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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

36 移動基地篇

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36-23 これからの道

「この世界で、俺はどうすればいいのかと、時々悩むんですよ」
「うむ、それはわかる」
 今の世界において、仁のレベルはあまりにも異常だ。
「限られた仲間には打ち明けていますが、この先もそれでいいのかどうか……」
「なるほどな」
 700672号は、仁の告白を聞き、押し黙った。そしてそのまま少し考え込んだ。仁は急かさず待っている。
「吾の意見を言わせてもらおう」
 およそ2分後、700672号は再び口を開いた。

「まずは一般論から。強すぎる『力』は恐れられるか崇められるかするものだ」
「……そう、ですね」
 仁は頷いた。
「また別の面から見ると、人はその『力』についつい頼りがちになるともいえる」
「はい」
「ジン殿に当てはめると、恐れられることはなさそうだ。頼られる、というのが一番あり得るだろうな」
「……わかります」
 700672号は仁の立ち位置を分析していく。
「ありそうなのが、ジン殿の囲い込みによって、世界に覇を唱えようとする者が現れること」
「ああ、それは嫌ですね」
「だろうな。……次にありそうなのが、事ある毎に頼られるだろうことだ」
「はい」
「こちらはそれほど悪くないかもしれないが、そうではない。人々の向上心を摘み取り、発展を阻害することになるだろう」
 700672号の描く未来はあまり明るくない。
「もっと悪い可能性を考えるなら、ジン殿と自分を比べて劣等感に苛まれてしまうことだ。これでは、健常な精神の発達は望むべくもない」
「……」
「結論をいうと、ジン殿の真の力は当分秘匿しておくべきだろうな」
「やはりそうなりますか」
 700672号は頷いた。
「この先何世代か、何十世代かが過ぎ、自力もしくは僅かな援助だけで、人々のレベルが今のジン殿に追いついたなら、その時こそ初めて全てを打ち明けてよい」
「でもそれって、俺が生きている間は無理ですよね」
 700672号は苦笑してみせる。
「そうなるな。ジン殿はもちろん、ジン殿の子孫も当分は己を偽らなければならないだろうな」
「そうですか……」
 確かに、人の心は弱いものだ。
(自分より遙かに優れた能力を持つものがいたら、どうしても頼り、羨み、恐れ、嫉妬してしまうだろうな……)

 仁は、昔施設で見た海外の特撮番組を思い出した。
 異星から来た超人が、数々の難事件を解決する物語だ。
 その物語でも主人公は苦労して正体を隠し続けていた。
(あれも同じか)
 子供心に仁は、自分が噂の超人だとカミングアウトしてしまえば正体を隠す苦労もしないで済むのに、と思ったものである。
(変身系の主人公が正体を隠すというのにも意味があったんだな……)
 思わぬ時と場所で変な納得をした仁であった。
「では、今のまま、実力を隠しながら人々と交われ、と?」
「そうだ。大変だろうがな」
「……助言、感謝します」
 考えようでは、今のまま、現状維持ということである。
 ヘールとのごたごたが終われば、楽になるだろう。仁はそう思うことにした。

 そして。
「接収した基地はどうするつもりかな?」
 700672号の方から尋ねてきた。
「どうしようかと思ってはいるんですよね」
「気持ちはわかるがな。宙ぶらりんはよくない」
「ですね……」
 『オノゴロ島』側は、元々の『移動基地』があるので必要ない、と言っている。仁の好きなようにしてくれ、とも。
「直径2キロのメガフロートなんて使い途が……」
 蓬莱島で運用するにしても使いづらい。
「いっそどこかの国に……というわけにもいかないし」
 その時、仁の頭にアイデアが閃いた。
「そうか! 『救助隊』の基地!」
「うん? なんだね、その『救助隊』というのは?」
 事情を知らない700672号が仁に質問する。
「ああ、済みません。正確には『世界警備隊』といいまして……」
 うっかり、かつて施設で見ていたTV番組風の呼び方をしてしまった仁は言い直した。
「……世界警備隊といいまして、各国から人員を募り、国境を越えて世界の平和に貢献する組織の構想です」
「なるほど、面白い。その基地として使おうというのだな」
「ええ」
 デウス・エクス・マキナが遺跡を発見した、という触れ込みで、各国に整備用の資材もしくは資金を出させ、修理した後はどこの国でもない海上にあって世界に貢献する、そんなことを仁は思いついたのである。
「いいかもしれぬな。そのあたりはジン殿の裁量に任せよう」

 これでかなり気が楽になった仁であったが、あと1つ、懸念事項があった。
「最後になりましたが、ヘールの問題はどうすべきでしょうか?」
「うむ……」
 難しい問題だ、と、さすがの700672号も言葉を濁した。
「吾はヘールについては知らぬからな。判断材料がなさ過ぎる。だが、ジン殿の立場に立ってであれば、確認は必要だろうな」
「やはりそうですか……」
 ヘールにいる存在が、アルスの資源を必要としているなら、その先兵を退けてしまった今、何らかのリアクションを起こす可能性が大である。
 そしてそれはおそらく友好的なものではないだろう。
「吾としては戦いは避けてもらいたいが、な」
 『始祖(オリジン)』寄りの立場である700672号にしてみれば当然の言い分である。
「本当に、ヘールはどうなっているんでしょうね……」
 仁としても、星間戦争などというものは望んでいない。
「いくら考えても、情報が少なすぎる。十分な準備をして、ヘールの状況を確認すべきかもしれんな」
「……」
「ジン殿自身が行く必要はない。それは念を押しておく」
「はあ」
「可能なら、途中に臨時の中継基地を置くのもよいな」
 700672号は、その中継基地に、バックアップや退避などいざという時のために転移門(ワープゲート)もしくは転移魔法陣を置き、運用することを勧めた。
「なるほど、それならかなり安心できますね」
「うむ。それに、ユニーの頭脳……『ジャック』と名付けたのだったか? ……それにも助言を受けるとよいだろう」
 宇宙に関しての知識を持つ『ジャック』なら、また違った助言もできるかもしれない、と700672号は締めくくった。

「いろいろとありがとうございました」
「うむ、有意義な時間だった」
 今回の会談はかなり満足できる結果となり、仁もほっとして蓬莱島へ帰ったのである。

「さて、また忙しくなるな」
 研究所の窓からは遙かな海の輝きが見えていた。
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