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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

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37-09 トロヤ群

 漆黒の宇宙空間では、『ヴァルカン』が簡易中継基地の建設を進めていた。
 『簡易』と付くだけあって、構造は単純そのもの。
 平らな円盤状で、『力場発生器フォースジェネレーター』により位置の制御と多少の移動ができる。
 簡易的な居住施設があって、10名が1週間くらいは生活可能。
 が、一番の目的は『覗き見望遠鏡(ピーパー)』など魔導機器の中継点とすることだ。同時に、転移のランドマークにもなっている。
 物理障壁(ソリッドバリア)防御盾(アイギス)を備えており、隕石にも対応可能。
 もちろん魔法障壁(マジックバリア)も装備されており、魔法攻撃に対しても対抗できる。
 およそ2日で『ヴァルカン』はこれを建造してしまったのである。

*   *   *

「やはり転移で資材を送り込めると違うなあ」
 蓬莱島では仁が満足そうに頷いていた。
 予め蓬莱島で予備加工した資材を、転送機で『ヴァルカン』の下に送り込むことで工期の大幅短縮を実現したのである。
『はい、御主人様(マイロード)。これでいよいよ本格的にヘール調査が進められます』
「頼むぞ、老君」
『はい。しかし、『覗き見望遠鏡(ピーパー)』で見ることができないことは予想していましたが、まさかこれほどとは』
 中継基地が完成してすぐに老君は『覗き見望遠鏡(ピーパー)』を使い、ヘール方面を観察したのだが、惑星ヘールがあると思われるあたりには、強力な障壁(バリア)が張られており、見ることができなかったのである。
『『ヴァルカン』にヘール方面へ進出させますか?』
 ある意味、予測した事態なので、こうした計画も立ててあったのだ。
「そうだな」
 その計画は単純、ヘール近く、かつ十分な距離に『ヴァルカン』を置き、進出の足掛かりにするというものである。
『あと6日か7日、お待ち下さい』
「そうなるな。頼むぞ」
 事は慎重に運ばなくてはならない。それは仁にもわかっている。
「誤解から惑星間戦争なんて絶対にごめんだからな」

*   *   *

 ところで、2日前の12月20日のこと。

『偵察隊を送り出そうと思います』
 老君は仁に伺いを立てた。
「どこへだ?」
『『ヴァルカン』が向かった方向と逆のポジションです』
 ヘールの使われている中継基地はそちらなのではないかという推測からだ、と説明する老君。
「確かにな。確認は必要だな」
『はい。二分の一の確率で『ヴァルカン』が発見できなかったとすれば、確実にこちらにあるはずですので』
「だな。編制は?」
『『カストル』『ポルックス』『プロメテウス』『エンデミオン』『ダイダロス』『ケフェウス』の6隻を派遣しようかと』
 仁は少し考えたのち、承認した。
「……危険があるかもしれないからな。いいだろう」
『さっそくの許可、ありがとうございます』

 こうした打ち合わせがなされ、偵察隊が派遣されていたのだが。

*   *   *

『……何かありますね』
 12月23日。太陽セラン、惑星アルスを頂点にする正三角形、その最後の頂点にあたるポジションにて。
『小惑星、でしょうか』
 6隻の偵察隊は、宇宙空間に巨大な何かが浮かんでいるのを感知していた。
『あと半日で詳しい観察が可能になりますね。御主人様(マイロード)にはその少し前に報告することに致しましょう』
 2つの天体と正三角形をなす軌道上の点は安定な平衡状態にある。これはラグランジュ点と呼ばれているのだが、仁はそれを知らなかったようだ。
『なるほど、90度ではなく60度……正三角形、ですか』
 蓬莱島の頭脳、老君は、数学的な考察を経て、このポイントが中継基地を置くに相応しい場所だと認識を新たにしていた。
『では、もしかすると『ヴァルカン』の進んだ方向にも、60度と120度のポジションに何かある可能性がありますね』
 すぐさま老君は『ヴァルカン』に連絡を入れ、120度のポジションに注意するよう伝えた。60度のポジションは既に通過しているので、帰路に確認すればいいと判断している。

*   *   *

「老君、話は聞いた」
 そして半日後、偵察隊は件の物体に接近していた。
御主人様(マイロード)。先程お伝えしたように、こちらに小惑星群を発見しました』
「うん。やはり『何か』はあったようだな」
 3日前の決定が正しかったことに、仁は満足していた。
『ごらん下さい』
 偵察隊の旗艦『カストル』からの映像が司令室の大魔導投影窓(マジックスクリーン)に映し出された。
 そこには小惑星群が映っていた。
『このポジションは軌道的に安定しているようで、こうした小惑星や宇宙塵が集まっているものと思われます』
 これは『トロヤ群』とも呼ばれ、木星軌道のものが特に有名である。
ユニーもここから運んだのかもしれません』
 大小様々な小惑星があり、中には十分に基地として使えそうなものも幾つか見受けられた。
「うーん、こんな場所があったなら、資源はここから集めればよかったんじゃないかな?」
『仰るとおりです。そうだとするなら、ヘール人はこちらを知らない可能性もありますね』
 そこは想像するしかなかった。
「何か反応は?」
『ありません』
「そうか。慎重に進めてくれ。もし基地がないなら、遠い将来、アルスの資源をここから調達する日が来るかもしれないしな」
『わかりました』

*   *   *

「……問題ありまくりだな」
 ぼやく仁。
「お父さま、お茶です」
 礼子がほうじ茶を持ってきてくれた。
「ああ、ありがとう、礼子」
 適度に冷まされたほうじ茶を一口飲み、溜め息をつく仁。
「ヘールに偵察に行くというだけでこれだけごたごたに出会うんだもんなあ」
「お父さまなら大丈夫です!」
「だといいな」
 苦笑混じりに仁はほうじ茶を飲み干した。
 そこへエルザがお茶を持ってやって来る。
「ジン兄、お茶……あ、あれ?」
 飲み終えた湯飲みを見て、ちょっと残念そうな顔をするエルザ。
「あ、喉渇いているからもう一杯欲しかったところだ」
「そう、よかった」
 仁はエルザの淹れてくれたお茶を手に取る。こちらは玄米茶だった。
「うん、美味い」
 その彼方にある宇宙で起きている事件を想像することはできないほど、蓬莱島の空は青く澄んでいた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20161201 修正
(誤)同事に、転移のランドマークにもなっている。
(正)同時に、転移のランドマークにもなっている。
+注意+
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