挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

1416/1508

39-01 春よ来い

 2月8日はハンナの誕生日。
 この日のカイナ村は朝から雪が降っていたが、マーサ邸ではハンナの誕生日会が賑やかに行われていた。

「ハンナ、お誕生日おめでとう」
「ありがとう、おばあちゃん」
「お誕生日おめでとう、ハンナ」
「おにーちゃん、ありがとう」
「ハンナちゃん、お誕生日おめでとう」
「エルザおねーちゃん、ありがとう」
「お誕生日おめでとう、ハンナちゃん」
「ミーネおばちゃん、ありがとう」
「ハンナちゃん、お誕生日おめでとう」
「レーコおねーちゃん、ありがとう」
 参加しているのは主賓のハンナ、祖母マーサ、仁、エルザ、ミーネ、礼子。

 因みに、午前中は村の子供たちが来てくれてお祝いしてくれていたのだ。

 昼からは仁たち、というわけである。
 エルザとミーネが作ったケーキを切り分け、シトランジュースで乾杯しながら、皆は楽しくお喋りをする。
「ハンナも11歳か」
 仁が呟く。気が付けば、礼子よりも背が高くなっていた。
「ハンナちゃん、お勉強は、進んでる?」
 エルザが尋ねた。
「うん! 老君がいろいろ教えてくれるの。もう2次方程式の公式、覚えたよ」
「凄いなあ、ハンナは」
 中学生レベルの数学はとうにマスターしているということだ。
 元々持っていた閃きに加え、科学知識も基礎からきちんと学んでいくハンナ。将来が楽しみである。
「もし、『アヴァロン』に学校ができたら通わせたいな」
 仁が独りごちる。
 ハンナの才能を、素直に伸ばしてやりたいと思う『親』心のようなものだ。
「通うなら転移門(ワープゲート)を使えばいいし」
「ジン兄、それはちょっと」
 ハンナのこととなると自重をどこかに置き忘れてくる仁に、エルザが注意をした。
「それなら専用の飛行機を……」
「それもちょっと」
「そ、そうか」
 そんな仁を見てハンナはくすっと笑った。

 窓の外は、雪がちらちらと舞っている。
「今年は雪が多そうだな」
 雪の多い年は豊作、という言い伝えがある、と仁は口にした。
「ジン兄、どうして?」
「うーん、どうしてかな。……俺の考えだけど、俺のいた国は稲作が主で、それには水が必要なんだ。夏に水がなくなると『干害』といって凶作になるんだよ。で、雪が多いっていうことは、水に苦労しないということだから……かな?」
「でも、雪が溶けてしまえば、夏まで保たないんじゃ?」
「ああ、平地に多いということは山にも降雪が多いということだろうから。で、山に積もった雪はゆっくり溶けて地下水や伏流水になって麓を潤す……んじゃないかな?」
「ん、それなら、納得」
「おにーちゃんのいた国って凄いね! ね、そういう言い伝え、他にはないの?」
 エルザは納得し、ハンナは興味を示した。
「うーん、そうだなあ……」
 仁は中学生の頃、理科教師が雑談っぽく話した内容を思い出す。
「トンビが高く舞うと晴れ、とか、ツバメが低く飛ぶと雨、とかかな」
 仁は、トンビもツバメも鳥の種類だ、と補足する。
「うーん、鳥が高く飛ぶ、ということは上昇気流があるから。で、そういう時は日射が多いから晴れ。ってことかな?」
 ハンナが驚きの推測を述べる。
「そういうことだな。で、ツバメって鳥は虫を食べるんだが、雨が近くて空気中の湿度が多い時、虫はあまり高く飛ばないから……だと思う」
「面白いね!」
「昔の人が、経験から言い伝えてきたことだからな。確か、『観天望気』って言ったな」
「カイナ村にもあるよ。ええと、『鳥のさえずりが賑やかな朝は晴れ』だったっけ、おばあちゃん?」
「そうだよ。それに、『遠くの音が聞こえると雨になる』というのもあるね」
 ハンナが説明し、マーサが補足した。
「鳥の囀り……どういうことかな」
 仁もちょっと考えてみる。
「ジン兄、晴れた朝は明るくなるのが早いから、鳥も『一斉』に起き出すということじゃ?」
 曇っている時は鳥が起きる時間もまちまちになるのでは、とエルザが言う。
「ああ、そうかもしれないな」
 仁も頷いた。
「じゃあ、遠くの音、というのは?」
 これは、仁にも見当が付いた。
「おそらく音波が曲がるからだ」
「あ、屈折!」
 ハンナがわかった、とばかりに声を上げた。
「地上の空気密度が高くて、上空の空気密度が低い場合、音波って曲がるよね」
「そうだ。で、低気圧が近付くと、上空に暖かい空気が流れ込むんだろうな」
「きっとそうだね」
 それ以外にも、冬の夜、地表が冷えたときは遠くの音がよく聞こえることがあるのも同じような理由だ。

「ハンナちゃんはすごいのね」
 ミーネは目を丸くしている。
「そんなことないよー。みんな本で読んだ知識だもん」
 謙遜するハンナだが、そんな彼女に礼子が優しく語りかける。
「いいえ、ハンナちゃん。どんな人でも、どんな頭脳でも、知識だけでは成り立ちません。知識を正しく使うことのできる『智恵』があってこそです。そしてハンナちゃんにはそれがあるのです」
「レーコおねーちゃん、くすぐったいよー」
 礼子に褒められてハンナはもじもじしている。その仕草が可愛くて、皆ほっこりした気持ちになった。

「あっ、そうだ。ねえ、貰ったもの、開けていい?」
 照れ隠しに言うハンナに、皆頷いた。
「ええと、これ、おにーちゃんからだ。……あっ、時計!」
 ハンナ専用の懐中時計。首から提げられるよう、ミスリル銀の鎖が付いている。
「去年はごめんな」
 謝る仁に、ハンナは微笑みかける。
「ううん、おにーちゃんは忙しいんだからいいの。それに今年はこうして忘れないでいてくれたんだもん」

 次にハンナが開けたのはエルザからの贈り物だった。
「あ、お人形さん」
 エルザお手製の人形である。もちろん飾るものだが、内部に空気清浄の魔道具が入っていて、埃の除去から軽い除菌までしてくれる。
「ありがとう!」
「寝ているときって、病気に対して無防備になりがち、だから」
 マーサのためでもある。それを察したハンナは、嬉しかった。

「あ、雪が止んだ」
 窓から外を見たエルザが呟いた。つられて皆、窓の外を見る。
 のぞき始めた青空を背に、白銀の山が見えた。
「春も近いかねえ」
 ぽつりと、マーサが呟いた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170126 修正
(旧)老君がいろいろ教えてくれるの。もう3次方程式の公式、覚えたよ」
(新)老君がいろいろ教えてくれるの。もう2次方程式の公式、覚えたよ」
 さすがに3次は……orz
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ