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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

38 アヴァロン篇

1401/1622

38-10 魔水銀

「ね、ジン兄」
「ん?」
「それって、対価じゃないと、思う」
「あ」
 『通信機』を必要としているのは仁ではないからだ。
「うーん、でも俺が報酬としてもらって、広めるために使えば……」
「それならいい……の、かな?」
 利益を得るために行うのではなければいいだろうと仁は思っていたのだが、思わぬエルザからの突っ込みに考え込んでしまった。
「うーん……」
「なんか、ごめんなさい」
「いや、それはいいんだが」
 仁もちょっと思慮不足だったと反省した。

「ではジン様、こういうものはいかがでしょうか?」
 そんな仁とエルザの様子を見て、氏族長ファビウスが助け船を出した。
「洞窟内の再開発ということで、先日より鉱石採掘を開始したのですが、このようなものが採れております。調べてみますと埋蔵量も多いようです」
 ファビウスは容器を指し示した。
「これは……」
「……水銀?」
「いや。『魔水銀』か」
 水銀の魔力同位元素(マギアイソトープ)。どこかにあるはずと思っていたが、魔族領で産出することが今、わかった。
(あの時は南の島とか言っていたから、まだ他にも産地はあるんだろうな)
 と考えながらも、目は魔水銀に釘付けだ。
「……ジン兄、この『魔水銀』、思ってたのと、違う」
「え?」
 仁より先に魔水銀を『分析(アナライズ)』していたエルザが仁に報告した。
「水銀蒸気が発生して、いない」
「何? ……『分析(アナライズ)』……なるほど……」
 仁は考え込んだ。以前、『流体変形式動力フルードフォームドライブ』を使ったゴーレムがセルロア王国を騒がした事件があった。
 その時に使われた流体金属……水銀の魔力同位元素(マギアイソトープ)と思われるそれは、水銀蒸気により使用者の脳を害していた。
 だが、目の前にあるこれは違っていた。
「うーん……どういうわけか、融点は水銀と変わらないのに、沸点は高い、ということになるのかな」
「ん、そういうことだと、思う」
「魔力子の関係かあるいは自由魔力素(エーテル)の効果か……」
 いずれにしても、人体への害が少なそう、ということは朗報である。
「これは素晴らしいですね」
 仁はそう答えた。
「それはよかった」
 ファビウスもほっと胸を撫で下ろしたのである。

 ということで、この『魔水銀』を対価とすることに決まる。
「単価をどうしましょうか……」
「それはジン様にお任せします」
「うーん、そう言われても」
 仁としても、こうした金属素材の相場はまるで素人だ。
 結局、老君と相談の上、貴重な素材ということでアダマンタイトと同じ、ということにした。つまり、キロ1000万トール(日本円換算で1億円)。
 だがファビウスにそう提案すると、
「とんでもない! その10分の1で結構です!」
 と言われてしまい、結局キロあたり100万トール、ということで落ちついたのである。
 容器一杯、100キロ以上の『魔水銀』をマキナが軽々と運んでいるのを見て、ファビウスが目を丸くしていたのは余談である。

「サキが喜びそうだな」
「ん」
 仁は、サキにこの『魔水銀』の研究をしてもらおうと考えたのであった。

*   *   *

 『福音』の氏族領で一泊したのち、仁一行は他の氏族領も順に回っていく。
 『傀儡くぐつ』、『侵食』、『孤高』……。
 どの氏族も、仁からのゴーレム馬を喜び、また仁の提案に賛成してくれたのであった。
「魔族が氏族ごとにまとまっている、というのも、もしかすると個人主義だったヘール人の特色を色濃く受け継いでいるからなのかな」
 移動中の『ヴァルカン』のなかで仁はひとりごちた。
「そうかもしれませんね、お父さま」
 それを聞きつけた礼子が応じる。こういうところに、古い『血』が出るのかもしれない、と考える仁であった。

「それにしても、『魔水銀』がこんなに沢山手に入るとはな」
 他の氏族でも、余裕ができたためか鉱石の採掘を行っており、それぞれから仁は平均して100キロずつの『魔水銀』を入手。
 結果的に約1トンの『魔水銀』を手に入れたのであった。
 とはいえ比重は約13.5、見た目の量としては大樽1杯分しかないのだが。

「うーん、北の地で採れる『魔水銀』は自由魔力素(エーテル)含有量が多いのか?」
 自由魔力素(エーテル)の少ない南の地で採れる(らしい)『魔水銀』は、通常の水銀とほとんど変わらない物理特性を見せていた。
「ジン兄、その可能性はある、かも」
「やっぱりそう思うか。地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸も、産地によって強度が違うから、あり得ると思うんだよな」
「ごしゅじんさまの予想が正しい気がします」
 アンも賛成してくれた。
「そうすると、やはり自由魔力素(エーテル)濃度に関係あるのかもなあ」
 こうなると、南にあるという産地で採れた『魔水銀』も調べて見たいと思う仁であった。

*   *   *

「おおー! ジン、これはすごいよ!!」
 案の上、サキは大喜びだった。
「サキ、安全に見えるが水銀は水銀だ。慎重に扱ってくれよ?」
 水銀中毒になったら目も当てられない。
「うん、その点はわかってるよ。取り扱いはアアルにやってもらうことにする」
「それがいいな。あとは換気かな。マスクも忘れるなよ?」
 沸点を調べる実験もする可能性があるなら、水銀蒸気を吸わないような注意も必要だろう。
「簡易宇宙服を着てもらえると安心なんだが」
「うーん、努力する」
 心配そうな仁とエルザに向かい、サキは笑いかけたのである。

「老君、注意してやってくれよ?」
 それだけでは心配なので、仁は老君にも念を押した。
『はい、御主人様(マイロード)。承りました』
「頼む」
 こうして仁はようやく安心したのであった。
 サキが過保護だなんのと言っていたようだが、過去の彼女を知っている仁としてはこうでもしないと安心できなかったのである。

「さて、次はミツホへ行くとするか」
 まだまだ忙しい仁なのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170111 修正
(誤)仁としても、こうした金属素材の相場派まるで素人だ。
(正)仁としても、こうした金属素材の相場はまるで素人だ。
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