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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-03 図工

 2月9日の朝は快晴だった。
 白銀の山々が朝日に照らされ、茜色に染まるのを部屋の窓から見るのは格別である。
 ショウロ皇国の首都ロイザート周辺からはこうした山は見えないので、なおのこと。
 口を濯いで顔を洗った2人は、急いで身支度を整え、窓辺に座る。
「綺麗……」
「だな」
 しばらく、仁とエルザはその風景に見とれていた。

「おにーちゃーん、ご飯だよー」
 階下からハンナの声が聞こえたので、仁とエルザは景色を眺めるのをやめ、階段を下りてマーサ邸へと向かった。
 茜色の山々は、既にその色を白銀に変えていた。

 マーサとミーネ、それにハンナが作った、心の籠もった朝食を食べると、仁とエルザは一旦カイナ村に別れを告げる。

*   *   *

「さて、何を準備しようか」
 蓬莱島に戻った仁はエルザと相談を開始した。
 と、そこに老君から報告が入る。

御主人様(マイロード)、申し訳ございませんが、1点のみ報告させてください』
「うん、どうした?」
『はい。このたび、クライン王国、フランツ王国、エゲレア王国、エリアス王国、セルロア王国の小群国が連合しまして旧レナード王国の調査に乗り出すことと相成りました』
「ほう。……あれ、ショウロ皇国は?」
『はい。ショウロ皇国は異民族の件がありますので、バックアップにとどめ、実務は小群国5国に任せるとのことです』
「なるほど……」
 賢明な女皇帝は、ショウロ皇国があまり功績を上げすぎるのもよくないと判断したのだろう、と仁は思った。
「わかった。調査の進み具合や、何かあった時なんかにはその都度報告してくれ」
『わかりました』

 ちょっと中断はしたものの、改めて仁とエルザは相談を再開した。
「俺のイメージだと、『趣味の工芸教室』なんだ」
「?」
 それだけではエルザには伝わらなかったようなので、補足説明をする仁。
「手の空いた時間に趣味をしようとする人に色々教える教室、と言えばいいかな」
「なんとなく……わかった」
 エルザも理解してくれたようなので話を進める。
「工芸の内容は多岐にわたるけど、最初から多くしても仕方ないので、2つから4つくらいに収めて、好きな内容のところに行ってもらうというのはどうだろう」
「ん、それもいいと思うけど、最初の最初だから、一通り基礎を教えるつもりで、全員一緒に同じことをさせるのもいいと、思う」
 要は『図工』の時間、とエルザは締め括った。
「ああ、なるほど。それもいい考えだな」
 今までの教室は『寺子屋』的に読み書き計算を中心に教えてきた。ここらで『図工』というのはいいかもしれない、と仁も賛成する。
「そしてこれは、『アヴァロン』で学園を開く際のテストケースにもなるな」
「あ、ほんと」
 そういう意味でやり甲斐がある。

「『図工』か……」
 仁が好きだった科目である。絵を書いたり、版画を彫ったり、粘土を捏ねたり、本立てを作ったり。
 昔を思い出し、この世界に似合う内容をピックアップしていく。
 エルザも、仁の知識を受け継いでいるので、多少のサポートはできる。
「お絵かき、はデザインの勉強上欠かせないな」
「粘土でお皿を作る、というのもいいかも」
「椅子を作る、というのもいいのではないでしょうか」
 そして礼子もまた助言をしてくれた。
「木工は、最初は部品を組み立てるところからかな」
「お絵かきは素描からがいいかも」
「粘土は、ちゃんと焼いてあげるのがいいのではないでしょうか」

 こうして、まずは『お絵かき』(素描)、粘土で皿作り、木の椅子の組み立て、に決まった。
「鋸や彫刻刀、針と糸、ハサミを使うのは次の段階でいいな」
「ん、賛成」
 そして仁たちは下準備に掛かった。
 エルザにとっても楽しい時間だったが、仁にはそれ以上に懐かしく、楽しかった。
 まだなにも難しいことを考えずに済んでいた小学生の頃を思い出せたのだから。

「画用紙も用意するか」
 ミツホ発祥の『木紙』を研究し、『洋紙』に近い紙も蓬莱島では作れるようになっていた。
 ベースは『木紙』、つまり『和紙』と同じ構成なので耐候性は抜群である。
「鉛筆も、いる?」
「4Bくらいの濃い奴がいいな。それから消しゴムも」
 黒鉛を固めて鉛筆を作ることもできている。これはこのあと『アヴァロン』で使う予定だが、仁はカイナ村で先に使ってもいいと思っていた。
 消しゴムの開発は少々難航した。要はそのままのゴムでこすると、消しクズが出ず、紙を傷めてしまうのだ。
「ゴムを少し脆くするよう、添加物を探したが見つからないため、魔法で処理したそうです」
 礼子が教えてくれた。
「『脆化(エンブリットルメント)』を使ったのか……」
「はい。加減が難しかったようですが」
 『脆化(エンブリットルメント)』はその名のとおり、物質を脆くさせる工学魔法だ。これを盾や剣に掛ければ、簡単に破壊できる。
「だが、こういう用途もアリだな」
「そうですね、お父さま。アメズたちを褒めてやって下さい」
「そうか、アメズたちの功績か。わかった。あとで直接言うが、老君からも俺が褒めていたと伝えておいてくれ」
『承りました』

 次の粘土は問題ない。カイナ村でも素焼きの土器を少しは作っているからだ。
「うわぐすりは次のステップだな」
「ん、それがいい、と思う」

 そして木の椅子。
「踏み台にも使える、がっしりしたスツールにするか」
 これは部材を作って嵌め込む方式とする。釘は一切使わないところがミソ。
「ちょっとだけこれまでと違う工法にすることで興味を持ってもらえたらと思う」
「ん、いいと思う」

 下準備は整った。
 呼び方も『工芸教室』改め『図工教室』とする。
「まだ時間はあるな。村長さんに言って、村中に通達してもらうか。早ければ明日から開けるだろう」
 少しせっかちではあるが、この季節、子供たちは退屈しているので問題ないだろう、という考えである。
 各家への連絡はゴーレムにやらせることにした。
「バトラーBとCに頼むとしよう」
 こうして、カイナ村では『図工教室』が開かれることになった。
 一つだけ誤算だったのは、子供たちだけでなく、興味を持ったおかみさんも数名参加表明してきたことである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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