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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

1388/1619

37-30 ナニィの主人

 少々グロテスクな描写があります。ご注意下さい。
〔まずはこちらへ〕
 通路の突き当たりまで仁Dと礼子はナニィに案内されてやって来た。
 通路には柔らかな絨毯が敷かれており、足音もしないほど。
 突き当たりには扉が幾つか並んでいたが、その一番左へと案内される。
 その扉も、無機質な金属製ではなく、どこか温かみのある木製であった。
〔入って下さい〕
 扉の中は10畳ほどの部屋であった。
〔散らかっておりますが、あまり触らないようにお気をつけ下さい。全て『主人(チコ)』のものですので〕
 さらに毛足の長い、柔らかな絨毯が敷かれており、部屋を照らす明かりもどこか優しい。
 だが、仁Dを操る仁を驚かせたのは、床に散らばっているものだった。

*   *   *

「……絵、だな」
『絵ですね』
 蓬莱島で仁と老君は同じ感想を持った。
「この絵は……」
『そっくりですね』
 『ディスアスター』などで見かけた、異形のゴーレムにそっくりな絵が幾枚も見られたのである。
「異形のゴーレムをモデルに描いたのか?」
『あるいはこれをモデルにゴーレムを作ったのかもしれませんね』
「ううむ……」
 仁と老君は、今大きな謎が解けんとしていることを感じていた。

*   *   *

 仁Dは、できるだけ触らないように気を付けながら、床に散らばる絵を観察していた。
「ううん……俺の勘だけど、ゴーレムを見て描いたんじゃなくて、これをモデルにゴーレムを作ったとしか思えない」
〔そのとおりですよ〕
 声に振り向けば、入ってきた扉とは別のドアを開け、ナニィが顔を出していた。
「ナニィ? 今なんて?」
〔『主人(チコ)』がお描きになったこの絵を元に、私が指示をしてゴーレムを作らせました。全ては『主人(チコ)』に喜んでいただくために〕
「……」
〔いいのです。ゴーレムは生物ではありません。少しくらいバランスが悪くても動けば。それよりも『主人(チコ)』の意に沿う方がずっと大事ですから〕
「わかる、気がします」
 礼子がぽつりと呟いた。
 1000年という長き年月を、後継者である仁を捜すために費やした礼子だからこそ感じるシンパシーであろうか。
〔わかっていただけますか?〕
 ナニィは微笑んだ……のかもしれない。
 その顔が歪み、頬のあたりから物質が剥がれて落ちた。
〔あまり……時間はありません。『主人(チコ)』からの返事は今日も(・・・)ありませんでしたが……私の独断でお願いします。『主人(チコ)』を、みて下さい〕
 その時ナニィは『診て』と言ったようだった。
〔こちらです〕
 隣の部屋に『主人』がいるらしい。
 ナニィに促されるまま、仁Dと礼子はそちらへと移動した。
 そこにナニィの『主人』がいた。

*   *   *

「これは……!」
『なんと……これが、真実だったのですね』
 仁Dから送られてきた映像を見て、仁は驚愕すると共に、全てを察した。
 そこにあったのは『保育器』に似た設備。
 柔らかなクッションと枕。給水・給餌装置。
 そこに彼女のいう『主人』が横たわっていた。



 物言わぬ姿で。

*   *   *

「最後のヘール人……多分」
『そうなのでしょうね……』
「なまじ設備が優秀なせいで、朽ちることもなくあの姿でずっと……」
 横たわっていたのは子供のミイラであった。
『おそらくそうだと思います。あの異形のゴーレムが作られたであろう年代を考えますと、200年以上は経っているはずですから』
魔素暴走エーテル・スタンピードのせいか?」
『いえ、そうではないでしょう。半ば推測ですが、あの『クーナ』は独自に自由魔力素(エーテル)を運用しているようですので』
「そうか」

*   *   *

〔さあ、診て差し上げて下さい、『主人(チコ)』を。もしも治せなければ、向こうに残った2体の安全は保証しませんよ〕
「……」
〔さあ、さあ!〕
 急かすナニィに、仁Dはできるだけ静かな声で告げた。
「残念だが、手遅れだ。ナニィ、君の『主人』は、もうずっと昔に亡くなっている」
〔なんですって!?〕
 ナニィの身体がびくりとした。また何か物質が剥がれ落ちる。
〔そんなはずはありません! ついこの前、『主人(チコ)』は絵をお描きになりました! 私がその絵を元にゴーレムを作ると、『主人(チコ)』は笑ってくれました!〕
「それは少なくとも200年以上前だろう? 人間はそんなに長いこと生きられないんだよ」
〔200年? それがいったいどうしたというのですか! 『主人(チコ)』はそこにいます! ただ返事をして下さらないだけです!!〕
「ナニィ……」

 どうやらこの人造人間(ホムンクルス)、ナニィには主人の死が理解出来ないようだ。
〔『主人(チコ)』は眠っているだけです! 目覚めて下されば、私は何でも望むことを叶えて差し上げられるのです!!〕
「だから、もう二度と目覚めることはないんだよ……」
〔治せないからそんな誤魔化しを言うのですね? 許しませんよ?〕
 またナニィの身体から何かが剥がれて落ちた。
「ナニィ、君の身体だって限界が近いだろう? 君の『主人』だってそうなんだよ」
〔私を謀ろうとするのですね? やはり信用できませんでした!!〕
「違う、ナニィ。違うんだ」
〔もういいです! 私は『主人(チコ)』のお役に立つため作られ、存在しているのですから。『主人(チコ)』がそこにいらっしゃる限り、私は……〕
 がくん、とナニィの膝が落ちた。
 見れば、膝から下が崩壊している。
「ナニィ、それ以上動いちゃいけない。君の身体が保たないぞ」
 仁Dは、人造人間(ホムンクルス)である700672号にも効果のあった治癒魔法を施そうとナニィに近付いた。
 だが、ナニィは後ずさりして避けた。そしてまた、体組織が剥落する。
〔私は『主人(チコ)』と共にある者。私の全ては『主人(チコ)』のため……〕
 右腕が崩壊し、そのまま仰向けに倒れ込むナニィ。
 仁Dは駆け寄って『回復(ヒーリング)』を掛けてみた。
 だが、既に崩壊の始まっている人造人間(ホムンクルス)には効果がなかった。
〔『主人(チコ)』……私の……坊や(チコ)……〕
 それがナニィの最後の言葉であった。次の瞬間、ナニィの身体は土塊のように崩れ去ったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20161221 修正

(誤)通路には柔らかな絨毯が敷かれており、足跡もしないほど。
(正)通路には柔らかな絨毯が敷かれており、足音もしないほど。

(誤)「魔素暴走エーテル・スタンピード」のせいか?
(正)「魔素暴走エーテル・スタンピードのせいか?」
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