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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-06 調査隊は今

 エゲレア王国の調査隊はボッツファ遺跡のさらに東、ソルドレイク遺跡で野営をしていた。
 隊長はポウル・レイド。かつて、遺跡を守っていたゴーレムを運び出したせいで、地底から現れた『超巨大蟻(ギガアント)』に危うく蹂躙されるところだったのだ。
「あの時は酷かった」
 今でも思い出すと身の毛がよだつようだ。
 『岩石崩壊(コラプス)』を使って出入り口を塞いだのだが、いつ出て来ないとも限らない。
 とはいえ、あれからただの一度も出てきていないので、その心配はほとんどないと思われる。
 今回の調査隊は、こうした危険がないかどうかの確認の意味もあった。
 『超巨大蟻(ギガアント)』が現れたらいつでも空へ逃げられるよう、飛行船のすぐそばで野営してもいた。
 だが、その心配は杞憂だったようで、土属性魔法の使い手が幾ら調べても、地中にそれらしい巣は見つからなかったのである。

*   *   *

 蓬莱島では老君がそういった調査隊の様子を、『覗き見望遠鏡(ピーパー)』を使って観察していた。
『危険に対してきちんと手を打っていますね。これなら大丈夫でしょう。……もっとも、『超巨大蟻(ギガアント)』に関してはあれから殲滅してしまいましたけどね』
 仁が遺跡の確認をした際、マーカーを残してあり、出入り口を塞いであっても探索に支障はなく、その結果として、残されていた数百の卵は全て殲滅されたのである。
『『超巨大蟻(ギガアント)』の分泌する蟻酸も大量にストックできましたし、解析も進んでいますしね』
 当時、海竜(シードラゴン)の翼膜を使っていた礼子の皮膚をも冒す強酸。
 サキと老君が協力して解析した結果、明らかになったその秘密は、『自由魔力素(エーテル)による結合力を断ち切る』という魔法的効果だった。
 要は『融解(ディソルート)』の効果が付与された液体ということ。
 そんなものを生体合成してしまうところが『超巨大蟻(ギガアント)』の魔物たる所以なのであろう。
 今では同等以上のものを合成して作り出すこともできるようになっている。

 そんな時。
「老君、『魔水銀』の解析がほぼ終わったよ」
 サキが研究室からふらりとやってきた。
『サキ様、さすがですね』
「くふ、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、半分以上は老君のお手柄だからね?」
 サキも今では超一流の錬金術師。特に物質解析にその才能を遺憾なく発揮していた。
「おや、調査隊かい?」
『はい。今のところエゲレア王国とクライン王国の2国からですが、明日にはエリアス王国、セルロア王国からも調査隊が出るはずです』
「フランツ王国は?」
『まだ国内が安定していないということで見送り、バックアップに努めるようです』
「なるほどね。『懐古党(ノスタルギア)』は?」
『このあと観察してみる予定です。なんといってもあの『エレナ』が自ら向かっているのですから』
「へえ。それは興味深いね。ちょっとジンとエルザにも声を掛けてみようか」
『それには及びません。先程御主人様(マイロード)にはお伝えしました。間もなくお見えになるはずです』
「さすがだね、老君」
『いえ』

 その言葉どおり、カイナ村から仁とエルザがやって来た。礼子ももちろん一緒だ。
「老君、『懐古党(ノスタルギア)』も旧レナード王国の調査に乗り出したんだって?」
『はい、御主人様(マイロード)。ちょうど旧首都ディアアに着いたようです』
 魔導投影窓(マジックスクリーン)には、『懐古党(ノスタルギア)』独自の形式の飛行船が映っていた。

*   *   *

「あそこが旧首都、ディアアね」
 黄金の姫君、エレナが口を開いた。
「そうらしいな。しかし見事に草で覆われている。どれほどの年月が経っているのやら」
 相槌を打ったのは懐古党(ノスタルギア)のナンバー2、ドナルド・カロー。優秀な魔法工作士(マギクラフトマン)である。
「旧首都ディアアは旧レナード王国の中でもかなり南に位置しており冬でも枯れない草木が多いようですね。そのため、想像以上に植物に覆われてしまったと考えられます」
「なるほど」
 エレナの説にドナルドは頷いた。
「どこに着陸しますか?」
 飛行船の操縦士が聞いてきた。眼下に広がる草の海は、着陸する場所などないように見える。
「そうね。少し南に寄ったところに川が流れていて川原が広がっているようです。そこを目指しましょう」
「了解」
 懐古党(ノスタルギア)製の飛行船はゆっくりと南へ向かった。
 そこには広い川原があった。草も生えているが、着陸できないほどではない。
「あそこにしましょう」
 川から離れた場所に、野球のグラウンドほどの平坦地があったのだ。
 懐古党(ノスタルギア)製の飛行船はゆっくりと着陸した。
「魔物の気配は?」
「反応、ありません」
 懐古党(ノスタルギア)では、魔力に反応する魔導具を持っており、半径500メートルくらいの範囲で検知できる。
 方向や強度はわからないので警告用にしか使えないが、それでも便利だ。野営のときには重宝する。
「ならここで野営ね。調査は明日以降にしましょう」
「わかった」
 エレナの同行者はドナルドの他には操縦士と護衛の兵が各一名のみ。
 野営の準備は兵士が済ませてくれた。少人数であるし、便利な魔導具が多いので楽だ、という。
 同行者が少ない分、食糧は豊富に積んできたので、食事はまずまずのものが食べられる。
 ドナルドも操縦士も同行の兵士も満足して眠ることができた。
 野獣への警戒は魔導具とエレナがいるので安心だった。

*   *   *

 翌日、明るくなるとすぐに彼等は遺跡調査に取りかかった。
「これは……」
「素晴らしい技術ね」
 調査を行うのはエレナとドナルド。護衛兵は周囲の警戒に当たっている。
「ほほう、この建築様式は興味深い」
「確かにここにはいにしえの技術が遺っているわ」
 2人の声は弾んでいた。

*   *   *

(『いい勘をしていますね』)
 老君は声に出さず、独りごちた。
 今は仁もエルザもサキも、それぞれにやるべきことを行っており、調査隊の観察をしているのは老君だけだ。
 蓬莱島部隊による過去の調査によって、めぼしい危険は粗方排除されている。
 だが、遺跡などはそのままなので、この世界の人間がそれを見つけ出し、解析することはできる。
 いや、むしろして貰った方がよいとも思っていた。
 それが魔導大戦の遺物のように危険なもの以外なら大歓迎である。
 クライン王国、エゲレア王国、懐古党(ノスタルギア)
 3つの調査隊は、それぞれの場所で成果を上げつつあった。

*   *   *

 時間は前日に戻って。
 仁とエルザはサキと話し合いをしていた。
「この『魔水銀』は、思ったとおりに含まれる自由魔力素(エーテル)によって、緩やかかつ強固な結合をしているようなんだ」
 サキが説明をする。
「そのため、融点は普通の水銀と5度しか変わらないのに、沸点は250度以上も高い。もうこれは別物だね」
「なるほど……」
「まだある。反応性が異常に低いんだよね。ジメチル水銀みたいな化合物を作らないのは驚きだよ」
「へえ」

 こうした化合物と人体への影響については、仁の知識ではなく『賢者(マグス)』シュウキ・ツェツィがこの世界へ持ち込んだ学術書により明らかになった。

「物理的性質のほとんどは水銀と変わりはないんだけどね。質量とか膨張率とか粘度とか」
「沸点が上がっているのに膨張率が変わらないというのは不思議だな」
「うん。そこは、気体になろうとする水銀原子? 分子? を自由魔力素(エーテル)が繋ぎ止めているのかも」
「うーん、自由魔力素(エーテル)の物理的性質はまだまだ謎だな……」
「……なら、水銀温度計の中身を入れ替えることも可能?」
 エルザからの質問にサキはにこっと笑った。
「くふ、その質問は予想していたさ。答えは『Yes』だよ」
 これは朗報である。少しでも危険性、毒性の低い物質と入れ替えられるなら大歓迎だ。
 仁はさっそく職人(スミス)に指示を出した。
 数日もかからないうちに、使われているすべての水銀は魔水銀に置き換えられるだろう。
 そもそも水銀温度計くらいにしか使われていないので。

「あとはこれを使った『流体変形式動力フルードフォームドライブ』の可能性か」
 仁としてはこっちに興味があるようだ。
「ただ、重いんだよな」
 水銀の比重は摂氏0度で約13.6。アダマンタイトよりは軽いが、鉄や銅よりも重い。
「量とパワーの関係を調べていかないとな」
「ジン兄、毒性についてもとことん調べておいた方が、いい」
 エルザからの忠告に仁は頷く。
「そうだな。実験も自分でやるのはやめておくよ。ありがとうな、エルザ」
「ん、そうして」
「くふ、仲のよろしいことで」
 心配し合う2人を見てからかうサキであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170131 修正
(誤)仁はさっそく職人(スミス)指示を出した。
(正)仁はさっそく職人(スミス)に指示を出した。

(旧)「物理的性質のほとんどは水銀と変わりはないんだけどね。質量とか膨張率とか粘度とか」
(新)「物理的性質のほとんどは水銀と変わりはないんだけどね。質量とか膨張率とか粘度とか」
「沸点が上がっているのに膨張率が変わらないというのは不思議だな」
「うん。そこは、気体になろうとする水銀原子? 分子? を自由魔力素(エーテル)が繋ぎ止めているのかも」
「うーん、自由魔力素(エーテル)の物理的性質はまだまだ謎だな……」

(旧)水銀の比重は約13.5。
(新)水銀の比重は摂氏0度で約13.6。
+注意+
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