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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-02 大いなる夢

「わあ、ありがとう、おばちゃん!」
 ミーネからのプレゼントはよそ行きの服だった。
 ドレスと言うには質素で、普段着と言うには華美。
 まさに『よそ行き』と呼ぶに相応しいグレード。動きやすさも考えられており、ハンナによく似合いそうだ。

 そしてマーサからは新しい靴。葡萄えび茶色の革製で、ミーネからの服とよく合いそうである。
「エリックの所の新商品なんだよ」
 新商品が出るくらい、エリックとバーバラの店も順調なようだった。

「こういうお人形、作れるようになりたいなあ……」
 ハンナがぽつりと言う。
「教えて、あげようか」
「うん!」
 エルザの言葉に飛び付くハンナ。
 魔法は使えなくても工学系の才能があるのだから、手作りの技術も身に付けるに越したことはない。
 これは仁自身が感じたことである。
 つまり、『作りたいもの』をどれだけ詳細にイメージできるか。それを鍛えるためにも、手に技術を付けることは重要なのである。

「あ、それなら、みんなにも教えてあげて欲しいかな」
 そんな仁の思惑など知らぬげに、ハンナが言いだした。
 雪のカイナ村、外での遊びは限られているので、こうした室内での楽しみは大歓迎なのである。
「そういえば、勉強会の方はどうなんだ?」
 最近は任せっぱなしだった仁が口を開いた。
「うーん、最初から参加していた子たちはもう四則演算終わってるよ」
「そうか」
 話を聞いてみると、だいたい小学校レベルの算数はマスターしたらしい。
「すごいな」
 とはいえ、科目数が少ない、という側面もある。
 国語(読み書き)と算数、それに雑学レベルの理科。社会としては簡単な歴史と地理。
 音楽、図工、家庭科はなし。体育は放っておいても遊び廻っているのでこれもなし、だ。
 そういう意味では、各科目の1日あたりの勉強時間は少し長いのである。
「でも、総じて、カイナ村の子供たちは優秀な気が、する」
 子供たちに教えていたこともあるエルザも、そう言って補足した。

「となると、あとは人間関係か……」
「え?」
「いやさ、学校の存在意義を考えると、知識とその応用を教えると共に、社会に出る前の人間関係を築くことも大きな目的だと思ってさ」
「……なるほど」

 とはいうものの、この世界にはまだ『学校』という形での教育機関はない。
 『教室』とか『講座』という形で、学者などが個人的に弟子を教えているだけで、貴族などは家庭教師が普通である。
 いずれ『アヴァロン』に学園を作ったら、カイナ村の子供たちも通わせたいと思う仁であった。
(意外な才能が埋もれていることだってあるからなあ)

「ジン兄?」
 少し考え込んでいたら、怪訝そうな顔をしたエルザに話し掛けられてしまった。
 エルザも、仁の顔つきから何か考え込んでいるのはわかったが、今回は少し長かったので声を掛けた、とのことだ。
「いや、ちょっと、『アヴァロン』に学園を作ることを考えていた」
「ああ、やっぱり」
 そうじゃないかと思った、とエルザは笑った。
「でも、いいと、思う。夢が、あって」
 その人が持っている才能を伸ばしてあげることができれば、どんな素晴らしいことができるようになるか。そんな夢。
「そうだな。大いなる夢だ」
「でもまずは、一歩一歩」
「うん、エルザの言うとおりだ」
 目標は高く、歩みは堅実に。足を止めさえしなければ、いつか辿り着けると信じて。

「まず、二堂城で手仕事を教えるとするか」
「手仕事?」
「俺とエルザ……いない時は職人(スミス)に、木工や金工、裁縫に編み物なんかをさ」
「ああ、いいと思う」
 カイナ村の面々は、ゴーレムに対して何の忌避感も示さない。むしろ親しみを感じている。
 仁のゴーレムに慣れ親しんでいるためだ。
「あ、あたし、お裁縫覚えたい!」
 マーサはどちらかというと編み物が得意なのだそうだ。
「ん、わかった」
 エルザはミーネから裁縫と編み物を教わっており、どちらも教えることができる。
「ハンナちゃんは器用だから、すぐうまくなると思う」
「あとはデザインか……」
 同時に、デザインも誰か教えてくれるといいのに、と思う仁であった。

「デザインは、ステアリーナさん、どう?」
「ああ、なるほど」
 クリスタルゴーレムを作る程の彼女だから、デザインのセンスも抜群だろう、とエルザは考えたのだろう。仁もそれに賛成だ。
 こうして、『二堂城工芸教室』の構想が固まったのであった。

*   *   *

 その夜は、ハンナたっての頼みで仁たちはカイナ村に泊まった。
 ハンナはミーネと一緒に寝る。
「11になっても甘ったれだねえ」
 とマーサにからかわれていたが。もっとも、マーサも本気で言ったわけではないのは、その笑顔を見れば一目瞭然である。

「……静か」
「うん」
 仁とエルザはマーサ邸に正対して建つ仁の工房2階に泊まった。
 家、というには少々簡素であり、生活用品も少ないので仁としてはやはりここは『工房』なのだ。
 二重にした白雲母製の窓からは冷気もほとんど入ってこない。
 部屋の外では礼子が温度管理をしてくれているので室内はおおよそ摂氏20度。冬服でちょうどいい気温だ。
 湿度も70パーセントと、喉に優しい。
「この村は、俺の第2の故郷……いや、この世界における故郷だよ」
「ん、わかる。人には……帰る場所が、必要」
「ああ、そうだな」
 肩を寄せ合いながら、仁は静かな声で語り、エルザもそれに応える。
「私も、ジン兄の『帰る場所』に……なれてる?」
「もちろんさ」
 エルザの問いに、躊躇いなく仁は答えた。
「どこへ行っても、俺の帰る場所はエルザの隣だよ」
 言ってから仁は照れくさくなって布団へと潜ってしまった。
 同じく、顔を赤くしたエルザも仁に続いて布団に潜る。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
 雪が積もっているせいか、物音がほとんど聞こえない、静かな夜であった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170127 修正
(旧)魔法工学の才能があるのだから、手作りの技術も付けるに越したことはない。
(新)魔法は使えなくても工学系の才能があるのだから、手作りの技術も身に付けるに越したことはない。

(誤)「いやさ、学校の存在意義を考えると、知識をその応用を教えると共に、
(正)「いやさ、学校の存在意義を考えると、知識とその応用を教えると共に、

(旧)その夜は、ハンナたっての頼みでカイナ村に泊まった。
(新)その夜は、ハンナたっての頼みで仁たちはカイナ村に泊まった。
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