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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

1387/1567

37-29 ナニィ

「ん?」
「来たようですね」
 待つこと1時間。仁Dと礼子の下に、老子と『ヘレンテ』が到着した。
「お待たせしました」
《待たせたな》
「よく来てくれた」
 仁Dは挨拶もそこそこに『ヘレンテ』に質問を開始する。
「さっそく聞きたい。『ヘレンテ』はここの構造をどう思う?」
《うむ、来る途中も観察してきたが、私の元『主人』の設計と似通った部分はある。が、異なった部分も多い》
「それは……同系統だが設計者は異なる、くらいの意味で捉えてもいいのか?」
《そうだな。いいだろう》
「だとすると、ここの魔導頭脳らしい『アジェンテ』と『ヘレンテ』は話が通じるだろうか?」
 これが最も肝要である。
《うむ、とにかく話してみないことには何とも言えぬ》
 そして『ヘレンテ』は声を張り上げた。
《『アジェンテ』、聞こえているか? 私は『ヘレンテ』という。その昔、惑星アルスで作られた魔導人形だ》
 しばらく反応はなかったが、『ヘレンテ』は繰り返し呼びかけた。
 そして4度目の呼びかけの後。
〈ヘレンテというのか。何の用だ?〉
 アジェンテとは少し違う声が響いた。
《そちらの『主人』に会いたい》
〈会ってどうする?〉
 鋭い質問である。まさか『興味があるから』と答えるわけにはいかない。
 事前打ち合わせをしていなかったので、『ヘレンテ』が何と答えるか。仁は固唾を呑んで見つめた。
《自分を設計してくれた『主人』のルーツが知りたかったのだ》
 おお、と仁は思った。満点ではないが、落第点でもなく、なかなかいい答えだった。
〈なるほど。その思いは理解できなくもない。だが……〉
《どうした?》
〈一緒にいる3体、そやつらは何者だ?〉
《私の同盟者だ》
〈なるほど。つまり『ヘレンテ』、貴様は裏切り者というわけだな!〉
《どうしてそうなる?》
〈問答無用だ。これ以上話すことなどない〉
《待て!》
 声はそれきり途切れた。
《済まぬ、役に立てなかった》
 詫びを言う『ヘレンテ』。だが仁Dは気にするな、と言った。
「しかしさすがに手詰まりだな」
「少し強引に進んでみましょうか?」
「その前に脅しを掛けてみよう」
 仁Dは老子にその役を任せることにした。

「『アジェンテ』、あるいはその仲間でもいい。聞こえているはずだ」
 老子は声を張り上げることなく呼び掛け始めた。
「我々は敵対するつもりはない。ホールでのあれは、そちらが勝手に攻撃してきたため防衛しただけだ」
 返答はない。老子はさらに続ける。
「我々は『ヘレンテ』を除いて惑星アルスの住民によって作られた。よってアルスの利害を代表している。……近年、ヘールの命を受けたと思われる魔導機(マギマシン)がアルスを脅かした。それを看過できないと判断した我々の『主人』が、このヘール探索を命じたのだ」

 目的を正直に打ち明けることにしたのである。
 これを聞いて、逆に敵対意志があると受け取られる可能性もあったため、最後の手段だった。
「移住後、長い時間が経った。アルスはもう、アルス住民のものだ。ヘールを援助することもやぶさかではないが。限度というものがある」
 まだ返事はない。が、老子は、アジェンテもしくはその同僚がこの言葉を聞いていると思っている。
「お互いに歩み寄りができないかどうか。それを話し合いたい」
《彼等は信用できる。この『ヘレンテ』が保証しよう》
 『ヘレンテ』も口添えしてくれた。
 が、まだ返答はない。
「資材、自由魔力素(エーテル)。それに故障した魔導機(マギマシン)の修理。あとは食糧。病人の治療。そういった支援はできると思う」
 それでも何も反応はなかった。
「せめて、否定でも拒絶でもいい。何か返事をしてくれ」

 返ってきたのは沈黙、いや静寂だった。
「……だめか……」
 さらに5分ほど待ったが、何の反応もなく、皆諦めかけた、その時だった。
〔……病人の治療ができるというのは嘘ではないのですね?〕
 アジェンテとも、その仲間とも違う声がした。女性の声に聞こえる。
「できる。どんな病気でも、とは保証できないが」
〔いいでしょう。どんな病気でも治せる、などと言われた方が胡散臭いですから〕
 声が近くなった。
〔一度だけ、機会を上げましょう〕
「……!」
 現れたのは人間……いや、人造人間(ホムンクルス)だろうか。
 それも、かなり傷んでいる。
 かつてのアンのよう……いや、それ以上に。
 かろうじて女性型だということは判別できた。
 だが、それだけ。
 艶やかだったはずの黒髪は抜け落ちてまばらに頭蓋を覆うだけ。
 円らな双つの瞳も、片方は濁って何も見えていない様子。
 動くにも辛そうで、足を引きずっている。
 左腕は干涸らびてだらんと垂れ下がり、残った右腕もよく動かないようだ。
 身に着けているのは服というよりボロ布のようである。

〔私はナニィ。『主人(チコ)』にお仕えするものです〕
「俺はジン。……の操る自動人形(オートマタ)です」
〔……人……ではないでしょうけれど、安全の担保として『人質』を取らせていただければ、話し合いに応じましょう〕
 その声には張りがあった。
「では、私が担保になりましょう」
 老子が申し出た。
〔できましたらもうお一方〕
 4体のうち2体を担保にしてほしいというナニィ。
〔『支配装置(ビヘルシャー)』を付けるような真似は一切致しません。ここに残ってくれればいいのです〕
《なら私が》
 『ヘレンテ』が申し出てくれた。
 彼も、仁Dと礼子のペアが、この場では最も向かうに相応しいと知っているのだ。
〔いいでしょう。あなた方はここに残って下さい。お二方は私に付いてきて下さい〕
 ナニィは身を翻し、歩き始めた。
 その足取りはゆっくりなので、付いていくのに問題はない。
 やがて老子とヘレンテの姿は見えなくなる。通路は真っ直ぐではなく、わずかに湾曲していたようだ。

 弱い結界を2つ、3つと抜けていく。
(滅菌結界みたいですね)
(そうだな。それに最初のは『浄化(クリーンアップ)』の結界だったみたいだ)
 ナニィは一体誰に会わせてくれるのか。
 仁Dと礼子はゆっくりとした足取りで付いていくのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20161220 修正
(誤)彼にも、仁Dと礼子のペアが、この場では最も向かうに相応しいと知っているのだ。
(正)彼も、仁Dと礼子のペアが、この場では最も向かうに相応しいと知っているのだ。
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