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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

1365/1507

37-07 マギ・プラスチック完成

 『ヴァルカン』が予定ポジション目指して宇宙を駆けていた頃、蓬莱島でも動きがあった。
「ジン! できたよ!」
 『家』で朝食後、ほうじ茶を飲んでいた仁とエルザの所に、サキが駆け込んできたのだ。
「サキ姉……」
 その格好に顔を顰めるエルザ。何せ、髪はぼさぼさで目の下には隈ができていたのだから。
「また徹夜したな?」
 仁もとがめるように言う。
「いやあ、ははは。……つい興が乗って……で、でも! ほら、ついにできたんだよ!」
 慌てたようにサキは、手にしていたシートを差し出して見せた。
「おお? これは……プラスチック?」
「そう! ジンが言っていた『マギ・プラスチック』さ!」
「ふうん……どれどれ」
 仁はそのシートを手に取ってみた。確かに、プラスチック特有のすべすべした手触りと軽さ、軟らかさを感じる。
「凄いな、サキ」
「えへへ……頑張った、よ……」
 それだけ言うと、サキは糸の切れた人形のように崩れ落ち、寝息を立て始めた。
「……サキ姉……」
「相変わらず無茶する奴だなあ……」
 仁とエルザは、寝てしまったサキに毛布を掛けてやると、そっとその場を後にしたのであった。

「そもそも研究所でやっていたなら老君もアアルも何も言わなかったのか?」
「確かに、おかしい」
 仁とエルザは研究所に向かって歩きながらそんな言葉を交わした。
「老君、どうなんだ?」
 工房に入ると、仁はさっそく老君に声を掛けた。
『はい、御主人様(マイロード)。サキさんのことですね?』
「そうだ。どうしてあんな無茶をさせた?」
『その点につきましてはお詫び致します。ですが、サキさん本人からの強い要望でして、今回だけ、と』
「じゃあ、アアルも?」
『はい。アアルさんも、サキさんの熱意に負けて、今回だけということで黙認されてました。今は御主人様(マイロード)のお宅でサキさんのそばに付いています』
「ああ、行き違いになったのか」
『サキさんは、御主人様(マイロード)がヘールのことでお心を砕いているのをご覧になって、ご自分も何かを成し遂げたかったのではと愚考します』
 サキはサキなりに、『仁ファミリー』として役に立ちたかった、ということなのだろうか。
『高分子についての資料を読み漁ったり、職人(スミス)2に手伝わせていろいろ合成してみたりと、大活躍でした』
「そうか。それで、どんなものができたんだ?」
『それはサキさんご本人からお聞きください』
「それもそうだな」
 サキも自分で説明したいだろう、と老君に言われ、仁はサキが目を覚ますのを待つことにした。

「それじゃあ、ヘールについての考察をしてみることにするよ」
『はい、お手伝い致します』

*   *   *

 そして、昼食の時間になった頃。
「ジン兄、サキ姉が目を覚ました」
 と言いながら、エルザが昼食の仕度ができた、と仁を呼びに来た。
「お、もうそんな時間か」
 仁は老君とヘールに対するこれからについて話し合っていたが、それを一旦切り上げ、席を立った。
「老君、またあとでな」
『はい、御主人様(マイロード)

 仁がエルザと共に『家』へ戻ると、目を覚ましたサキはもう食卓に着いていた。
「ジン、エルザ、お腹空いたよ……」
「申し訳ございません、ジン様、エルザ様」
 テンションの高いサキとは裏腹に、アアルは済まなそうな様子だ。
「今回はどうしてもとサキ様が仰いますので……」
「ああ、もういい。老君から聞いたよ。サキも、一所懸命だったんだろう?」
 頭を下げるアアルを、仁は宥めた。
「サキ姉、顔は洗った?」
「うん、アアルに言われてね」
 昼食を運びながらのエルザの問いに、サキは笑って答えた。
「そう。……今日のお昼はお粥」
 サキのことも考えた献立のようだ。

 お粥といってもただのお粥ではない。
 土鍋で仕上げた本格的なお粥をベースに、野菜・鰹節・海苔の佃煮・梅干し・お新香、それにぶぶあられと、さまざまなトッピングを楽しめるようになっている。
 仁は海苔の佃煮がけっこう好きだったりする。
「ええと、みんな美味しそうだけど、これはなんだい?」
 サキが指差したのはぶぶあられだった。
「『ぶぶあられ』だよ」
「『ぶぶあられ』!?」

 ぶぶあられのぶぶはお湯もしくはお茶のことで、京都などを中心に使われる女性言葉らしい、と仁は聞いていた。
「お茶漬けに掛けるものなんだが、お粥に掛けても美味しいと思うよ」
「ふうん?」
 小鉢に取ったお粥に、小さじでぶぶあられを掛けてみせる仁。
 れんげ、正しくは『散り蓮華』を使って口に運ぶ。
「うん、美味い」
 ぶぶあられが水分を吸ってしんなりしないうちに食べるのがコツだ。
 とろりとしたお粥と、さくさくしたあられの食感、両方が楽しめるわけだ。
 薄く塩味、醤油味を付けてある。
「どれどれ……ああ、これはいいね!」
「だろう?」
 サキも試して見て気に入ってくれたようだ。
 エルザも美味しそうに食べている。
 仁は、
「野菜も食べろよ?」
 とサキに釘を刺す。
 七草粥のように、青物野菜を短時間でさっと煮込んであるので、ビタミン類もまだ残っているはずだ。
「うん、わかってるよ」
 栄養バランスについては、サキも素人ではないので言わずもがな、のはずであるが、そこはやはり黙っていると好物ばかり食べてしまうようだ。
「サキ様、梅干しに含まれるクエン酸もお身体にいいのですからお食べ下さい」
「うう、酸っぱいの苦手なんだよ」
 その辺はアアルにも言われているようなので、仁はそれ以上言うのをやめ、お粥を食べることに専念するのであった。

「ふう、美味しかった」
「ごちそうさま」
「お粗末様」
 食後にはそば茶が出てきた。
 ノンカフェインで、香りがよく、胃にも優しい。
「さて、サキ。落ちついたところで説明を頼むよ」
「うん、まずはね……」
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20161128 修正
(誤)寝てしまったサキに毛布を駆けてやると
(正)寝てしまったサキに毛布を掛けてやると
+注意+
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