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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-10 改革の相談

 セルロア王国国王セザールは、仁の講義に感謝し、ミスリル銀10キロを贈った。時価にして5000万トール相当だ。
 これを受け取った仁は、閃くことがあった。
 その日はセルロア王国に泊まる予定だったので、与えられた貴賓室に戻るとエルザと礼子を相手に相談を開始する。
「さっき気が付いたんだが、魔導系の素材ってやたらと高価だよな」
「ん、確かミスリル銀がキロあたり400万から500万トール、アダマンタイトが1000万トールくらい、軽銀が……」
「キロ300万トールくらいですね」
 礼子も補足してくれた。
「うん。普通の銀はキロあたり5万トールくらいと聞いたから、100倍もするんだ。これって、魔導系の素材が少ないからというよりも、精錬しづらいからだと思っている」
 埋蔵量は100倍ほども差はないのである。
 だが、『魔導系』つまり『魔力同位元素(マギアイソトープ)』となった素材は、鉱石からの分離が難しいのである。
 そのため、魔法を使わないと精錬ができず、高価になるというわけだ。
「これからのことを考えると、コストダウンを考えた方がいいと思うんだ」
「ん、わかる」
「だけど、一気にコストダウンすると、多分流通業者が混乱するよなあ」
「……確かに」
「お父さま、そこは為政者にお任せしては?」
 礼子の発言にも一理ある。仁は技術者であり、その先の運用は専門家に任せた方がいいというわけだ。
「餅は餅屋、か」
 仁はそれ以上のことは助言に従い、明日以降にすることにしたのである。

*   *   *

 翌14日、仁とエルザ、礼子はもっといてほしいという国王セザールはじめ数多あまた魔法工作士(マギクラフトマン)からの懇願に後ろ髪を引かれつつ、セルロア王国をあとにした。
「このままラインハルトの所へ行こうか」
 先日の外交を終え、一昨日領地に帰っているはずなのだ。
「ん。ベルチェさんとユリちゃんにも、会いたい」
「そうだな」
 そう話がまとまって、『コンロン3』はショウロ皇国へ。トスモ湖を飛び越して、ラインハルトの領地カルツ村を目指した。

*   *   *

「ようこそ、ジン、エルザ!」
「いらっしゃいませ、ジン様、エルザさん」
「しばらく、ベルチェ。ラインハルト、この前はありがとう」
「ベルチェさん、こんにちは。……ユリちゃん、大きくなった」
 すっかり首が据わり、はいはいもするという。
 簡単な挨拶を交わし、仁たちはすぐに話を始めた。忙しいラインハルトを気遣ったのである。
「実は……」
 仁は、魔導系の金属素材の流通量を上げ、価格を下げたいという希望を話す。ラインハルトは即反応した。
「ジンのいうことはよくわかる。もし一気に行うなら、まずは国に移管すべきだな」
「専売、ということか?」
「それもある。当面は国が素材を備蓄しておき、流通の改革を少しずつ進めながらそれを放出していくというやり方が考えられるな」
「なるほど」
 さすがはラインハルト、瞬時に方策を1つ、思いついてしまったようだ。
「他にもやり方はあるだろうな。とにかく、流通に携わる業者がいきなり商売できなくなるというのはまずいからな」
 失業者を量産するのだけは避けなければいけない、とラインハルトは繰り返した。
「わかる。雇用は大事だからな」
「そうさ。そのあたりを考えるのはジンではなく為政者がすればいいというわけだ」
「なるほどなあ。参考になったよ。ありがとう」
 仁はラインハルトに礼を述べた。

「ところでな、僕の知る限りだが」
「うん?」
「ミスリル銀は普通の銀の5分の1くらいしか採れないはずだ。逆に、軽銀は採掘量はそこそこ多いんだが、精錬が難しいんだよ」
 領主としてラインハルトはこういう知識も蓄えているようだ。

 『軽銀ライトシルバー』とは、地球ではアルミニウムの旧名であったが、この世界ではチタンのことだ。
 チタンは『二酸化チタン(TiO2)』のような酸化物として存在しており、この結合している酸素を取り除けばチタン(軽銀)となるわけだが、それが非常に困難なのである。
 現代地球でも、詳細は省くが、直接の還元は行わず二段階の精錬を行っているほどだ。

 だがこの世界には魔法があり、強力な『還元ディオキシダイゼイション』により、金属チタンを精錬することができている。
 ただし、この工学魔法を使える魔導士は限られており、流通量が少ない原因(同時に価格が高い原因)になっていた。

「『還元ディオキシダイゼイション』を使った精錬装置を作ればいいのかな?」
「そういうことになるな。ジンなら簡単に作れるだろうが、運用には気を付けろよ?」
「わかってる。ありがとう」
 失業者を増やしてしまうのは仁の本意ではない。
「サキにもちょっと聞いて、それから陛下の所へ行くとしよう」

*   *   *

 とりあえず『コンロン3』の転移門(ワープゲート)で蓬莱島に戻った仁とエルザは、『長周期惑星=モデヌ』の破片を解析しているサキを訪ねた。
「おやジン、エルザ。お揃いで今日はどうしたんだい?」
「ああ、実は……」
 仁は、金属素材の単価を下げるためにいろいろ考えているということを説明する。
「うんうん、それはいいことだね! ジンはここ蓬莱島に、使い切れないほどの資材を持っているからあまり実感できないだろうけど、素材の低価格化は研究者にとっては願ってもないことだよ」
 サキは手放しで賛成してくれた。
「流通もそうだけど、錬金術的にはミスリル銀の単価が下がるのは嬉しいよね」
 サキなりの意見も出てくる。仁としてもマギ系合金を作るのに必要なので、こちらも進めていくつもりはある。
「それじゃあ、ミスリル銀と軽銀の単価を下げる努力をしてみるか」
 金と銀については触れないことにする。
 金本位制といっていいこの世界で、金の価値が下落することは経済の破滅を意味するだろうからだ。
「少しずつ変わっていくならいいんだが、俺は経済にはド素人もいいところだからな」
 仁自身、自分が経済を指導する器ではないことは重々承知していた。

 兎にも角にも、こうして方向性は決定し、さっそく製作に取りかかる仁なのであった。

*   *   *

「ジン兄、進み具合はどう?」
 工房へエルザが顔を出した。
「ああ、おおよそ完成した。あとは鉱石を入れてテストをして見るだけだ」
「それなら、ご飯の仕度できたんだけど」
 時計を見ればもう12時であった。
「ああ、もうそんな時間か。それじゃあテストは午後にしよう」
「お父さま、わたくしがテストをしておきましょうか?」
 礼子が申し出たが、仁はそれを止める。
「いや、お昼を食べたらやるから、いい。そんなに急ぐ必要はないし、礼子もおいで」
「はい、わかりました」
 そう言って仁はエルザと礼子と共に工房を出たのであった。
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