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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

38 アヴァロン篇

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38-07 本音

「一番の問題は距離感だと思うのですよ」
 会議はまだ続いている。
「『遠い』『近い』。『時間が掛かる』『時間が掛からない』。その差が大きい」
 セルロア王国国王セザールだ。
「ゆえに我が国は、全力を挙げて転移門(ワープゲート)の改良を進めましょう」
 列席者は納得した。
 仁も、『確かに、不公平感の最たるものは距離かもしれない』と思ったことはある。

 現代日本で都市部に人口が集中するのも、勤務先や娯楽により近い、便利な場所を選ぶからだ。
 だが、都会は住みづらい面もある。物価や土地価、大気汚染などだ。
 住むなら田舎、暮らすなら都会。仁はそんなことを考えたこともあった。
 だが、いくら交通機関が発達しようとも、通勤に2時間掛けてまで田舎暮らしをしたいという人間はまれだったのだ。

「移動が一瞬なら、遠い国近い国は関係なくなるでしょう」
 セザールの言葉はまだ続いている。
転移門(ワープゲート)の実用化を前提にして、旧レナード王国のこれからを考えようではありませんか」
 拍手が起きた。
「なるほどなるほど。まさにこういうこと、これこそが技術の発展、社会への寄与なのですね」
 エリアス王国のアルフォンス王太子が賛嘆した。
「セザール陛下におかれましては、転移門(ワープゲート)の改良を是非進めていただきたく思います」
「もちろんですとも」

 航空機、高速自動車道路、そして高速鉄道。それらを以てしても世界はたいして狭くならなかった。
 だが、転移門(ワープゲート)なら。
 人々がそう期待するのも無理はなかった。

 それからも様々な意見が出たが、最終的な結論としては、
『急いで結論を出さない方がいい』
 ということに落ちついたのである。
 やはり領土問題というものは一筋縄ではいかないようだ、と仁は思った。

*   *   *

「いやいや、充実した3日間でしたな」
「さようですな」
「1年前までは、各国代表がこうして一堂に会するなど夢にも思いませんでしたよ」
 3日目の夕食は立食パーティ形式で行われた。
 そのため、これまで以上に各国代表間の交流が行われているようだ。
「陛下、3日間お疲れ様でした」
 そんな中、仁は女皇帝を労いに行った。
「ジン君、ありがとう。でも、この3日間、大変ではあったけれど楽しかったわ」
 女皇帝は微笑ながらそう告げた。
「ジン殿も準備が大変であったでしょう」
 そこにやって来たのはアーサー王子。
「今回は妹を同行できなかったのが残念ですよ」
「同感ですな。息子を同道できなかったのが悔やまれる」
 エゲレア王国国王、ハロルド・ルアン・オートクレースもやって来てそう言った。
「王子殿下、王女殿下のご婚約、まことにおめでとうございます」
 仁は改めて祝いの言葉を述べた。
「『崑崙君』にそう言われると嬉しいな」
「式はいつ頃になりそうなんですか?」
 非公式の場であるから、こんな質問もできる。
「今年で14だからな、来年、ということになるだろう」
 15歳が成人、というこの世界なので当然の日程である。
「その時は教えて下さい」
「もちろんだとも。『崑崙君』を招かないという法はない」

 また、別の一角でも楽しげな話し声が。
「そうか、グロリア殿も希望しているのか」
「というと、フリッツ殿も?」
「ああ。『世界警備隊』、やり甲斐があるではないか」
「ふふ、そうだな」
「同僚になれたならよろしく頼む」
「あ、ああ、こちらこそ」

 また、『黄金の姫君』、エレナも大人気であった。
「エレナ殿、お見知りおきを」
 今話し掛けているのはショウロ皇国の総務相、マーヤス・クルダムである。
「ショウロ皇国のマーヤス・クルダム総務相でしたわね。こちらこそ、ですわ」
懐古党(ノスタルギア)、という組織はなかなか凄いようですな」
「お恥ずかしいですわ。有志の集まり、ですので」
 ここに、セルロア王国国王セザールがやって来た。
「有志、とはいえ、有能な者を多く抱えているではないですか。……なあ、ドナルド?」
 最後の言葉はエレナの隣に立つドナルド・カローに向けてのもの。
「は、いえ、陛下」
「はは、恐縮することはないぞ。私としても、先代の時の我が国は少々行きすぎたと思っているのだから。そなたが役職を捨てたことを今更咎め立てする気もない」
「恐れ入ります」

 そして、クライン王国国王アロイス三世は、仁と会話をしていた。
「『崑崙君』、なかなかゆっくり話ができなかったが、少し時間を取ってもらえるかな?」
「もちろんです、陛下」
 仁がそう言うと、アロイス三世は、ふ、と笑った。
「思えば、貴殿が我が国に……そう、カイナ村にいてくれた時に、歓待していれば……と今でも思うよ」
「……恐縮です」
「あの時、無能に任せず、自ら出迎えていたらと何度思ったかしれぬ」
 アロイス三世の顔は少し赤い。どうやら酔っているようだ。
 少し離れた場所には護衛の騎士、パスコー・ラッシュがいて、心配そうに見守っている。
「だが、愚痴をこぼしても詮無いこと。貴殿は今や各国の王族と肩を並べるまでになった。いや、実力では凌いでいるかもしれん」
「陛下……」
「貴殿なら、力ずくで世界を統一もできるであろうに。それをしないのはなぜなのだ?」
「……以前にも申し上げたかもしれませんが、そんなものに『興味がない』からです」
「ふふ、興味がない、か。過去から現在に至るまで、多くの国、多くの王が夢見たであろうことを興味がない、で切って捨てるか」
「えーと、なんか、済みません?」
「いや、済まんのはこちらだ。我は何を言っているのだろうな。……少々酔っているようだ。忘れてくれ」
 そう言い残してアロイス三世は仁の傍を離れていった。
(何が言いたかったのだろうな……)
 それはやはり、己を手元に置きたかった、そう言うことなのだろうか、と仁は想像した。
 仁も、どこかの町で、小さな工房を経営する己の姿を少しだけ考えないこともない。
(そういう道も、あったのかもしれないけど)
 今、仁が選んだ道は困難な、曲がりくねった道である。
 一介の技術者で、根っからの庶民である仁には厳しいかもしれない。
 だが仁は、選んだからにはなんとかして歩みきるつもりであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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