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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

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37-33 閑話70 温室

「まあ素敵!」
 エルザの義母、マルレーヌ・ランドルが歓声を上げた。

 1月15日、エルザの実家の中庭に、仁は温室を完成させたのだ。
 中庭は十分な広さがあったので、温室もそれに合わせて大きい。
 形は半球型。つまりドーム状だ。
 直径50メートル、高さ15メートル。
 軽銀のフレームに、『強靱化(タフン)』を掛けた石英ガラス張り。
 エアコン機能を備え、1年中摂氏28度、湿度70パーセントを保つことができる。
 もちろん温度・湿度は調整可能だ。
 光属性の魔結晶(マギクリスタル)を利用した太陽灯も備えていた。

「ジンさんはこんな凄いものを一夜で作ってしまえるのですね」
 蓬莱島で加工したパーツを、職人(スミス)10体が一晩で組み上げたのである。
「気に入っていただけたでしょうか?」
 仁が尋ねると、マルレーヌは嬉しそうに頷いた。
「ええ、もちろんよ。ジンさん、ありがとう」
 喜んでもらえて仁もほっとした。
「お母さま、中を案内、します」
 エルザが案内を申し出る。ドームは仁が担当、内部のレイアウトはエルザが担当したのである。
「ええ、お願いするわ」

 ドームの東西南北には出入り口がある。
 エルザたちは南の入口から入った。
「この辺は草花のお花畑」
「綺麗ね」
 亜熱帯性の草花が植えられており、幾つかはもう花を咲かせていた。
「こっちはハーブ」
「まあ、素敵。ミントやラヴァンドラ(=ラベンダー)、ペラルゴ(=ペラルゴニウム)が植えてあるのね」
 その他にもジャンジー(=ショウガ)やラモンセージ(=レモンセージ)などが所狭しと植えられている。
「ミントは気を付けないと増えそうね」
「ん、気を付けてあげて」
「ふふ、わかったわ」
 ミントは繁殖力が旺盛で、油断すると庭一面に広がるほどなのだ。
 マルレーヌはそれを承知しており、手入れの仕方も知っていた。

「右手は、薬草」
「まあいいわね」
 民間薬レベルではあるが、スウェルチア(=センブリ)、フーロ(ゲンノショウコ)、ゼラニー(=ユキノシタ)などが植えられていた。
「少しずつ、種類も増やしたい」
「ふふ、そうね。エルザは『国選治癒師(ライヒスアルツト)』でもあるんですものね」

 一行はそのままドームの中心部へ。
「まあ、池があるのね」
「そう。で、噴水」
「まあ素敵」
 ドーム内の湿度を上げるのに一役買っている池と噴水である。
「噴水には熱帯性の水草。スイレンと……ジン兄、これなんだっけ?」
「見たことない植物ね。大きな葉」
「蓮、だな。こっちではロートスだっけ」
「そうそう、ロートス。もう少しすると綺麗な花が、咲く」
 その他、池には小魚も泳いでおり、ビオトープに近い環境となっている。

「東の方へ回ると……ほら」
「まあ綺麗!」
 その一角はランが植えられており、マルレーヌの好きなカトラー(=カトレア)が色鮮やかに咲き誇っていたのである。
 カトラー以外にも亜熱帯性のランが蓬莱島や崑崙島から運ばれてきていた。

「ジンさんが?」
「ん、集めて、運んでくれた」
「『コンロン3』が役立ってくれましたよ」
 実際には『ペリカン』や転移門(ワープゲート)も使っているのだが。
「嬉しいわ、ありがとう」
「いえ。なかなか顔を出せないお詫びです」

 ランの花壇と小径を挟んで東側にはサボテンが植えられていた。
「これは見たことないわね……」
「サボテン、といいます。砂漠に生える植物なんです」
「この一角はなんとなく涼しいわね」
 マルレーヌは空気が変わったことを感じ取っていた。
「はい。サボテンは乾燥地帯の植物なので、温度はそのままに、湿度を40パーセントまで落としています」
 気体用の結界により、こうしたことも可能だ。気体用なので人間の行き来には影響しない。
「ジンさんの技術は凄いわね……それに、知らない植物も多いわ。覚えるのが楽しみ」
 マルレーヌの顔は輝いていた。
 それを見て、仁とエルザは心中密かに快哉かいさいを叫んだのである。

 そのまま、北東側のエリアへと移動する一行。
「こっちは灌木、こっちはつる性の花」
 それぞれ、ツツジ類とテッセン類が多く植えられている。
「これはムラサキアザレー(=ムラサキヤシオ)かしら。向こうのはデーマリ(=コデマリ)ね。あら、ピオニー(=ボタン)もあるわ」
「お義母さん、やっぱりお詳しいですね」
 仁が褒めると、マルレーヌは少し照れた様子で、
「あらいやだわ。このくらい常識でしょう?」
 と答えたのである。
「お母さまの花に関する知識は専門家並み」
 珍しくエルザが突っ込みを入れた。

 そのままぐるっと反時計回りに回っていく。
「あら、こっちには木が多いわね。初めて見る花ばかり」
 5メートルくらいの花木が植えられたエリアにやってきた。
「亜熱帯産の花木を植えています」
 仁が説明する。
「崑崙島に生えている木がほとんどですよ」
「そういえばジンさんは『崑崙君』でしたわね」
 亜熱帯に咲くブーゲンビレアやジャカランダ(キリモドキ)、デイゴなどが植えられていた。
 中でもジャカランダはちょうど紫色の花を満開に咲かせており、見事である。
「花の咲いた木を枯らさずに移植するなんてお見事ね」
「恐れ入ります」
 5色ゴーレムのトパズたちが苦心してくれたおかげだ。

 そのまま北西まで回ると、果樹が植えられた場所となる。
「まあ、ここも素敵」
 セルロア王国特産のザクルや、プリニアといった珍しい果樹が植えてある。
「こ、これは何?」
 案の定、プリニアを見たマルレーヌは驚いている。
「プリニアと言いまして、これが実なんですよ」
 地球ではジャボチカバ、ブラジリアングレープと呼ばれる植物に近い。
 幹に黒紫色の丸い粒々が沢山付いている様は、虫か何かの卵のようにも見える。
「まあ、そうなの?」
「自分も初めて見たときはびっくりしました」
 グースに教えてもらった果樹である。
 花は幹に直接開花するので、当然実も幹にくっついて生るのだ。
「ほら、美味しいですよ」
 あまり行儀よくないが、仁は一粒摘んで食べてみせる。続いてエルザも。
「お母さま、美味しいから」
「……ほんと?」
 2人が美味しそうに食べているので、マルレーヌも恐る恐る一粒口に入れてみた。
「あら!」
 意外な味……というか、フルーツなので当然というか。
「美味しいわ」
「でしょう?」
 ……などと言っているが、グースに教えてもらった時はその不気味な外観に食べるのを30分以上躊躇っていた仁なのである。
 因みにエルザは当時、見ただけで青ざめていたりする。

 そしてまた草花の花壇に戻ってくる。
「とっても嬉しいわ。ありがとう、ジンさん、エルザ」
「いえ、どう致しまして」

 これを境にマルレーヌは毎日活き活きしているようだと侍女に聞き、ほっと胸を撫で下ろした仁とエルザなのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 ジャボチカバ……じつは食べたことないです
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