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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-09 仁の講義

自動人形(オートマタ)は、どちらかというと『趣味のもの』という捉え方がなされていますからね」
 残念そうな口調でトビアスが言った。
「そうかもしれませんね」
 人間そっくりな容姿が必要とされていなければ、ゴーレムで十分間に合うわけだ。
 同じ性能なら、比較してコストがかからないゴーレムの方が需要が大きいことは不思議でも何でもない。

「それで、俺に相談というのは?」
 仁が話を戻すと、トビアスは礼子をじっと見つめ、
「名誉従騎士に列せられたレーコ嬢を見ても、ジン殿が自動人形(オートマタ)に対して並々ならぬ愛情を持っていらっしゃることがわかります。その十分の一、いや百分の一でも結構ですので、我々に自動人形(オートマタ)製作のコツを伝授していただきたく、お願い申し上げる次第です」
 と頭を下げた。
「ジン殿、私からも頼む。無論、礼についても考えている。どうか、相談に乗ってもらえないだろうか?」
 トビアスの言葉と態度からは熱意が感じられたので、仁はこの話を条件付きで承諾することにした。
「ええと、長期間は無理ですので、本当にコツだけでよろしければ」
「もちろんです! ジン殿がいろいろとお忙しいことはわかっております。今日1日だけでも、構いません」
 そこまで言われては、仁としても断ることはできない。
「ええ、わかりました。それでは、今日1日だけということで」
「おお、ありがとうございます!」
 こうして仁は1日講師としてトビアスたちを教えることとなったのである。

*   *   *

 仁が講義をするという話を聞きつけ、他の研究室からも人が集まってきて、最終的には51人が仁の講義を受けることになった。
 仁としては、それだけの人数に講義をするというのは初めてであり、時間も限られていることから、何をどう話そうかといろいろ悩んだ末、社内プレゼンテーションのつもりで行うことにした。

「皆さん、ジン・ニドーと申します」
 壇上に上った仁は少し緊張しながら口を開いた。
 聴衆のほとんどは仁の顔を見知っており、若いからと侮るような素振りは誰も見せなかった。
「本日は『自動人形(オートマタ)』作りのコツについて話したいと思います」
 低い声でおお、というようなどよめきが起きた。
「最初に言っておきます。自分の作る自動人形(オートマタ)は、『人間に似せる』のではなく、『人間そっくり』であることが目標です。その上で『人間を超える』ことを目指しているのです」
 助手として仁の隣にいる礼子を見て、聴衆は皆うんうんと頷いている。
「では、そのためのコツを幾つか説明していきましょう」
 この言葉に、皆、身を乗り出した。
「まず何といっても外見。これは説明はいらないですね。ですが一つ忠告を。完全な左右対称は、完璧すぎてかえって人間らしさを損ねます。人間の顔って、思ったよりも左右対称ではないんです」
 整いすぎているとむしろ不自然に感じる、と仁は説明した。

「次に動作ですね。人間の動作には曖昧さがあります。ゴーレム……上級のゴーレムにはそれがありません。あっても僅かです。それもまた、人間らしさとは程遠いものです」
 この説明に首を傾げたものが三分の一くらいいた。
「わかりづらいかもしれませんので例をお見せしましょう。礼子、頼む」
「はい、お父さま」
 礼子が壇上前に進み出る。
「まず『人間的な』歩き方です」
 仁が言うと、礼子は壇上を右から左へと歩いて見せた。それはまさに人間そのものの歩み。
「次は『ゴーレム的な』歩き方です」
 今度は、壇上を左から右へと礼子は歩いてみせる。それは、美しい動作ではあるが、機械的で冷たく感じられた。
「いかがでしたでしょうか。一言で言いますと人間の動作には、先程申し上げたように『曖昧さ』があります。言い替えるとそれは『無駄』と『揺らぎ』となります」
 一旦言葉を切って聴衆の反応を窺うと、皆先を聞きたくてうずうずしている様子。仁の言葉はおおよそ理解されているようだ。
「『無駄』というのは、例えば手を水平に上げる際、一旦少し上げすぎて戻す、ということです。つまり『行きすぎる』こと。常にそうであるわけではないのですが、一般的なゴーレムでは見られないことですからね」
 この説明にもうんうん、と頷く者が多数いたので、仁は手応えを感じた。
「『揺らぎ』というのも同じようなことです。要は繰り返し動作の再現性と言っていいでしょう。同じ動作を10回繰り返した場合、10回ともまったく同じになるのがゴーレム、どうしても違いが出てしまうのが人間です」
 ほう、という溜め息とも声ともつかない反応が聴衆から聞こえた。
「こうした『曖昧さ』を持たせることは、『人間らしさ』の演出に欠かせません」
 仁は聴衆を見渡し、
「ここまでで何か質問はありますか?」
 と尋ねた。すっかりペースを掴んでいる。
「一つ、よろしいでしょうか」
 若い女性技術者が挙手をした。
「はい、どうぞ」
「はい。……ええと、その『曖昧さ』を作り出す方法というのを教えていただけないでしょうか」
 仁はどう答えようかと少し考えた。
「そうですね。方法はいろいろありますので、それこそご自分の『方式』を作り出すことが技術者の喜びではないでしょうか」
 仁がそう答えると、その女性技術者は少し赤面して俯いた。
「は、はあ……仰るとおりです」
「とはいえ、講義ではこのあとそういった問題について説明する予定です」
 この言葉にはその女性技術者だけでなく、ほとんどの聴衆が聞き耳を立てる。

「人間そっくりを目指すなら、人間を知ることです」
 仁は先代や、先代の父、『賢者(マグス)』シュウキ・ツェツィとその妻であったアドリアナ・ティアラらのことを思い出しながら説明を始めた。
「人間の身体の構造を知り、それに近い構造の自動人形(オートマタ)を作ること。具体的に言いますと関節の数、可動域などですね」
 人間にはない関節があったり、人間にはできないほど関節が曲がったりしてはいけないということを説明する。
 皆熱心に聞き入っている。
「こうした人体の構造は、治癒士に聞くのもいいかもしれません。よりよいものを作る際は、異なる分野の技術を組み合わせると意外なものができることもあります」
 ここで仁は、先程の質問へのヒントとなる説明を始めることにした。
「さて、ではゴーレムなどの『動作』を考えましょう。まずは最も初歩的なゴーレムである『ストーンゴーレム』。これを動かす……基本の『歩く』動作をどうやってさせているか、思い起こして下さい」
 一部の者を除き、その程度の経験はあるようで、ほとんどの者は仁を見つめたままだ。
「最も基本の魔導式(マギフォーミュラ)部分で説明します。脚を振り出す式で、振り出す角度が変数になっているはずです」
 作ったことのある者は小さく頷いている。
「この変数部分で歩幅が決まるわけですが、変数の値が一定でなかったらどうでしょう?」
 この問いかけには、皆心の中で『歩幅が変わってしまう』と思った。
「一定でないといっても、30に対し29から31くらいの変動なら、次の一歩で修正が効くはずです」
 ここで察しのよい者はぴんと来ていた。
「そう、こうした小さな変動を盛り込むこと。それが『曖昧さ』の第一歩です。とはいえ、いつも同じだけ変動していたら……規則性のある変動は最早変動ではなくなってしまいます」

 まだパソコンがマイコンと呼ばれ、BASIC言語で動いていた頃。ランダム関数という関数があった。
 擬似的に乱数を発生させる関数で、入力に時刻を使うことでより本物の乱数に近くするという技が使われていたのだ。
 それに似た手法を使い、仁は『曖昧さ』を作る方法を示唆していった。

「これはあくまでも一例です。自分なりのやり方で試してみること、それがオリジナルへの道だと思います」

*   *   *

 それからも仁は説明を続けていき、終了間際には、
自動人形(オートマタ)は決して趣味的なものではありません。人間社会において、人間に代わるのではなく人間と共に生活を作っていくためのもの。それが自動人形(オートマタ)だと思います。ご静聴ありがとうございました」
 そう言って一礼。
 会場は割れんばかりの拍手が行われた。

「ジン殿、感謝する」
 セルロア王国国王セザールは壇上から降りてきた仁を労い、握手をしたのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170203 修正
(誤)一旦言葉を気って聴衆の反応を窺うと
(正)一旦言葉を切って聴衆の反応を窺うと
 orz
(誤)それが自動人形(オートマタ)だと思いますご静聴ありがとうございました」
(正)それが自動人形(オートマタ)だと思います。ご静聴ありがとうございました」
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