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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

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37-08 サキの努力と成果

「まず、苦労したのはね、『生分解性』なんだ」
「ほう」

 『生分解性』とは、廃棄したあと、有害な物質を出さずに無機物へと分解する性質である。
 多くのプラスチックは長い間分解されずに土中や水中に残り、環境汚染の原因となっている。
 サキは、仁が元居た地球での話を知り、こうした性質を持たせるため努力したらしい。

「『マギ』プラスチックだからね。魔力を供給している間は劣化しないんだ」
 魔力の供給が途切れ、内包する魔力も放散してしまうと劣化が始まるようになっているとサキは説明した。
「凄いじゃないか」
「えへへ、ハンナちゃんに負けていられないからね」
 そう言ってサキは説明を続けた。
「マギ系の金属や合金が強いのは、含まれる魔力同位元素(マギアイソトープ)自由魔力素(エーテル)と反応して強度を上げているからなんだけど、同じことを樹脂でもしたいと考えたわけだよね」
「それはわかる」
 仁もそこまでは推測できていた。
 一番の問題は、プラスチックの分子構造をどうするかだったのだ。
 そのことを言うと、
「うん、それについては素直に『自分じゃ無理』って判断した。で、『賢者(マグス)』の本を調べた。最終的には、マリッカちゃんに協力してもらって、700672号さんにも話を聞いた」
 とサキは笑って答えた。
「そうか……苦労したんだな」
「いやいや、好きなことをしているんだから、大変だとは思っても苦しいとは思わないからね!」
 あくまでも前向きなサキである。
「で、いろいろと調べたんだ。分子構造はわかったけど、全部を再現することなんてできゃしない。それに、燃やしたときに有毒ガスが出るのも好ましくない」
「うん」
 サキはしっかりした考えを持っていた。
「で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレートを候補に挙げた。……ふう、噛まずに言えた」
 小難しい名称を一気に口にしたサキは苦笑しつつ、
「ボクも理解しきってはいないんだけどね」
 と舌を出した。

「つまり、炭素と水素だけでできているプラスチックを選んだわけさ」
「それはわかる」
 仁の認識としても、硫黄、窒素、塩素などが含まれているプラスチックは燃やし方によっては有毒ガスが発生して、環境を汚染すると言われていたのだ。
 サキは本当に、環境に配慮することを優先したらしい。
「それで、今挙げた候補の中から、工学魔法で再現できるものを選び出した結果、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール。この辺が限界だった」
 実際、それ以外のプラスチックにはベンゼン環と呼ばれる構造があって、複雑になっていたのである。
「いや、それでもすごいよ」
 仁は素直に感心した。
「一つ残念なのは、これらはどれも透明度が悪いんだよね」
 窓の材料には使えない、とサキは言って悔しそうな顔をした。
「でもそれはこれからの課題にすればいいと思うぞ」
 透明素材が他にないわけじゃなし、と仁はサキをフォローした。
「うん……そうだね。これからこれから!」

 改めて仁は、サキが開発した3種のマギ・プラスチックを見た。
 マギ・ポリエチレン。仁があと一歩で開発できそうだったが、サキは見事に完成させてくれた。
 マギ・ポリプロピレン。ポリエチレンよりは硬度が高く、使い分けできそうである。
 マギ・ポリアセタール。3つの中で一番強度がある。

「推測だけど、通常の使用だと10年から20年くらいで駄目になると思う」
「だろうな」
 仁の知るプラスチックも、耐久性に関しては似たようなものだ。
「でも、燃やすこともできるし、『魔力素除去器エーテルエリミネイタ』をつかうと、炭素と水素、酸素に分解することができるんだ!」
「そりゃすごいな」
 サキの苦労と努力が忍ばれるというもの。
「で、原料はどうしたんだ?」
 仁もそれで行き詰まってしまったのである。
「くふ、『エーテノール』さ!」
「そうか!」
 『エーテノール』は魔力同位元素(マギアイソトープ)でできた水に自由魔力素(エーテル)が溶け込んだ合成物質である。
 水素H2と酸素O2の魔力同位元素(マギアイソトープ)が大量に含まれるはずだ。
「Cはそれほど苦労しなかったよ」
 炭素の魔力同位元素(マギアイソトープ)は色々なものに含まれている。
 例えば魔物の肉や皮。魔導樹脂にも多く含まれている。

「これでまず、ジンは何を作る?」
「哺乳瓶、かな」
「え?」
 思い掛けない単語に、サキの目が丸くなった。
「カイナ村にも赤ん坊が増えたし、世の中には需要があるだろう」
「くふ、それにしても哺乳瓶とはね。家庭を持って、ジンも少し自覚が出たのかな?」
 サキは悪戯っぽく笑って、仁の肩を叩いた。
「自覚?」
「……やれやれ。いずれジンだって父親になるんだろうに」
「あ、ああ、そういう意味か」
 サキに突っ込まれて仁は顔を赤らめた。

「とにかくありがとう、サキ」
「くふ、ジンのため、でもあるけど、世の中のためになるといいね!」
「ああ、そうだな」
 晴れ晴れと笑うサキに、仁も知らず顔が綻ぶのであった。

*   *   *

「で、ジンは何をやっているんだい?」
 仁とサキは研究所の食堂でシトランジュースを飲みながら話を続けていた。
「ああ、ヘールとのごたごたがあるかないか、それはわからないけど、この前の『ディスアスター』との戦闘での反省点を重点的に」
「反省点?」
「うん。巨大な相手への決め手がないことに気が付いたんだ」
「ああ、確かに」
 サキも『アドリアナ』で一緒だったから、仁の言うこともわかる。
「じゃあ、具体的には?」
「『魔法転写砲(マギトランスカノン)』で『魔力爆発マナ・エクスプロージョン』を放てるようにすることと、高威力の『魔力爆弾(マナボム)』の用意だな」
「あまり楽しい開発じゃないね」
 苦虫を噛み潰したような仁の顔を見て、サキも苦笑した。
「まったくだ。早くこんなごたごたから解放されたいよ」
「くふ、及ばずながら協力するからさ。ジン、頑張っておくれよ。エルザのためにも、この星のためにも」
「それはもちろんだ」
 そう答えた仁を、サキは目を細めて見つめたのであった。
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