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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

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37-32 彼等のエピローグ

「ここが『主人』たちの星、ヘールか……」
 仁は惑星ヘールを訪れていた。
 同行したのは礼子、エルザ、シオン、マリッカ、700672号、ネージュ、ルージュ、そして『ヘレンテ』である。

「思っていた以上に寂しい星ですね」
 感情の籠もらない声でネージュが言った。
「うむ、だが、ここが間違いなくわれのルーツなのだ」
 700672号にはヘールの記憶はない。
 単に『作られた』のがヘール上であった、というだけで、知識を植え付けられ、自我が発生したのはアルス上であったのだ。
 それでも、ヘールには来てみたかった700672号である。
「……確かに、大気中の異物は少ない。塵も微生物も」
 分析を終えたエルザが呟いた。
 念のため礼子と『ヘレンテ』以外は宇宙服を身に着けている。
「無菌室とよく似た空気。ただし湿度は低い。生物に害はないと思われる」
 その言葉を聞くや否や、700672号は宇宙服のヘルメットを取り、深呼吸したのである。
「……ああ、ここだ。記憶にはないが、この身体が、細胞が覚えているようだ。確かにここが母星である、と」
 涙を流さんばかりの700672号を、ネージュとルージュは少し心配そうな顔で見つめていた。

「マリッカ、なんか感じる?」
「いいえ、シオンさん」
「そうよね。……やっぱりあたしたちはヘールよりもアルスの方が繋がりが深いみたいね」
 シオンはそっとヘルメットを開け、空気を呼吸してみたが、何の感慨も湧かないようだ。
 それも致し方ないだろう、と仁はエルザと顔を見合わせた。

 惑星ヘールの空は深い青。空気が澄んでいるからだろう。
 だが、風は乾いており、生き物を拒む冷たさを孕んでいた。
「終わった星、か」
 己の目で見てみると、山がなだらかなのは、資材にするために削られたためであることがわかる。
 人口が少ないのに、何のために消費したのかは謎だが……。
「おそらく、遠い世界へ旅立つための『天翔る船』を作ったのだろう」
 700672号がぽつりと呟いた。
《うむ、お前の言うとおりだろうな》
 『ヘレンテ』も同意した。
「なんで断言できる?」
 訝しんだ仁が質問すると、
「吾の中に、そうしたことを示唆する情報が眠っていたようだ」
 と700672号が答えた。
《状況からそれ以外にあり得ない。空間を超えるにはおそらく自由魔力素(エーテル)をはじめ、途方もない量の資源を必要とするだろうから》
 おそらく『ヘレンテ』にも何らかの情報の断片が残されており、ヘールに来ることによって活性化したのではないか、と仁は想像した。
 そしてその想像を裏付けるように、『ヘレンテ』は言葉を続ける。
「私の中にある原初プログラムとでもいうべきものに、ヘールに戻って来た場合のことが記述されていたようだ」
 どういう意図でそういう情報を遺したのか、それはわからないが、仁にとっては謎が謎として残らなかったのでありがたい。
《膨大な資材を必要をしていたのは時空を超える『天翔る船』を作り、運用するため。それが完成したのか、それとも未完成に終わったのかはわからない》
 アルスから自由魔力素(エーテル)をはじめとする資材を取り寄せていたのはそういう理由もあったということだ。
 その『天翔る船』がここにないということは、完成して旅立ったのか、あるいはまったく作られることがなかったのか。
 それも今となってはわからない。

「仮に完成していたのなら、アルスからの資材調達はやめればよかったのに」
 マリッカが言うと、『ヘレンテ』は済まなそうに答える。
《マリッカ様、申し訳ございません。ですが言い訳を許していただければ、我々は中止命令がない限りやめることはできないのです》
「その揚げ句、『支配装置(ビヘルシャー)』によって上前をはねられたわけですね」
 礼子がなかなか辛辣な言葉を投げ掛けた。
《ああ、そういえば『支配装置(ビヘルシャー)』の製作主はここではなく衛星にいたのだったな》
「そうだ。正確にはその従者が『支配装置(ビヘルシャー)』を作ったようだがな」
 仁が答えると、700672号が少し残念そうに言う。
「会ってみたかったな。おそらく最も古い人造人間(ホムンクルス)の一体だったのだろうから」

*   *   *

 一行は『ヴァルカン』の中から惑星ヘールと衛星『クーナ』を眺めていた。
「『クーナ』か。確か『揺りかご』という意味だったような気がする」
 その名を聞いた700672号が説明してくれた。
「文字どおり、最後のヘール人の揺りかごだったわけか」
 仁としても、感無量ではある。

*   *   *

「さて、次の問題は……正直言って面倒だな……」
 一連の騒動がこうして解決した今、対外的にどう説明したものか、と仁は頭を悩ます羽目に陥っていたのだ。

「ジン兄、ここには700672号さんと『ヘレンテ』がいる。知恵を借りたら?」
 エルザからの助言に仁は頷いた。
「そうだな、それがよさそうだ」
 そして仁は悩んでいる内容を説明した。
「ヘールのことをどう説明したものだろうか? 俺としては各国の意志をまず統一してから、と思っているんだが」
 併せて『世界会議』と『世界警備隊』についての構想も説明する仁であった。

「……面倒よね。ジンの真の実力を知っているあたしたちと、知らないローレン大陸人。仲よくやっていけるのかしら?」
 シオンが心底面倒臭そうな顔をして呟いた。仁もその気持ちはわかるので苦笑しただけだ。
《そう思う。隠し事をしたままでは真の友人関係にはなれない》
「うーん……つまり、俺の存在はやっぱり異端なんだな……」
「ジン殿、そういう意味ではない。だが、確かに難しい問題であるな」
 700672号もまたそう言うので、仁は少し残念に思う。
「ヘールのことは、まだ話すには時期尚早ではないかな」
「やはりそうですか……」
《それよりもまず、その『世界会議』とやらをきっちりと発足させることが肝要だと思う》
「吾もそう思うな。アルス人はヘール人と違い、比較的好戦的だ。その反面、縦横の繋がりも強い。まずは基礎と土台をしっかりと作ってから、上へと伸ばしていくことだ」
「なんとなく、わかります」
 次の課題は『世界の意志統一』ということになるようだ。
 これは、仁としては『デウス・エクス・マキナ』に任せたいと思っているし、そうするつもりである。
「もう少しやり方を考えていくとして……」
 世界を安定させ、落ちついて暮らしたい。
 友人とその家族が安心して暮らせる世界にしたい。
 現代日本で過ごす程度には安心できる世の中にしたい。
 仁はそう考えていた。
 もう今更後へは引けないし、中途半端でやめる気もない。

「一つだけ助言させてもらうと、協力者は多いほどいいと思う」
《うむ。元の『主人』たちは個人主義だったが、その限界は今回見たとおりだ。新しい『主人』であるマリッカ様は、一族を大事にされていらっしゃるし、友人もたくさんいらっしゃる。やはり人は繋がりが大事だ。それによって1人ではできないことが可能になる》
 『ヘレンテ』からも同志の重要性が語られた。どうやらマリッカを新しい『主人』としてから、かなりの意識改革が行われたようだ。

「人は独りでは生きられない。それはわかっているんだけど」
 仁がぽつりと呟く。
「俺にはなかなか難しいな」
「なら、私が、手伝う」
 仁の独白にエルザが応えた。
「わ、わたしもお手伝いします!」
 マリッカも宣言する。
「あたしだって協力は惜しまないわよ」
 シオンも胸を張った。
「ありがとう。独りじゃないって嬉しいことだな」
 仁は宇宙に目を向ける。
 そこには無数の星々がきらめいていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20161223 修正
(誤)分析を負えたエルザが呟いた。
(正)分析を終えたエルザが呟いた。

(誤)その半面、縦横の繋がりも強い。
(正)その反面、縦横の繋がりも強い。
 ここは反面がよさそうです

(旧)アルス人類はヘール人と違い、比較的好戦的だ。
(新)アルス人はヘール人と違い、比較的好戦的だ。
 後がヘール人なので統一したほうがよさそうです
+注意+
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