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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

37 ヘール篇

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37-04 『ヴァルカン』

 結論から言って、『ハンナ理論』は的を射ていた。
 『範囲指定』の魔法制御の流れ(マギシークエンス)を調整し、『転送対象』の魔導式(マギフォーミュラ)を工夫することで、ついに仁は自由魔力素(エーテル)転送を実現したのであった。
 とはいえ、『調整』と『工夫』には、並大抵ではない試行錯誤と苦労があったのだが。

 『ハンナ理論』を仁が聞いてから2日後の12月11日、ついに『自由魔力素(エーテル)転送装置』が完成したのである。

「できたな」
「ジン兄、おめでとう」
「おにーちゃん、よかったね!」
「これもハンナのおかげだ」
 エルザと、完成と聞いて駆けつけてきたハンナが、仁に祝いの言葉を述べた。
「お父さま、おめでとうございます」
御主人様(マイロード)、おめでとうございます』
 そして礼子と老君も、仁にお祝いを言ったのである。
「いや、もう一度言うが、これはハンナのおかげだ」
 仁は正直な心境を述べる。
「でも、これで行動範囲が広がるな」
 未だに自由魔力素(エーテル)の少ない南半球で自由魔力素(エーテル)を補給することができるし、大量に自由魔力素(エーテル)を必要とする場面に遭遇しても対応できる。
「以前作ったものと区別するために、こっちを『自由魔力素(エーテル)転送装置』、向こうを簡易型『自由魔力素(エーテル)転送装置』と呼ぼう」
 当然、順次こちらと入れ替える予定である。

 そして同日、『工作艦』も完成し、宇宙軍(スペースフォース)ゴーレムたちにより試運転を済ませていた。
御主人様(マイロード)、名前を付けてください』
 老君から要請があった。
「そうだな。……それじゃあ『ヴァルカン』だ」
 『ヴァルカン』はギリシャ神話の鍛冶の神ヘファイストス(ヘパイストス)と同一視されるローマ神話の神。
 『鍛冶』=モノ作り=工作艦、ということで仁はそう名付けたのである。

*   *   *

「よし、これで『ヴァルカン』はいつでも宇宙へ行けるな」
 最終チェックを終えた仁は、満足そうに呟いた。
『では、明日朝8時にスタートすることといたします』
 老君が宣言する。
 向かうのは太陽セランの向こう側にあるはずの惑星ヘール。正午にスタートすればよさそうだが、アルスは自転しているし、真っ直ぐセランへ向かうわけではなく、アルスの軌道上、90度進んだ地点をまず目指す予定なので、この位の時刻がちょうどいいわけである。
防御盾(アイギス)もありますので、最高速度は秒速400キロを予定しております』
「そうすると、ええと……」
『およそ2億1200万キロ離れた目標点Xまで150時間弱です』
「6日とちょっとか」
 加減速の時間もあるので7日を見ておくことにする。
 そして。
「今夜はパーティだな」
 12月13日はミーネの誕生日であった。

*   *   *

「誕生日、おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとうございます」

 13日夜、蓬莱島では『仁ファミリー』が勢揃いしてミーネの誕生日を祝っていた。
「皆様、あ、ありがとうございます……」
 感激で少し声が震えている。
「母さま、おめでとう」
 実子であるエルザが手ずからワインを注いでいた。
「ありがとう、エルザ」
 今日だけは、いつもの侍女服ではなく、ドレス姿である。
 栗色の髪をアップにまとめたミーネは、36歳には見えない若々しさだった。
「お義母かあさん、俺からのプレゼントです」
「まあジン様、ありがとうございます」
 こんな日まで『様』付けをしてしまうミーネは、根っからの侍女気質であった。
「これ、私から」
「ありがとう、エルザ」
「これは僕からだ」
「ボクからはこれ」
「私はこれよ」

「……皆様、ありがとうございます」
 感極まったミーネは泣き崩れてしまう。エルザは初めて見る母の様子にどうしたらいいかとおろおろするばかり。
 そこへ仁が、
(エルザが抱き締めてあげればいいよ)
 と耳元でアドバイスした。
「ん」
 エルザは母ミーネをそっと抱き締める。
「エルザ……」
「母さま……」
 抱き締めあう母子。
 集まった一同、そんな2人を優しい眼差しで見守ったのである。

「……お恥ずかしいところをお見せ致しました」
 少し経って落ちついたミーネは、顔を赤らめて皆に謝罪する。
「いやいや、謝る必要なんてこれっぽっちもないさ」
 ラインハルトが皆の思いを代弁した。
「……ありがとうございます」

 それ以降は和気藹々と雑談が弾んだ。
 仁も、皆が集まったこの機会にと、ミーネに断りを入れてから『ヴァルカン』のことを掻い摘んで説明した。
「……というわけで、直径100メートル級の工作艦を作って送り出したんだ。目的は中間地点に簡易基地を作ること。これができれば、ヘール方面へも転移できるようになる」
 今の仁の研究によれば、惑星を貫ける自由魔力素(エーテル)波といえども、自由魔力素(エーテル)を発生している恒星は貫けない。
 であるため、太陽セランを回り込むような形で段階的に転移すればいいだろうと考えたわけだ。
「なるほどな」
 皆納得するかに見えた。が、サキが思い掛けない発言をする。
「……だとすると、ほら、例の『ディスアスター』だっけ? あれが自由魔力素(エーテル)を送り出していた先はヘールじゃないってことになるよね?」
「……あ……」
「確かに、そうか」
「ということは、ヘール側も中継基地を持っているかもしれないということか」
「そうなるな」
「うーん……」

 『ヴァルカン』は、果たしてヘールが設置した中継基地に遭遇するのか。
 それは仁にもわからなかった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20170115 修正
(旧)・・・大量に自由魔力素(エーテル)を必要とする場面に遭遇しても対応できる。
(新)・・・大量に自由魔力素(エーテル)を必要とする場面に遭遇しても対応できる。
「以前作ったものと区別するために、こっちを『自由魔力素(エーテル)転送装置』、向こうを簡易型『自由魔力素(エーテル)転送装置』と呼ぼう」
 当然、順次こちらと入れ替える予定である。
 同じ名称でしたので区別します。とはいえ旧型は以降出て来ないと思います。
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