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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

38 アヴァロン篇

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38-22 告白!

 『傀儡くぐつ』の氏族領でも仁は歓待された。
「して、本日の御用向きは?」
 氏族長、マクシムスが尋ねる。まずそれに答えたのは『森羅』の氏族長、バルディウス。
「儂が来ているから薄々察しているとは思うが、イスタリスのことで……なのだ」
「ふむ」
「ベリアルスはどうしている?」
「どう……って、普通に過ごしているが」
 ここで仁が口を挟む。
「申し訳ないですが、ベリアルスを呼んでもらえませんか?」
「それは構わないが。……おい、誰かベリアルスを呼んで来い」
 そばにいた給仕役の者に声を掛け、ベリアルスを呼びに行かせる。
 すぐにベリアルスはやって来て、仁たち一行を見、少し顔を綻ばせた。
「これはこれは、ジン殿、エルザ殿、……シオン。ようこそ」
 ベリアルスはにこやかに応対する。
「今日はどうしたのですか?」
 そんな彼に、仁は単刀直入に告げる。
「イスタリスが失踪したという話は知っているか?」
「……えっ」
 少しだけ開いた間がちょっと不自然だ、と思いつつ、仁はベリアルスからの次の言葉を待った。
「イ、イスタリスがいなくなったのですか?」
 少し……いや、かなり不自然な口調に、仁は確信する。
「ベリアルス、何を知っているんだ?」
「え……な、なんのことでしょうか?」
 仁にもわかるほどわざとらしい態度を取るベリアルス。
「いいんだ、俺はそういう間違った縁談をなんとかしようとやって来たんだから。ベリアルス、君はイスタリスが本当は婚姻を望んでいないことを知っていたんだろう?」
「え、ええと」
 ここでエルザが口を開いた。
「ベリアルスさん、ジン兄はみんな知ってる」
「は?」
「……私は、昔、望まない婚姻から逃げた。それを救ってくれたのが、ジン兄。だから、あなたも素直に、なって」
「私、は……」
 この時点で、マクシムスとバルディウスは声も出なかった。
 そして仁はマクシムスとバルディウスに向き直って話し出す。
「お二人とも、氏族のことを考えているのはわかります。でも、当人たちのことも、もう少し考えてあげてください」
 丁寧語がかえって重圧に感じられるのか、2人はたじたじである。
「は、はあ……」
「仰るとおり、ですな……」
 そしてどちらからともなく。
「マクシムス殿、我々は少し急ぎすぎていたのかもしれませぬな」
「バルディウス殿、同感です」
 話を聞いてみると、先の騒動で魔族の人口がさらに減ったことを憂えてこうした行動に出てしまったようだ。
「これからは、余計な争いもないようにし、健康増進に努めれば、人口は増加に転じると、思います」
 これについてはエルザが説得した。
「……まことにもって」
「お恥ずかしい……」
 どうやらマクシムスとバルディウスは、自分たちが少々性急に過ぎたことに気がついたようだ。
「と、すると、ベリアルスは……」
「私は、その、初めから、イスタリスについては同族に対する好意……以上のものは感じていません……」
 俯きながら、正直な心情を述べたのである。
「と、なるとイスタリスについてですが」
 仁は改めて話題を戻す。
「今回の縁談は破談……というよりも取り消しですな」
「さよう。それがいいでしょう」
「私に異存はありません」
 当のベリアルス、氏族長のマクシムスとバルディウスらは揃って今回の縁談をなかったものにする、と言い切った。
「周りには我々2人が少し先走った、と説明しますよ」
「そのくらいはせぬとイスタリスとベリアルスの2人に済まぬからな」
「そうですか」
 仁はほっとした。これで今回来訪した目的の半分は達成できたからだ。
 それで仁は次なるステップへと移ることにした。
「それから、ネトロスについてはどう思われますか?」
「どう、とは……」
 バルディウスが怪訝そうな顔になった。
「ええと、『森羅』氏族では、従者との仲を認めることってあるのですか?」
 仁としては遠回しに言ったつもりであったが、バルディウスはそれで察したようだった。
「まさか、イスタリスはネトロスと……?」
「そうなの、お祖父様! お願い、姉さまとネトロスのこと、認めてあげて!」
 ここで、ずっと黙っていたシオンが口を開いた。
「うむう……」
 バルディウスは難しい顔になった。
「確かに、従者と婚姻を結んだ者は幾人もおる。だが、氏族長の立場でそれは前例がないし、認めるわけにも……」
 イスタリスはラデオゥスとロロナの長女。このままで行くと、彼女の婿が『森羅』の氏族長になるわけだ。
「ああ、そんな……」
 シオンがしおれた。だが、すぐに顔を上げ、祖父に食い下がる。
「な、なら、あたしのお婿さんが氏族長になればいいんじゃない?」
 顔を真っ赤にしながらの発言だった。
「うむう、それならば問題はないが……相手がのう」
 相手もなにもシオンはまだ71歳、人間でいえば14歳相当だ。魔族の慣例としてもあと9年、すなわち80歳にならないと成人扱いにはならない。
「別にいいではないですか。あと10年や20年。ラデオゥス殿もおられることだし」
 ここで『傀儡くぐつ』のマクシムスが口添えを行った。
「マクシムス、そなたのところは孫も大勢おるから後継ぎには心配ないじゃろうが、うちはのう……」
「あの……」
 ここでベリアルスが口を挟んだ。
「私とシオン……さんではまずいでしょうか?」
「え?」
「はい?」
 エルザと仁は思い掛けない発言に虚を突かれてしまった。
 が。
「ひょえっ!?」
 シオンは驚いて飛び上がらんばかり。その顔はさらに赤く、熟れたアプルルのよう。
「シオンさん、実は私、お姉さんのイスタリスより貴女のことが……」
「ええ……? ええええええええええっ!!」
 誰も予想だにしなかったベリアルスの発言に、その場は混沌としてしまう。
 だが、意外にもシオンは嫌がっていないようなのだ。
「ええと、あたし、姉さまとは比べものにならないくらいがさつだけど……」
「がさつではないです。元気なだけです」
「教養だってないし……」
「ご謙遜しなくても」
「ほ、ほら、あたしってその、いろいろ小さいし……」
「まだこれからですよ、貴女は」

「……」
 仁とエルザは呆気に取られてその様子を見ていたのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170203 修正
(誤)「マクシムス殿、我々は少し急ぎすぎていたのかもしれせぬな」
(正)「マクシムス殿、我々は少し急ぎすぎていたのかもしれませぬな」

(誤)「ええと、あたし、姉さまとは比べものにならいくらいがさつだけど……」
(正)「ええと、あたし、姉さまとは比べものにならないくらいがさつだけど……」
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