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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

1419/1538

39-04 鍋焼き

 二堂城での『図工教室』は盛況であった。
 雪が積もっているこの季節、農作業もほとんどなく、皆、暇を持て余していたのである。
「……こんなに来たのか」
 子供たちはほぼ全員。加えておかみさんたちが5名。村長の姪でエリックの妻、バーバラまでいた。
「そりゃあ年齢制限はしないけどな」
 小さい子供と同じ扱い、というわけにもいかないだろうと仁は悩む。
「二つに分けるか」
 内容は同じでも教え方を変える。変えるというよりも教室を変えるだけだ。
 ということで、バーバラとおかみさんたちは隣の部屋に移動して貰う。
 さすがに親と子が同じ教室で、というのもいささか気まずいだろう、という仁の考えであった。

 それで、第一日目は仁が子供たちを、エルザが大人たちを指導することになった。
「よーし、今日は粘土で器を作ってみよう。お皿でもカップでもいいぞ」
「はーい!」
「はーい!」
 子供たちに慕われている仁の言葉は素直に受け入れられた。
「それでは粘土を配りますね」
 助手は礼子だ。子供たちに粘土を配っていく。
 初心者にも扱いやすい粒の細かさとコシのあるものを選んである。

「よーし、いいか、台の上に体重を掛けてこね回すんだ」
「はーい」
「横に置いた桶の水で手を湿らせて、なじませるんだぞ」
「はーい」
 仁も2、3度くらいしか焼き物はしたことがないので、半分くらいは老君から聞いた内容を口にしている。

 ところで、焼き物を作るための粘土は、よく練って中の空気を抜いておかないと、焼いた際に『す』ができたり割れやすくなったりする。

「よーく練るとな、粘土の中の空気と粒子が均一化して滑らかになるし、乾かしても割れにくくなるんだ」
「はーい……?」
 最後の説明は、子供たちには難しすぎたようだった。
「ああ、あとは、感覚的に1.3倍くらいの厚みと大きさ……いや、少し大きめに作れよー。乾くと粘土は小さくなるからな」
「はーい」
 仁は一心に粘土をこね回している子供たちの間を歩いてアドバイスをしていく。
「大きなお皿はちょっと難しいぞ。粘土の重さで形が変わるからな」
「はーい」
 簡単なアドバイスだが、器用な子はそれだけで何かを悟ったように、思い思いの器を作っていった。
(考えてみると、結構どろんこ遊びの延長なのかもな)
 仁が思ったとおり、カイナ村の子供たちは、その大部分が遊びとして粘土でいろいろ作っていたことがあるのだ。
 もちろん焼くことはせず、実用にもならないものばかりであったが、『粘土の扱い』を覚えるには十分だったようだ。

*   *   *

 一方、大人組を教えているエルザ。助手はエドガー。
「これが粘土です。おおまかに練ってありますが、もう一度よく練って、下さい」
「はい、わかりました」
 大人組と言えども。子供の頃粘土遊びをした者がほとんど。こちらも手付きについては問題なしだ。
 エルザの指導も問題なく、皆好きなデザインの器を完成させたのである。

*   *   *

「よーし、じゃあ乾かそうか」

「はい、では、乾かします」

 仁とエルザはそれぞれの教室で、完成した生徒たちの器を前にしていた。
「『乾燥(ドライ)』」
 対象を乾燥させる工学魔法。表面から、ということもなく、均一に水分を飛ばしてくれるので割れが入ることもない。

「工学魔法を使わない時は日陰でゆっくり乾かすんだぞ」
「はーい」

「急いで乾かそうとすると、ひび割れが生じたり、最悪割れてしまうことが、あります」
「わかりましたー」

 エルザの方も順調に進んで、どちらも乾燥まで終了。

「それじゃあ焼き上げるか」
 仁は用意した焼成用の窯……パン焼き用のオーブンを改造したもの……に子供たち、大人たちが作った器を入れていく。
「『起動』」
 これも魔導具なので魔鍵語(キーワード)で動作する。
「さて、これで2時間くらいすれば完成だ。それまで……まずはお昼だな」
「わーい!」
 時刻は11時40分頃。正午には少し早いが、昼食にすることにした。
「興味のあるものは手伝ってくれ」
「はーい!」
 教室に来ている全員が……大人も含めて……手を上げた。
「それじゃあ手分けして仕度しよう。今日のお昼は鍋焼きうどんだ!」

 ここで仁は、鍋焼きうどん用の土鍋を、授業の前に見せておけばよかったと気が付いた。そして、
(よし、次の陶芸の時は土鍋を作る授業にしよう)
 と心に決める。

 まずはよく手を洗ってから、仕度開始である。
 ネギを刻む者、カマボコを刻む者、青菜を茹でる者、出汁を作る者、つゆを作る者、天ぷらを揚げる者(大人)などに分かれ、下準備を調える。
 図らずも家庭科みたいになったなあ、と思いながら、仁とエルザは鍋焼きうどんの準備を進めていった。

「よーし、よく煮えてから食べるんだぞ」
「はーい!!」
 一人一人に魔導コンロを用意し、その上に土鍋が載せられてぐつぐつ音を立てている。
「そろそろいいかな。熱いから気を付けてな。ああ、小鉢に取って食べてもいいぞ」
 取り分け用の器も用意させる仁。箸とレンゲも用意している。
 カイナ村の者たちは、近頃はすっかり箸の使い方も上手になっていた。
「クリプトナ(=ミツバ)を散らしても美味いぞ」
 仁はミツバの香りが好きなので熱々のうどん鍋にミツバを入れた。
 薬味としてはこの他、ゆず(もどき)と七味唐辛子が用意されている。

 七味の内容は『赤唐辛子』『麻の実』『胡麻ごま』『山椒さんしょう』『陳皮ちんぴ』『芥子の実』『海苔』である。
 店によって『生姜しょうが』、『紫蘇しそ』『青のり』が入ることもある。

 因みに元になった七味はミツホで仁のエージェント『ジョン・ディニー』が見つけてきたものである。
 土佐出身の『賢者(マグス)』が名付けたのであろうため、関西風の『七味唐辛子』『七味』と呼ばれていた。(関東、東京圏では七色唐辛子ということが多い)

「熱くて辛くて美味しくて……寒い時にはいいわね!」
 バーバラは夢中になって食べている。

「うわあ、おいしい」
「おいしいね!」
「ほら、鼻水が出てるぞ」
 子供たちも鼻水を流しながら一心に食べていた。

 そんな微笑ましい光景を見ながら、猫舌の仁もマイペースで鍋焼きうどんを味わったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170129 修正
(旧)内容は同じでも教え方を変える。変えるというよりも教室を変えるだけだ。
(新)内容は同じでも教え方を変える。変えるというよりも教室を変えるだけだ。
 ということで、バーバラとおかみさんたちは隣の部屋に移動して貰う。

(旧) ネギを刻む者、カマボコを刻む者、青菜を茹でる者・・・
(新) まずはよく手を洗ってから、仕度開始である。
 ネギを刻む者、カマボコを刻む者、青菜を茹でる者、・・・
 手を洗いましょうね。

(旧)よく練って中の空気を抜いておかないと、焼いた際に巣ができたり割れやすくなったりする。
(新)よく練って中の空気を抜いておかないと、焼いた際に『す』ができたり割れやすくなったりする。
 す は 鬆 ですが一般的でないですね。
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