挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

38 アヴァロン篇

1406/1568

38-15 工房訪問

 礼子が振るった拳。
 さほど力を入れたようには見えなかったその一撃で、大岩は砕け散った。
 が、礼子もうまく加減したので、粉微塵になることはなく、使いやすい大きさ程度で済んでいる。
「おおー!」
「ごっついわぁ!」
 歓声が上がる。
「さすが『魔法工学師マギクラフト・マイスター』の従者様や!」
「助かりました!」
 そんな声を背に、礼子は工事中の水路からジャンプ一番、仁の横に戻って来た。
「ご苦労さん、礼子」
「いえ、あれでよかったでしょうか」
「ああ、上出来だった」
「レーコ様、素晴らしいお手並みでした!」
 ミイもまた手放しで褒め称える。そして。
「やっぱり『魔法工学師マギクラフト・マイスター』様は凄かった!」
 現場監督デューザもまた、最敬礼をしていたのである。
 どうやら、仁のことを尊敬しているにも関わらず、素直にそれを表に出せなかったようだ。
 仁自身はあまり気にしていないが、礼子はちょっと気になっていたようで、改まったデューザの態度を見て、満足そうに微笑んでいた。
(削岩機を作ったらいいのかもな)
 一方で仁はそう思っている。見たところ、そうした道具は見あたらなかったのだ。

*   *   *

 そんな一幕もあったが、一行は興味深く工事現場を見て回り、付近にあった休憩施設で昼食となる。

「これは美味しいですね」
「ん、美味しい」
 ラインハルトとエルザは昼食に舌鼓を打っていた。もちろん仁も。
 用意されたのはつきたての餅を大根おろしと醤油で食べるもの。
 仁も施設で餅つきをして何度か食べたことがある。
 砂糖ときな粉をまぶして食べるのが好きな子もいた。
 それを言うと、
「なるほど、丸豆(大豆)の粉と砂糖、ですか!」
 ミイがさっそく取り寄せようとするのを、仁が注意した。
「きな粉はただの粉じゃないですよ。ちゃんと丸豆を煎って皮を取ってから粉に挽かないと」
 大豆粉ときな粉は違うものである。仁はそこのところを丁寧に説明した。
「そうなんですね、よくわかりました。ありがとうございます!」
 これについては仁も院長先生から薫陶を受けたのでよく知っているのだ。
 そんな話をしながら、昼食のひとときは和やかに過ぎていった。

*   *   *

 午後はサヤマ湖側へ行ってみることになった。
 こちらには、水門付きの水路が9割方完成していた。
「巨大な水門ですね」
 仁も感心するほど見事な出来だ。もちろん、『魔法抜きで作った』という前提条件を付けた場合だが。
「そういえば俺も、すっかり工学魔法があって当たり前になっているなあ」
「……ジン様?」
「……ジン兄?」
 仁の呟きにミイとエルザが反応した。ラインハルトは水門の構造に気を取られていて気付いていない。
「いや、たまには魔法抜きで何か作ってみたくなったなあ、と」
 正直な言葉を漏らした仁に、ミイが提案する。
「それでしたらこのあと、どこかの工房を見学に参りましょうか?」
「工房見学? いいな!」
 工房と聞いてラインハルトが文字どおりすっ飛んできた。
「どんな工房があるんです?」
「木工系……彫金系……鍛冶系……建築系……それに総合系、といったところでしょうか」
 ミイが考え考え説明してくれ、それだけで仁たちにはなんとなく雰囲気がわかった。

 木工系は家具、小物などの指物といわれるものと彫刻。
 彫金系はアクセサリーなど。
 鍛冶系は刃物や鍋釜類。
 建築系はいわゆる大工さん。
 総合系は人力車や船など、技術の複合したもの、となる。

「全部見たいけど、木工かなあ。それも指物系」
 魔法なしで何か作るとなるとこれだろう、と仁は思った。
「指物ですか? よくご存知ですね。さすが『魔法工学師マギクラフト・マイスター』様!」
 ミイが感心している。『賢者(マグス)』もよくその言葉を使っていたそうだ。
 ということで仁一行はミイに案内され、サヤマ湖湖畔に建つ工房『工房湖畔』へとやって来た。
 そのまんまなネーミングに、少し親近感を覚えつつ仁はミイが話を付けてくれるのを待った。
「お待たせしました。見学させてもらえるそうです。もっとも、ジン様の名前を出して断る工房なんてありませんけどね!」
 仁の横では礼子が誇らしげな顔をしていた。

 そこへ工房の主らしい男が顔を出した。
「おお、ジン様! ご来臨、まことに光栄です!」
 仁は覚えていないが、向こうは仁の顔を知っているようだ。
「ふふ、ジン様は有名人……いえ、ミツホの救世主ですものね」
「いやまことに。私は『工房湖畔』の主人、タッツァー・クロダと申します」
 タッツァー・クロダは20代後半くらいの小柄な男だった。
「さあ、どうぞ」
 タッツァーの案内で工房に入ると、木の香りが鼻をくすぐった。
「ああ、ヒノキの匂いだ」
「おお、ジン様はわかりますか! 『賢者(マグス)』様もこの木を好まれたそうですよ」
 ヒノキは針葉樹で、木肌が美しい。湿気やカビにも強く、1000年の建物、法隆寺もヒノキ造りである。
 第1級の建築材であるが、工作材としても優秀だ。
「ヒノキの箱に小箪笥こだんすですか」
 仁はサンプルとして棚に置かれたそれらを眺めた。
「ううん、素晴らしい技術だな!」
 ラインハルトも感心している。
「向こうでは……ああ、桐箪笥ですね」
 桐は軽く湿気に強いだけではなく、火事の際は水を掛けて含ませると燃えにくくなるため、中の衣類を守ってくれるのだ。
 その桐そっくりな木材で一般的な箪笥が作られていた。
 桐やヒノキの端材はまな板に加工され、利用されているようだった。
「お、こっちは子供向けのおもちゃか」
 仁に取って懐かしい、独楽コマとけん玉があった。これもまた『賢者(マグス)』が伝えたものだろう。
 前回の訪問時には見なかったので尚更仁ははしゃいでいた。
「ジン様、けん玉ご存知なんですの?」
 独楽コマに関しては他の土地でも作られているのだが、けん玉はここミヤコの特産であった。
「ああ、少しはできるんだ」
 そう言いながら、仁は何年ぶりかでけん玉を手に取ったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170116 修正
(誤)家事の際は水を掛けて含ませると燃えにくくなるため
(正)火事の際は水を掛けて含ませると燃えにくくなるため

(誤)礼子は工事中の水路からジャンプ1番、仁の横に戻って来た。
(正)礼子は工事中の水路からジャンプ一番、仁の横に戻って来た。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ