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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-08 仁の眼力

 仁とエルザはセルロア国王セザールから篤い歓迎を受けた。
「『崑崙君』、それに奥方、よく来てくれた」
 近衛部隊が出迎え、その先頭にセザールが立っていたのだ。
「『世界会議』で顔を合わせてはいたが、こうして訪ねてもらえて嬉しいよ」
 『コンロン3』は飛行場に係留し、エドガーが管理する。
 仁、エルザ、礼子はセザールと同じ屋根なしの馬車で王城へ向かっているところだ。
 そんな仁たちの前に、モノレールの軌道が見えてきた。
「ジン殿に開発して貰ったモノレールだが、こうして『環状線』として王都内を巡らせるところまで来た」
「ええ、凄いですね」
 こうしたセルロア王国の国力の高さを、仁は素直に称賛した。
「この調子で、少しずつ軌道を延長していけたらとは思っているが、それも世界が平和だからこそだな」
 外へと伸びる軌道は、逆に外から入り込む道にもなり得るのだ。
「そうですね」
「もたらされた平和を、束の間のものではなくできうる限り長く保ちたいものだ」
「同感です」
 そんな会話をしつつ、馬車は王城へ入っていった。

*   *   *

 王城内、セザールの執務室にて。
「あらためてようこそ、『崑崙君』。そして奥方」
「陛下、ご機嫌よろしゅう」
 仁がエルザに教わった定型句を口にすると、
「ああ、もう普段どおりにしてくれ、ジン殿」
 と、セザールの方からフランクな口調に戻してきた。
「はあ」
「今日はな、めでたい日なのだ。……正確には昨日だがな、例の『転移門(ワープゲート)』、ついにそこそこの実用化が終わったのだよ!」
「それは、おめでとうございます」
 セザールは満足そうに頷いた。
「うむ、その節はジン殿をはじめとする他国の協力を仰ぐ必要はないと言っていたわけだが、なんとかここまで辿り着けた。見ていくかね?」
「いいのですか?」
「もちろんだ。未完成なものを『魔法工学師マギクラフト・マイスター』にお見せするのは恥ずかしかったが、今回のレベルなら、まずは恥をかくことはないと思う」
 セザールは護衛の近衛兵2名と共に、仁とエルザ、礼子と共に執務室をあとにした。

 こうして、仁とエルザ、礼子は、セザールに案内されて王城内の『王立研究所』へと赴いたのである。

 『第3研究所』と書かれたそこは、王城の中庭にあって、小さな小学校ほどの大きさ。
 衛兵が2名立っていたが、国王セザールの姿を見ると姿勢を正し、一行を通した。
「今、よいか?」
 セザールが声を掛けると、中から痩せた壮年の男が顔を出した。
「これは陛下、もちろんであります。……そちらは?」
「『魔法工学師マギクラフト・マイスター』、ジン・ニドー殿と奥方のエルザ殿、そして従騎士のレーコ殿だ」
 仁の名を聞くと男は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「これはジン殿、失礼しました。私はトビアス・ベロウズ・ゼータ。この第3研究所の所長を務めております」
「ジン・ニドーです」
 仁とトビアスは互いに握手を交わした。
「それで陛下、ジン殿とご一緒ということは、見学ですね?」
「うむ。いいかね?」
「もちろんです! 是非ごらんになっていってください!!」
 トビアスは一行を研究所内へと招き入れた。

「ごらん下さい!」
「おお!」
 体育館の半分くらいもある、広い一室に、2基の『転移門(ワープゲート)』が鎮座していた。
 1基あたりの大きさは1辺が8メートルの立方体だ。
「これが最新型です。6時間の自由魔力素(エーテル)充填により、およそ1トンのものを500キロ離れた場所まで送り出すことができます」
「ほう、それはすごい」
 国王セザールからの褒詞にトビアスは喜色を満面に浮かべた。
「は。運用効率は4倍。到達距離は2.5倍。ようやく陛下にお見せできるものとなりました!」
「……」
 仁は静かな目で、その『転移門(ワープゲート)』を眺めていた。
「ジン殿、どうですかな?」
 声を掛けられてはっとする仁。
「ええ、大したものだと思います。これにより、大陸内の移動に革命が起きますね」
 仁からのこの言葉に、トビアスは顔を紅潮させて喜んだ。
「光栄です!!」

 最大機密ということで内部は見せてもらえなかったが、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』仁は、おおよその見当は付いてしまっていた。

(2基の間を繋ぐ魔力波の収束と同調が甘いんだろうなあ……だから余計なエネルギーを喰うんだろう)
 先代の方式ならば、2基の間は極細の糸……しかし超強力な、例えるならハイパーアダマンタイト線で繋がっているようなもの。
 対して目の前の方式は、今にも切れそうな紙紐で、強度を出すためそれを数万本束ねて使っているようなものと言えばいいか。
 そのため、接続距離も伸ばせず、消費する自由魔力素(エーテル)も桁違いに多くなってしまっているのだ。
(でも、数ヵ月でここまで再現したその手腕は評価されてしかるべきだ。実際、大したものだよ)
 仁は、評価すべき点は多々ある、と心の中でもトビアスを褒めていた。
 仁自身としては先代から受け継いだ知識であり、己自身で開発したわけではないからでもある。こうして、仁は時折自省していた。

「ジン殿からのご意見もいただきたいところですが、それは国の方針に逆らうことになりますので泣く泣く諦めることに致します」
 国王を前にこういうセリフを言えるということは、今のこの国が健全に運営されている証左だろうな、と仁は思った。
 少なくともリシャール王のときは考えられもしなかった光景だ。

「もう一つの方は相談してよいぞ」
 国王セザールも笑いながらトビアスに告げた。
「おお! そうでした。ジン殿、これをご覧下さい」
 トビアスは一行を別室へと案内する。そこには、新型と思われるゴーレムが鎮座していた。
 いや、仁はそれをゴーレムではない、と直観的に感じ取った。
 全体的に細身で、のっぺりしているのだ。
自動人形(オートマタ)の基幹部……ですか?」
 その言葉にトビアスは驚喜する。
「おお! さすがジン様! 魔法工学師マギクラフト・マイスターでいらっしゃる!」
 仁が思ったとおり、自動人形(オートマタ)の基幹部であった。

 一般的な自動人形(オートマタ)は、この基幹部に皮膚を被せ、人間『らしく』見せるのだ。
 ただしそのままでは触ると皮膚の下にある基幹部に触れるのでごつごつした手触りになる。
 高級品になるとクッション材を入れるのだが、それでもやはり人間そっくりとはいかない。
 礼子のような造りはごくごくまれなのだ。

「以前我が国に席を置いていたドナルド殿ですが、彼は『内骨格』のゴーレムを提唱しておりました。が、誰も耳を貸さなかったのです」
「なるほど」
「今になって、彼の提唱していたことがいかに先進的だったかわかりましたよ」
 そう言ったトビアスの顔はいかにも残念そうであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

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 ドラマCDについての情報を活動報告に載せました。御一見いただけると幸いです。

 20170202 修正
(誤)「この調子で、少しずつ軌道を延長しでいけたらとは思っているが、それも世界が平和だからこそだな」
(正)「この調子で、少しずつ軌道を延長していけたらとは思っているが、それも世界が平和だからこそだな」

(誤)近衛部隊が出向かえ、その先頭にセザールが立っていたのだ。
「『世界会議』で顔を合わせてはいたが、こうして尋ねてもらえて嬉しいよ」
(正)近衛部隊が出迎え、その先頭にセザールが立っていたのだ。
「『世界会議』で顔を合わせてはいたが、こうして訪ねてもらえて嬉しいよ」
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