正面にあたる側面下方に精錬された金属が出てくる口が、その反対側の面に、金属以外の成分を排出する口が付いていた。
「ううむ、試しに使ってみせてくれるかね?」
「もちろんです。エドガー、頼む」
「はい、ジン様」
 そのつもりで用意した鉱石を取り出す。
「細かく砕く必要はなく、この投入口に入る大きさで大丈夫です」
 今回は拳大の鉱石を用意した。
「これは軽銀を含む鉱石です。では、入れてみます」
 投入口に鉱石を入れる。
「1個では少なすぎるので……」
 計10個を仁は投入し、
「起動します」
 押しボタンを押す。『魔鍵語(キーワード)』でないのは、魔導士でなくても扱えるように、という配慮だ。
 すると魔導具が動き出し……。
 1分後、拳の半分くらいの大きさの軽銀が精錬されて出てきた。
「おお!」
 その反対側からは10個分の『砂利』が排出される。
「鉱石から軽銀だけを『抽出(エクストラクション)』し、『精錬(スメルティング)』しました」
「す、すごい!」
 使われた鉱石は、地球で『イルメナイト』と呼ばれているものと酷似したもの。主成分はFeTiO3。鉄と軽銀の酸化物からなる鉱物である。
 軽銀の含有量は重量比で10パーセント前後。この世界でも一般的な軽銀の鉱石である。
 地球のイルメナイトは砂状で採取されるが、この世界ではぼろぼろの岩塊として手に入る。

 精錬された軽銀を魔法技術相デガウズはしげしげと観察していたが、
「素晴らしい純度ですな」
 と、小さく溜め息をついた。

 こうした驚きが少し落ちついたあと。
「それで、ジン君はこれをどうしたいのかしら?」
 女皇帝が仁に尋ねた。
「はい、ラインハルトからの助言によりますと、このまま市場に出しますと素材の価格が暴落し、経済が混乱すると言われまして……」
「ふむ、それはそのとおりだな」
 宰相が感心したように頷いた。
「ですので、国に任せた方がいいだろうという結論になりました」
「なるほどね」
 女皇帝は頷いた。
「それで、これは、他の金属用も作れるのかしら?」
「可能です。自分としましては、ミスリル銀とアダマンタイト用を作ったらどうかと思っています」
「ふむ、魔導系素材だな。いいかもしれん」

「初めのうちは国で専売にするのがいいでしょうね」
「そうですな。そうして、少しずつ価格を下げていく、と」
「ああ、公共の開発部門には優先して安い素材を回す必要もありますね」
「採掘の単価にはあまり影響はないと思われます」

 さっそく協議に入る重鎮たち。
 始めたかと思うと、話をぴたりとやめる。
「この先は会議室で行いましょう」
「そうですね」
「異議なし」

 そして彼等は、仁たちに向き直る。
「ジン殿、素晴らしい開発、感謝する」
「運用は我々に任せて欲しい」
「いずれ、各国にも恩恵を、と思っているわ」
 それぞれ宰相、魔法技術相、女皇帝である。
 仁としては一国だけでこの技術を独占して欲しくはなかったので、女皇帝の言葉にほっと安堵していた。
「それでは、お任せ致します」
「ええ。褒賞は追って知らせるわ」
 一礼して仁、エルザ、ラインハルト、礼子、エドガーは上級工房を後にした。

*   *   *

「ジン、うまくいきそうだな」
 宮城(きゅうじょう)から『コンロン3』で戻る道中、ラインハルトが仁に向かって言った。
「ああ、やっぱりラインハルトの言うとおり、女皇帝陛下に相談してよかったよ」
「うん。……採掘する者たちのことまで、僕は気が回らなかったからな。やっぱり陛下は凄い!」
「確かにな」
 鉱石の価格は、稀少さと採掘のしやすさで多少変わるが、逆に言うとそれだけだ。
 金、銀などは稀少価値があるため高価だが、鉄、銅などは安い。
 また、軽銀の鉱石である『軽銀鉱』(=イルメナイト)の単価は鉄よりも安い。これは、軽銀鉱は脆く、ぼろぼろと崩れやすいため、採掘が楽なのだ。
 精錬の段階で軽銀は高価になるわけである。
「だから軽銀単価が下がって需要が増えれば、軽銀鉱の需要も増え、結果的に鉱山や鉱夫が潤うだろうな」
 ラインハルトは少し嬉しそうに説明した。
「なるほど……素材単価を下げるということ一つ取ってもいろいろと周りに影響があるんだなあ」
「そういうものさ」
 そんな話をしているうちに『コンロン3』はラインハルトの領地、カルツ村に到着した。
「それじゃあ、ジン、エルザ、またな」
「うん、じゃあまた」
「ライ兄、元気で」
 仁たちを乗せた『コンロン3』は再び大空に舞い上がった。
「さて、一旦蓬莱島へ帰るか。旧レナード王国の調査隊が何をやっているか、老君が追跡しているはずだ」
「ん、興味深い」
 エルザも賛成したため、『コンロン3』は速度を上げて蓬莱島へと向かったのである。
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