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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

38 アヴァロン篇

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38-14 工事現場

 マーサの誕生日を祝った翌日の1月29日、仁とエルザ、礼子は何食わぬ顔でミヤコに戻っていた。
 昨日は迎賓館に篭もって図書室の蔵書を読み耽っていたことになっている。
 事実2人の分身人形(ドッペル)は、膨大とも言える蔵書をほとんど読み終えてしまっていた。
 当然、その内容は老君の記憶装置に蓄えられている。

「ジン様、エルザ様、ラインハルト様、今日はいかがなされますか?」
 朝食後、饗応役のミイが尋ねてきた。
「そうだなあ、今、水路の工事をしているだろう? あれを見学してみたいかな」
 仁自身は土木工事の知識はほとんどない。蓬莱島で行っているのは力業だ。ゆえにこの機会に少しでも知識を吸収しておきたかった。
「わかりました。手配しますね」
 ミイは頷き、一旦部屋を出ていくが、しばらくして戻って来た。
「ちょうど現場監督が役場にいましたので話を通しておきました。『『魔法工学師マギクラフト・マイスター』様にご覧いただけるなら光栄だ』と申しておりましたよ」
「は、はあ」
 相変わらず持ち上げられることに慣れていない仁は少々居心地の悪さを感じるが、お膳立てしてくれたミイにはそんな素振りを見せなかった。
「では、今からでもまいりますか?」
「いいですね」
 特に予定もないので、仁たちは即見学へと向かうことにした。

「……これは代わった乗り物だな」
 1人ずつ人力車に乗ったラインハルトは正直な感想を漏らす。
「代わりにゴーレムに牽かせればいいのに」
 その呟きに、隣の車の仁が反応した。
「いや、その場合車の強度を上げないと危険だぞ」
「ああ……確かにな」
 仁の一言でラインハルトは危険性を認識した。
 今は人間が走る速度だからいいが、ゴーレムが牽けば時速50キロは楽に出る。
 その速度で人力車のように華奢な車体が横転でもしたら。
「速度は出せないゴーレムにするという手もあるな」
 危険ならリミッターをかける手もある、という仁。
「なるほどな。力はある、持久力もある。需要はあるかもしれないな」

 そんな会話を交わしているうちに街外れに着いた。
 ここはちょうど、ミヤコの町中に水路を作り始めている場所であった。
「おお、凄いな!」
 ラインハルトが感心したような声を上げた。
 それもその筈、工事は全て人力で行われているのだ。
「ようこそ外交官殿、そして『魔法工学師マギクラフト・マイスター』殿」
 現場監督らしき男が出迎えた。
「デューザさん、よろしくお願いしますね」
 ミイが挨拶をする。監督はデューザというようだ。
「簡単にご説明させていただきますと、まず水路を掘り、完成後水を流すわけですが、その際にいろいろと気を付けねばならないことがございまして」
「なるほど」
 一番気を配るのは水路が崩れないようにすることと水漏れの2点だという。
「確かにそれが確保できなければ水路として運用できませんね」
 仁が答えると、デューザはにこりと笑い、
「あと一つ、なかなか困難な項目がありましてな。御推測できますか?」
 と言う。
 その言い方が少しだけ挑戦的だったので、仁も本気になって考えてみた。
「ええと、水路の敷設で大事なこと、ですね」
 仁は、カイナ村で温泉を引いた時のことを思い出す。
 工事自体は工学魔法で行ったが、注意事項は変わらないはずだ。
 ……と、一つのことを思いつく。
「水路の傾斜、でしょうかね?」
 勾配を考えて作らないと水が流れ込まなかったり逆流したり澱んだりと、水路としての役をなさないわけだ。
「ご名答です。さすが『魔法工学師マギクラフト・マイスター』様」
 デューザも仁の答えに少し驚いたようだった。

*   *   *

 少しサヤマ湖寄りに移動した一行は、今まさに掘り進めている場所へとやって来た。
「このあたりは石の層が多いので、掘るのに苦労している箇所です」
 工事の様子を見せながらデューザは説明をしていく。
 確かに、スイカより大きいくらいの石がごろごろと出てきている。
「掘り出した石は加工して水路の壁や底に敷き詰めて補強するのに使います」
「無駄にしないわけですね」
 重い石を、廃棄のため遠くまで運ぶというのは作業効率が悪いから、という理由だそうだ。それはそれで合理的である。
 ただし石の加工はタガネを使い、人力である。
 江戸時代かよ、と思う仁であるが、これがミツホ流なのであろう。
 いずれ小群国との交流が進めば、こうした作業もゴーレムが行うようになるのだろうか……と、タガネが石を刻む音を聞きながらぼんやりと思う仁であった。
 その時。
「監督ー!」
 現場から大声が掛かった。
「どうした?」
「どでかい石が出てきましたっす!」
「いや、これはもう岩やねえ」
 仁たちも一緒になって現場を覗き込む。
 そこには水路を塞ぐようにして顔を出した巨大な岩があった。
「……チャートみたいだな」
 蓬莱島の研究所にも使われている硬い岩石である。
「こいつは骨が折れるなあ」
 現場監督のデューザも渋い顔をした。
 そんな時、ミイが仁に質問をしてきた。
「ジン様、こういう時、東の国の方ではどうするのですか?」
「幾つか方法はあります。どれも魔法絡みですね」
「例えば?」
「工学魔法で分割するか、ゴーレムに掘り起こさせるか……」
「わたくしなら砕けますが」
 礼子も横から口を挟む。仁は苦笑した。
「それはそうだが一般的じゃないな」
 が、それを聞いたデューザは仁に向き直った。
「ジン様、それは本当ですか?」
「え?」
「あの岩を砕ける、というのがです」
「簡単ですが」
 仁に代わって礼子が答えた。
「……やりましょうか?」
「是非!」
「わかりました。お父さま、よろしいですか?」
「ああ、頼まれごとだしな。でも程々にな」
「はい」
 礼子は工事現場へ飛び降りた。
「皆さん、危険ですからどいて下さい」
「え?」
「あ、あなたは『魔法工学師マギクラフト・マイスター』様の従者様。よろしくお願いいたします!」
 工夫の中に礼子のことを見知っている者がおり、全員大急ぎで退避した。
「では」
 礼子は軽い一撃を放った。
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