挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

1389/1504

37-31 行き着いたところ

「ナニィ、それに『主人』か……」
 ナニィだった『もの』を見つめ、仁Dがぽつりと呟いた。
「主人がもういないことを理解出来なかったのか……それでもなお、仕えようと努力した結果があの暴走だったんだな」
「悲しいですね」
 礼子も少し俯き加減で呟いた。
「わたくしはお父さまに救われました」
 そう、礼子も1000年という時の果てに、一度は朽ちてしまったのである。仁がそれを直したため、今の礼子がある。
「ですが、『彼女(ナニィ)』は、救ってくれる人がいなかったのです」
 寂しそうに、悲しそうに礼子は言葉を続ける。
「悠久の時を経ても、誰も」

*   *   *

「『主人消失症候群マスターロスシンドローム』とでも言うかな」
 蓬莱島にいる仁も、少し辛そうな顔でそう呟いた。
御主人様(マイロード)、『主人消失症候群マスターロスシンドローム』ですか?』
「ああ。主人に仕える、という刷り込みが重いほど、その主人がいなくなったときの反動が大きい。例えば……エレナとかな」
 エレナは350年以上前、天才的な魔法工作士(マギクラフトマン)によって作られた自動人形(オートマタ)である。
 その製作者が今際の際に呟いた言葉を曲解して、全ての自動人形(オートマタ)の頂点に立つべく、『統一党(ユニファイラー)』という組織を作り、世の中を騒がしたのはつい2年ほど前のことであった。
「主人を想う気持ちが強いほど、その主人がいなくなったときに暴走してしまう。そんなことを主人は望んでいないはずなのに。……皮肉だよな」

 そして仁は思考を現実に戻す。
「老君、あの衛星……『クーナ』の危険性だけは解除しておこう」
『はい、御主人様(マイロード)

*   *   *

 仁Dは、ナニィ『だった』ものと、その『主人(チコ)』に向かって手を合わせた。礼子もそれに倣う。
「さあ礼子、ナニィがいなくなった今、『アジェンテ』がどうなるかわからない。もう遠慮はいらない、無力化しよう」
「わかりました」
「だが、できるだけ破壊は避けろよ」
「はい」
 だが、心配は杞憂であった。
 ナニィがいなくなったということは、直接の指示を出すものがいなくなったということで、付近にあった魔導頭脳類は全て停止していたのである。

制御核(コントロールコア)が崩壊しているな」
「こちらもです」
 試みに仁Dは老子に内蔵魔素通信機(マナカム)で連絡を取ってみた。
『はい、こちら老子。異常なし』
 すぐに返答があった。
「考えられることは、ナニィの魔力波がなくなったことを受けて、主な魔導頭脳の制御核(コントロールコア)が自壊したということだろうな」
 一種の保安措置と言うことになる。
「だとすると、この衛星『クーナ』はもう脅威ではないな」
 そして、惑星ヘールも。

 仁Dと礼子、老子、そして『ヘレンテ』は、『クーナ』内部を手分けして調査した。
 『ヴァルカン』も『覗き見望遠鏡(ピーパー)』を使い、支援する。
 5時間ほど調査し、『クーナ』内に動いているものはないことを確認した。
 唯一稼働していたのは推進器と姿勢制御装置らしき魔導機(マギマシン)だけである。
 これがないと衛星『クーナ』はどうなってしまうのか想像も付かない。

*   *   *

「これでヘールからの脅威はなくなったんだな」
『はい、御主人様(マイロード)。お疲れ様でした』
 蓬莱島では仁が深い溜め息を吐いていた。
「いろいろあったけれど、その行き着いたところがこれか……」
『全てが過去の亡霊だったということですね』
 老君が珍しく詩的な表現をした。
「そうだな。『オノゴロ島』『ディスアスター』『中間基地』……まあ『オノゴロ島』はマリッカという新たな『主人』が見つかって幸いだったが」
『『ディスアスター』もメガフロートとして再利用できましたし』
「まあ、な」
 仁は画面を見つめた。
 そこには今、漆黒の宇宙空間を背景に浮かぶ惑星ヘールが映し出されている。
「ヘールのため、と行われた全てが無駄になったのではなく、ヘールを継ぐもの……アルスのために役立てられればいいな」
『そうですね』
 老君も仁に同意した。

*   *   *

 仁Dと礼子、老子、『ヘレンテ』は衛星『クーナ』の調査を終え、『ペガサス1』に戻って来た。
「それでは私と『ヘレンテ』は先にアルスへ戻ります」
 ということで、転移門(ワープゲート)を使って老子と『ヘレンテ』は一足先にアルスへと移動。
「よし、こっちもここを出よう」
 内部を調査した際、エアロックの操作法も判明していたので、仁Dは『ペガサス1』をゆっくりとハッチに向けて前進させた。
 すると近接センサのようなものが働き、自動的に内部の空気が吸い出されていく。こうした装置は停止してはいない。
 そして内部の気圧が0になるとハッチが開き、『ペガサス1』は宇宙空間に飛び出した。
 『ペガサス1』は別れを告げるように衛星『クーナ』の周りを3周したあと、遠く離れた場所に浮かぶ『ヴァルカン』を目指す。
 背後で小さくなっていく衛星を振り返った仁Dはぽつりと一言。
「……揺りかご(クーナ)じゃなくて墓標(ラピダ)になったな……」

 蛇足だが、単語の意味は『ヘレンテ』が教えてくれたのである。

*   *   *

 『ペガサス1』は『ヴァルカン』の転移門(ワープゲート)を使い、蓬莱島へと戻った。
 仁が出迎える。
「礼子、いろいろご苦労だったな」
「はい、お父さま。お役に立てましたら嬉しいです」
 そんな礼子を仁はぎゅっと抱き締めた。
「……お父さま?」
 いつもと少し違う仁の様子に礼子は面食らうが、仁の呟きを耳にして、その理由を察した。
(……お前はナニィみたいになるなよ……)
 礼子はそんな仁の胸に顔を擦りつける。
「お父さま、わたくしのお父さま。礼子は幸せ者です」
 将来、どんな運命が待っているか、それはわからない。
 でも今、ここにあるこの温もりを大切に。

 研究所の上を一筋の風が吹き抜ける。
 蓬莱島の空は晴れ渡り、太陽セランは惑星アルスを優しく照らしていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 お知らせ:12月22日朝から23日夕方まで不在となります。
 理由は活動報告に書いたアレのためです。
 その間レスできませんので御了承ください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ