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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-05 未来へ

 子供たちだけでなく、手の空いた大人も大勢やって来るようになり、仁の『図工教室』は大成功だった。
 3日間掛けて『入門編』を終了した時点で、カイナ村の子供全員(7歳〜15歳)と、手空きのおかみさん17名、それにラリオ村から移住してきた少女たち全員が参加表明をしたのだ。
「いいなあ、こういうの」
 仁としては、農閑期である雪国の冬に、わら靴をはじめとする民芸品が発展したという話を聞いていたので、カイナ村でもできたらいいなあ、と思っていたのだ。
 色々やってみるというのが非常に受けたので、この冬は項目分けしないことにした。
 子供と大人で教室を分けるのみに留めたのだ。

「俺やエルザがいない時の講師は職人(スミス)たちに頼むとするか」
 カイナ村では仁のゴーレムに対する偏見や忌避感は皆無。むしろ親しみを持ってくれているのでこういうことも可能だ。
 村の文化的底上げがまた一つうまくいって、仁は嬉しかった。

*   *   *

「では、今日は裁縫を行う」
 野外で服を繕う必要に駆られることもあるため、男の子でも基本は覚えておいて損はない、と仁は説明した。
 そのため、全員が真剣な顔で講義を聞いている。
「手元に配ったのは『運針用布うんしんようふ』といって、練習用の布だ」
 白い布地に、薄赤く線が入っており、その線に沿って針を動かす練習をするのである。
「縫い針は、長いもの、短いものとあるが、まずは長い針で練習しよう」
「はーい」
「指ぬきは中指に嵌めて、手の平にあてがうんだぞ」

 因みに、短い針の場合は中指の第1関節と第2関節の間、いわゆる『中節ちゅうせつ』に指ぬきを嵌める。

「まずは『なみ縫い』だ」
 縫い方の基本となるので、じっくりと練習させる仁。
 最初は縫い方が揃わず、苦労している子もいる。
「ほらルウ、縫い目が曲がってる」
「あ、いけな……いたっ!」
「だ、大丈夫か?」
「は、はい……『治療(キュア)』」
 サリィとギーベックの養子になったルウは、治癒魔法はお手の物、自分の刺し傷を即治療した。
「あいたっ!」
「いてっ!」
「大丈夫? ……『治療(キュア)』」
「あ、ありがと!」
 そして、慣れない針仕事に指を差した子の治療もしてやるのであった。

 和裁では、このなみ縫いが基本となる。洋裁でも、『ぐし縫い』をしたり、『仮縫い』にも用いられるので、仁はじっくりと練習してもらうことにした。
「それじゃあ、台布巾を縫ってみよう」
 とはいえ、運針用布が相手だと、子供たちは飽きてしまうと考え、多少実用的なものにもチャレンジさせる仁である。
「雑巾にしてもいいしな。作った布巾は家に持って帰っていいぞ」
「はーい」
 布は麻、糸も麻。ミツホ原産の木綿はまだまだ稀少で高価なのだ。
 とはいえ、仁が工学魔法『軟化(ソフトニング)』を施してあるので、木綿並みの柔らかさと手触りになっている。

 その日の『図工』はなみ縫いの練習と布巾作りで終了した。
 もう図工と家庭科が一緒になっているな、と感じた仁であった。

*   *   *

 仁がカイナ村で図工の授業を行っていた頃、旧レナード王国を調査するため、各国は調査隊を繰り出していた。
 その1つ、クライン王国隊。

「うーん、以前苦労して歩いた道がこんなに簡単に踏破できていいのかしらと思うよ」
 旧レナード王国調査隊の1人、クライン王国近衛女性騎士、グロリア・オールスタットは独りごちた。
 一度は死を覚悟した事件を思い出すと、今でも背中に冷たい汗が流れるが、それ以上に彼女を突き動かしているのは『アヴァロン』勤務になりたいという意思であった。
 垣間見た、素晴らしい世界。それをあまねくこの大地に広げられれば。
 それが騎士としてのグロリアの意思。
 そして。
(見てみたい……さらに、その先を)
 それが、人類の一員としてのグロリアの意志であった。
 加えて。
(あの人と共に働ける職場……何もかも理想的だ)
 極めて人間くさい、個人的な動機もあったのだ。

「上空から観察すると、地形がよくわかりますね」
 グロリアの物思いはその声で破られた。
「パスコーか」
 ラッシュ男爵家3男、パスコー・ラッシュ。
 このたび晴れて騎士爵を受け、見習いから昇格し、この探索行に参加している。
「『飛行船』か……。このようなものを作り上げてしまう『崑崙君』。過去の自分がいかに愚かだったか、恥じ入るばかりですよ」
 それはグロリアに向けたわけでもない、ただの呟きだったかもしれない。だがグロリアはこの調査行の隊長として、その独白を聞いていた。
「それはそれでいいのだ。皆、変わっていく。よい方向に変われたならば、それは幸いだ。過去は過去。今を生き、よりよい未来を築くことだな」
「は、隊長」
 パスコーも変わった。付き合いは浅いが、かつての傲慢な態度はなくなり、謙虚さを身に着けた、とグロリアは感じている。
 これなら、これからはじまる未知の世界への調査行でも頼りになるだろう。
「ここまでは以前、エゲレア王国と我が国の調査隊がそれぞれ別ルートで南下と北上をしてきて出会った場所だ。つまり既知の場所である。だが、その先に待つのは未知の土地。なにがあるかわからん。しっかり頼むぞ」
「はいっ!」
 調査隊はグロリアを隊長とし、隊員はパスコーを入れて全部で8名。うち2人が女性騎士だ。グロリアを入れると3名が女性騎士となる。
 2名の女性騎士は治癒士だ。パスコーはそのうちの一人、ティファニー・バルダックと仲よくなっていた。

「いよいよ着陸だ。席に着け」
 グロリアの指示に、窓から下界を眺めていた者も席に着き、簡単なシートベルトを締めた。
 操縦士は手慣れた手付きで飛行船を操作し、地上に着陸させた。
 そこはちょっとした広場。かつてボッツファ遺跡と呼ばれた場所だ。
「ここで見つかった容器には苦労させられたな……」
 あの時のことは未だに夢に見る。が、トラウマにはならない精神の強さも併せ持つグロリアであった。

「今日はここで野営だ」
 簡易テントを張って寝場所を確保する。
「隊長、危険はないのですか?」
 パスコーが少し心配げな顔で聞いてくる。
「ん? 精々が岩狼ロックウルフ牙猪サーベルボアくらいだ。魔獣はいない」
「そ、そうですか」
 実戦経験に乏しいパスコー・ラッシュはそれを聞いて少々及び腰。そんな様子を見たグロリアは少し励まそうと、
「探知結界もあるから不意を突かれることはない。もっと力を抜け」
 と声を掛ける。
「は、はい」
 それでも不安は拭いきれず、パスコー・ラッシュは少し青い顔で哨戒の任に付くのだった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170130 修正
(誤)グロリアの支持に、窓から下界を眺めていた者も席に着き、簡単なシートベルトを締めた。
(正)グロリアの指示に、窓から下界を眺めていた者も席に着き、簡単なシートベルトを締めた。
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