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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

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37-27 不可侵

 『主人代理(アジェンテ)』からの新たな攻撃が礼子を襲った。
 それは魔法による攻撃。驚いたことに、『電磁誘導(インダクション)』とよく似た攻撃だ。
 だが、礼子には効果が薄い。
「その程度ではわたくしには効きませんよ」
《なんだと!》
 礼子の皮膚と筋肉はアルス生態系の頂点、『古代(エンシェント)(ドラゴン)』の素材、『竜革(ドラゴンレザー)』からできている。
 そして骨格はハイパーアダマンタイト。しかも内部は発泡素材として軽量化を図ると共に、空隙部には同じく『竜革(ドラゴンレザー)』の端材が充填されている。
 『電磁誘導(インダクション)』は金属などの導電性がある材質に働きかける魔法である。
 誘導電流による発熱を利用して対象物に高熱を発生させるのだ。
 『古代(エンシェント)(ドラゴン)』の素材は絶縁体である。
 そしてハイパーアダマンタイトも、分子圧縮されたがゆえに自由電子がなくなり、絶縁体に近くなっている。
 加えて、『古代(エンシェント)(ドラゴン)』の素材はその革に流れる魔力以外では不可侵である。
 『電磁誘導(インダクション)』の魔力波は皮膚の表面で止まり、跳ね返されていた。

《な、なんだと!》
 アジェンテが慌てたような声を出した。
「そういう声も出せるんだな」
 仁Dが呟く。
《ううぬ、怖ろしい奴。なおのこと、『主人』に近づけるわけには行かなくなった!》
 アジェンテはさらなる攻撃を加えてきた。
 礼子の足下の床が塵になり始める。
 だが、礼子は平然としていた。
「『音響衝撃波(ソニックブーム)』ですか。その程度ではびくともしませんよ。床の方が壊れ始めていますが、いいのですか?」
 『音響衝撃波(ソニックブーム)』は魔法で作り出した物理的な衝撃波だ。だが、礼子の身体は物理的強度でいったら既知世界で最高最強の素材で作られている。
「この『クーナ』の方が先に壊れてしまいますよ?」
《ううぬ……こんな奴を招き入れてしまったのは失敗だった》
「ご自分の判断ミスですね。それを転嫁されるのは心外なのですが」
《やかましい!》
 電光が飛んだ。雷属性魔法であろうか。
 だが礼子の身体は『竜革(ドラゴンレザー)』という名前の絶縁体、数億ボルトを掛けても電流は流れない。
《ぐむ……ならばこれを受けてみろ! 『超加熱(ヒートアップ)』だ!》
 仁が開発した『超過熱(オーバーヒート)』の劣化版のような魔法であった。
「無駄なことをしますね」

 礼子の身体を形作る素材の耐熱性はアダマンタイトに匹敵する。その融点は実に摂氏3000度以上。
 さらに仁渾身の『強靱化(タフン)』が掛けられている。
 『強靱化(タフン)』は分子・原子の結合力を『自由魔力素(エーテル)の網』によりアップする魔法だ。
 そして『溶融』とは、分子・原子の結合力が熱エネルギーによって緩んでしまう現象である。
 つまり『強靱化(タフン)』を掛けられた物質は強度だけでなく、融点・沸点も上昇するのである。

 つまり、先に床や天井など、部屋の素材が耐えられなくなるのは明白であった。
《うぬぬぬぬ……ならば、これはどうだ!》
 礼子の体重が瞬時に100倍になった。重力魔法である。
「その程度ですか?」
 金属製の床は3000キロになった礼子の重みで凹み始めているが、礼子は平然としていた。
 かつて『諧謔』のラルドゥスとの戦闘で、1000倍の重力にも耐えた礼子である。
 あの時より数段パワーアップしている今、100倍程度の重力は何ほどのものでもなかった。

《お、怖ろしい奴め……》
 アジェンテの声には怯えが感じられる。それほどまでに礼子の力は圧倒的であった。
《だが貴様も自由魔力素(エーテル)で動いていることに代わりはあるまい。喰らえ!》
「!?」
 次にアジェンテが繰り出してきたのは『魔力素除去器(エーテルエリミネイタ)』と同等の攻撃だった。
 対象物が持つ自由魔力素(エーテル)を除去してしまう攻撃だ。
「効きませんよ?」
《なんだと?》
 仁は既に同等の魔導機(マギマシン)を開発しており、対策も考慮済みであった。

 『魔力素除去器(エーテルエリミネイタ)』は特殊な魔力波で対象物が持つ自由魔力素(エーテル)を除去してしまう。
 この魔力波は一般的な魔素変換器(エーテルコンバーター)よりも遙かに強いため、ゴーレムであれ自動人形(オートマタ)であれ、また魔導士であれ、浴びると自由魔力素(エーテル)を奪われてしまうわけである。
 要は自由魔力素(エーテル)を奪い合う綱引きだ。
 ここで、『魔力素除去器(エーテルエリミネイタ)』の魔力波よりも強い魔力波で動く魔力反応炉(マギリアクター)なら?

 今の礼子にはなまなかな『魔力素除去器(エーテルエリミネイタ)』は効き目がない。
《うむむ、これならどうだ!》
 礼子の周囲だけ、自由魔力素(エーテル)濃度が500倍になった。
《急激な濃度上昇には耐えられまい……な、何!?》
「それで終わりですか?」
 そこには平然としている礼子がいた。

《お、怖ろしい……》
 アジェンテの声が、心なしか震えているようだ。
《私はなんという存在を引き込んでしまったのか……ああ、@*様、お許しを! ……》
 そのまま声はフェードアウトして聞こえなくなってしまった。

*   *   *

御主人様(マイロード)、どう思われます?』
「敵わないとみて撤退したか。……どうするかな……」
『あの『主人代理(アジェンテ)』はおそらく魔導頭脳でしょう。だとすると少し気になることがあります』
「俺もだ」
 仁と老君の意見は一致している。
「あまりにも非論理的すぎる、だろう?」
『はい。魔導頭脳らしからぬ振る舞いが多いのです』
 それが不完全なことによるのか、またはより生物に近づけたがゆえの弱点なのか。あるいは別の理由があるのか。
 技術者として興味がある仁であった。

『もう少し進みますか?』
「そうだな。そうしよう」

*   *   *

 静まりかえったホールで、動く者は礼子と仁Dのみ。ここまで案内してくれた1402も動かなくなっている。
 仁Dは『防御盾(アイギス)』を展開し、礼子とアジェンテの戦いの余波を凌いでいたので無傷である。
「じゃあ、もう少し先へ……というかこの『クーナ』の中心に向かおう」
 鬼が出るか、蛇が出るか。仁Dを操縦している仁はそんな気分であった。
「わかりました。露払いはお任せください」
 礼子はホールの扉をぐっと押す。
 めきめきと音を立てて扉が歪んでいき、人一人が十分通れるだけの隙間が空いた。
「さあ、行きましょう」
 そして仁Dと礼子はさらに先へと進んでいったのである。
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