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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

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37-10 結界完成

 丸2日掛けて6隻の偵察隊は小惑星群のチェックを行っていた。
 大きいものから順に小さいものへと。
 確認した小惑星の数はおよそ2000。『覗き見望遠鏡(ピーパー)』を併用したからこその効率である。
 だが、それでも小惑星の半分もチェックできていなかった。
『ですが、これだけ調べて魔力反応を何も感じないということは、少なくとも大規模な施設はないのでしょう。ここには『ケフェウス』を残して、残り5隻は軌道を60度戻って下さい。そこもおそらくは安定点です』
 老君はそう指示を出し、5隻になった偵察隊は先を目指した。

 余談であるが、この場合の『戻る』とは、公転方向に対してである。アルスの北極を上にし、そちらから見た場合、公転方向は反時計回り。つまり『戻る』というのは時計回りの移動ということ。
 さらに余談だが、ラグランジュ点で言えば小惑星群が見つかったのはアルスから見てL5と呼ばれる点。5隻が目指すのはヘールから見てL4でと呼ばれる点である。

*   *   *

「さて、あとは……」
 蓬莱島で報告を受けた仁は、老君との打ち合わせを開始した。
「飛行船を各国に渡したからには、崑崙島への行き来も可能になったということだしな」
『はい、御主人様(マイロード)。『幻影結界』のことをお尋ねですね?』
 老君は、仁の言わんとするところを察した。
『ご安心下さい。つい先程、より相応しい隠蔽システムが完成しました』
「それは朗報だ」

 幻影結界。それは、この先蓬莱島を隠蔽していく上で重要な結界である。
『基本は島を覆う結界です』
 老君は説明を始めた。
『光学的な結界です。それは変わりません。ですが、『不可視化(インビジブル)』とは異なります』
「うん」
 『不可視化(インビジブル)』は、光を屈折させ、背後にあるものを見せることであたかも透明になったように見せかける効果がある。
 可視光のみならず、紫外線、赤外線も含むので、光学機器での発見はまず不可能。が、結界内部に光が入り込まないので、真っ暗になってしまうという欠点がある。
『今回開発した光学的結界は……』
 老君はさらに仁に説明していく。

『……と、これにより、蓬莱島付近は、ただ海が広がっているようにしか見えません。このような理由から、旧レナード王国にあった幻影結界と同等であると考えます』
「うん」
『次は、通過結界です』

 こちらは、船などの物体や魔物などが偶然やって来る可能性を考えた対策である。
『弱い探知結界を島の周囲に張り巡らせておきます。同時に『魔法転写砲(マギトランスカノン)』で転移魔法陣を構築できるようにしておきます』
「なるほど」
『探知結界に船や魔物などが接触した場合は、転移魔法陣を起動し、島の反対側へ送り出します』
 島を素通りさせてしまう、というわけだ。
『この際難しかったのは、転移直後は速度が0になる点でしたが、そこは『力場発生器フォースジェネレーター』を併用することで解決しました』
「だが、24時間監視を続ける必要があるな」
『はい。今は私の余力で行えますが、将来的には専用の魔導頭脳をお作りいただきたく』
 老君の要請に仁は即答する。
「わかった」
 先日700672号からも言われたように、仁の真の実力を隠すことは重要だからだ。
『ありがとうございます』
 仁はさっそく結界専用魔導頭脳の製作に取りかかった。
 何かやっていないと落ち着かないということもある。

 半日で魔導頭脳は完成した。
御主人様(マイロード)、ありがとうございます』
「老君の配下扱いになるからな」
『名前はどうなっていますか?』
「名前か……『陽炎かげろう』というのはどうだろう?」
 蜃気楼、というのも考えたのだが、語呂が悪かったのでやめたのである。
『『陽炎』ですか。掴み所がないという意味合いですね』
 こうして、蓬莱島結界を司る補助魔導頭脳、『陽炎』が誕生したのである。

「ところでジン兄」
 仁がそのことをエルザに報告していると、質問が返ってきた。
「『不可視化(インビジブル)』結界の中は真っ暗になると思っていたんだけど、どうしてそうならないの?」
「ああ、エルザは聞いていなかったか。そこが、今回最も悩んだ部分なんだよ。そもそも『不可視化(インビジブル)』じゃないんだ」
「え?」
 当初の対策として『人工太陽を作る』や『何かが近付いて来たときだけ展開する』、それに『少し隙間を空ける』などを考えていたのだが、一長一短があってどれも気に入らなかったのだ。
 それで仁は、『不可視化(インビジブル)』に代わる結界として、旧レナード王国にあったような『幻影結界』の開発を進めていたのである。
「要は、反射した光が目に入るからものが見えるわけだろう?」
「うん」
 エルザは頷いた。
「で、考えた。その光を加工するんだ」
「あ、なるほど」

 画像処理ソフトで、写真内の電線や邪魔なものを消す効果と同じといえばより近いだろうか。
 そうした『特殊フィルタ』が今回の『幻影結界』なのである。

 『蓬莱島』という大きな物体が反射している光を弄り、背景が反射している光と置き換えている、ということにもなる。
 入ってくる光はそのままで、反射し、出ていく光を加工しているわけだ。

「だから、入ってくる光はまったく遮られていないのさ」
「納得」
 エルザはにこりと微笑んだ。
「ところで」
 今度は仁がエルザに尋ねる。
「ここのところ外出気味だけど、何かあったのか?」
 だがエルザは笑って首を振った。
「ううん、なんでもない。この前はお母さまのところへご機嫌伺いに、行ってきた」
 エルザが『お母さま』と呼ぶのは、育ての母、マルレーヌのことである。実母ミーネは『母さま』と呼ぶ。
「元気だったかい?」
「ん。父さまも大分加減がいいようで、安心した」
「それはよかった。でも、実家に帰るなら誘ってくれてよかったんだぞ?」
 そんな仁の言葉にエルザは、
「でも今、ジン兄は大変な時だから」
 と微笑んで答えたのである。
 仁はそんなエルザの心遣いが嬉しくて、
「ありがとう」
 と言いながら、隣に座り直し、そっと肩を抱き寄せたのである。

*   *   *

「さて、まだまだやっておくべきことはあるな」
 休憩を終えた仁は工房に戻り、礼子に手伝ってもらい、準備を開始した。
「お父さま、何を始められるのですか?」
 礼子の問いに、仁は笑って答える。
「航空戦力の性能アップだ」
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20161202 修正
(誤)『ご安心下さい。つい先程、より相応しい隠蔽システムを完成しました』
(正)『ご安心下さい。つい先程、より相応しい隠蔽システムが完成しました』
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