挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

1422/1475

39-07 残務整理?

「さて、『魔水銀』についてはこれくらいにして」
 仁が仕切り直した。
「今は珍しく緊急の問題がない。だから後回しにしていた問題をいろいろ片付けようと思う」
「それはいいけど、例えば?」
 サキはサキで忙しくやっていたので、仁の言うことが今一つぴんと来ないようだ。
「ああごめん。どちらかというと俺の問題だよな」
 仁は頭を掻いた。

「たとえば、ミツホに派遣したままのジョン・ディニーのこととか」
「ああ」
「長周期惑星の処理した破片の解析とか」
「確かに」
「セルロア王国は何も言ってこないけど、モノレールのこれからとか」
 仁は幾つか思いつくままに口にした。
「先へ進むためにも、中途半端にしておきたくないんだよ」
「ん、わかった」
「くふ、ジンらしいね」
「お父さま、お手伝い致します」

「まずはジョン・ディニーだな」
 仁は老君と話をする。
「そろそろ、一旦故郷へ戻る、という名目でミツホから去らせることはできるかな?」
『はい、御主人様(マイロード)。それは可能です。実行いたしますか?』
「うん、そうしてくれ」
『わかりました。今ジョン・ディニーはミツホ南部を巡り終えてイヨの町におります。一旦ミヤコへ向かわせ、ヒロ・ムトゥに挨拶してからショウロ皇国方面へ向かわせましょう』
「うん、それでいいな」
 ショウロ皇国との正式な国交と仁の存在があれば、当分魔法工作士(マギクラフトマン)不足で悩むこともないだろう。

 こうして自動人形(オートマタ)『ジョン・ディニー』は、この数日後にミツホから姿を消すことになる。

*   *   *

「次にやっておきたいのは『魔族』という呼称を変えることなんだ」
「確かに『魔族』という名称は聞こえが、悪い」
「同感だね」
 エルザとサキも納得してくれた。
「やはり印象は大事だと思う。そもそも『魔族』というのはローレン大陸の人間が付けた呼称らしい」
 自称しているわけではないということだ。
「北の一族……駄目か」
「なら、北方民族?」
「くふ、そのまんまだねえ。でも確かにそのとおりだよ?」
「あ、そうか」
 あることに仁は気が付いた。
「『北方民族』でいいかもしれないけれど、『国名』がないんだ」
「ああ、そういうこと」
「なるほどね」
 北の地に棲む一族だから北方民族、と呼んで差し支えない。『魔族』よりはずっと通りがいいだろう。
「国名は俺たちが決めることじゃないな」
「ん、当然」
 近々魔族領……北方民族領に行って相談すべき事案だった。

「あとはモノレールの様子確認と『長周期惑星』の破片確認かな」
「セルロア王国へ、行く?」
「そうするか」
 するとサキは、
「じゃあボクは破片の解析をしておくよ。老君と一緒に」
「そうしてくれるか?」
「うん、任せておいて」
 こうして仁とエルザはセルロア王国へ。サキは『長周期惑星』の破片解析を、それぞれすることとなった。

*   *   *

「ジン兄、ここのところ、少し焦ってない?」
「焦って? 俺が?」
 セルロア王国へと向かう『コンロン3』の中でエルザが尋ねた。
「ん。なんとなく、あれもこれも片付けよう、としているような気が、する」
 仁は己の行動を思い返してみた。
「そうかもなあ。……だけど、思うんだ」
 ちょっと寂しそうな仁の横顔を見て、エルザは少し心配になった。
「何を?」
「カイナ村に行くたび、自分の原点を思い出す」
「原点……」
「うん。ずっとカイナ村にいて、村人として過ごせていたらどうなっていただろうな、と思う時もある」
「……それは、嫌。そうしたら、ジン兄に、会えなかった」
 エルザは、知らず仁の腕に縋り付いていた。
「わかってるよ」
 仁はそんなエルザの肩を抱いた。
「世界を見て回ったから、エルザに会えた。ラインハルトや、ビーナや、マルシア、サキ……みんなと知り合えたんだ、ってことはわかってる」
 でも、と仁は続けた。
「カイナ村でのんびり暮らせたら、と思う自分もいるんだ」

 それは誰でも思うことだろう。
 会社勤めの者が田舎暮らしに憧れる。
 勤め人が自営業に憧れる。
 日々、変わり映えのしない暮らしをしている者が激動の人生に憧れる。

「『隣の芝生は青い』とか『隣の柿は赤い』っていうやつだろうな」
 憧れ、願望、ないものねだりというフィルターを通して見ると、今の自分よりよく見えるというやつだ。
「それがわかっていても、人間という奴は憧れてしまうらしいよ」
 仁がそう言うと、エルザの腕に力が籠もった。
「……嫌。放さない」
 それに仁が何か答えようとした時。
「お父さま、エルザ様、間もなくセルロア王国首都エサイア上空です」
 礼子の声が掛けられた。
「そ、そうか」
 若干狼狽えながらも仁は答え、エルザは身体を離した。
 眼下には幾重にも巡らされた城壁が見える。エサイアを守る鉄壁の守りだ。
(だが、これからは……)
 飛行船がある以上、上空からの攻撃という方法がある。
 そしてそれは城壁では防げない。
 そんな仁の目の前に、熱気球が10機現れた。セルロア王国の『空の守り』だ。
 乗員は『コンロン3』に描かれた家紋、『丸に二つ引き』と、キャビン越しに仁とエルザを確認すると、敬礼をして離れていった。
 1機だけは残り、先導するように手招きをしている。
「エドガー、あの熱気球に付いていってくれ」
「わかりました」
 仁は操縦士のエドガーに指示を出した。
 速度の桁が違う熱気球の後にぴたりとついて行く『コンロン3』。
 エドガーの並々ならぬ腕前が見て取れる。

「お、あれは」
 モノレールの軌道が仁の目に映った。
「少し延長したんだな」
 以前仁が建設したものだけでなく、エサイアの中心部を巡る、いわゆる『環状線』としてのモノレールができていたのだ。
「やっぱりセルロア王国の技術力は高いな」
 お手本があれば、こうして同等のものを作り出せる技術力。それは今、世界のために使われている。
 仁としても喜ばしかった。

 そして『コンロン3』は飛行場に着陸。そこには国王セザールその人が出迎えていた。
「ようこそ、『崑崙君』」
 いつもお読みいただきありがとうございます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ