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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

36 移動基地篇

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36-22 700672号への報告

 蓬莱島は事後処理に忙しい毎日を送っていた。
 本来の『移動基地』の損傷を修理するという名目で職人(スミス)50体を派遣。
 修理する過程で、当然ながらそのテクノロジーを研究させてもらう。
 得た情報は老君が整理し、学ぶべき価値のあるものとないものに分類し、まとめていた。

 仁本人は『オノゴロ島』の再整備を、マリッカと共に行っている。
 マリッカがいないと、『オノゴロ島』の『統括頭脳』は手出しを許さなかったのである。
「『統括頭脳』さん、今のままでは呼びにくいので、名前を付けてもいいですか?」
 ある日、マリッカがそんなことを言い出した。
〈はい、もちろんです〉
「よかった。……それではあなたのことをこれから『テスタ』と呼びます」
〈わかりました。これより私は『テスタ』と名乗ります〉
 『テスタ』というのは、『頭』という意味だ、と後に仁はシオンから聞いた。

 『テスタ』の許可と『ヘレンテ』の協力を得て、居住施設の改造も行われた。
「これでかなり住みよくなっただろう」
「うんうん、さすがジンよね!」
 シオンもマリッカのサポートにやって来ており、『森羅』氏族風に改装するための知恵を貸していたのである。

*   *   *

「あとは自由魔力素(エーテル)凝縮を止めることだが、これが難しいよな……」
 備え付けの転移門(ワープゲート)を使い、『しんかい』経由で蓬莱島に戻った仁は、老君やエルザを交えて相談していた。
『そうですね、御主人様(マイロード)。いきなり自由魔力素(エーテル)の濃度を上げてしまうと、『急性魔力過多症』になる人も出てくるでしょうし』
「だな」
 『急性魔力過多症』。魔導士は、自由魔力素(エーテル)を細胞単位で魔力素(マナ)に変換して魔法という事象を起こすエネルギーを得ているわけだが、その変換率は人により一定で、急激な変化はしない。
 訓練や成長などで変換率がアップすることはあるが、その増加は緩やかである。
 そんな魔導士を、いきなり濃い自由魔力素(エーテル)に曝したらどうなるか。
 変換率は同じであるから、自由魔力素(エーテル)濃度が倍なら生成される魔力素(マナ)も倍になる。ところが、消費すべき魔力素(マナ)の量は変わらないから、余剰魔力素(マナ)が生じることになる。
 この余剰魔力素(マナ)は僅かな刺激で変質し、制御されない魔力エネルギーとなって、身体を苛むのだ。
 急性糖尿病に例えると、少しはわかりやすいかもしれない。
 あるいは、酸素濃度に例えた方がわかりやすいだろうか。少々ならいいが、多すぎる酸素に曝されると、身体はあっという間にエネルギーを使い果たしてしまうという。
 過ぎたるは及ばざるがごとし、である。

「年単位どころか100年単位で考えないとな……」
『あるいはこのままという考えもあります』
「だが、集めた自由魔力素(エーテル)は、どこへ送るんだ?」
『送らなくていいのです。分布の傾向が今のままであれば。消費せずに宇宙へ戻せばいいでしょう』
 ちょっと考えて、仁は老君の言わんとするところを察した。
「なるほど、それなら今のままか」
『はい。生物の分布が落ちついているようですので、分布を戻すとおそらく生物相に大きな影響があるでしょう』
「だろうな……」
 凶暴な魔物、魔獣が南下してくることが真っ先に思いつく。そうなれば普通の動物は絶滅するだろう。
『宇宙へ戻すだけでなく、備蓄しておけばこの先役に立つかもしれませんし』
「確かにな」
 魔素貯蔵庫(エーテルタンク)魔力貯蔵庫(マナタンク)魔力貯蔵器(マナボンベ)魔力素蓄石(マナセル)などというものもある。
 エネルギーの備蓄はいざという時に役に立つ……かもしれなかった。

『あとは、700672号さんにもお知らせしておくべきですね』
「それは考えてる。こっちが落ちついたら行ってくるよ」

*   *   *

 仁は言葉どおり、翌日700672号を訪問し、これまでのことを詳しく説明した。
「……と、いうわけです」
「ふうむ、興味深い話であった」
 最後まで黙って聞いていた700672号は、話を聞き終わると仁を称賛した。
「ジン殿、よくやったな」
 そして、独自の見解を述べる。
われの主人は確かに『独立派』に所属していたようだな」

 『始祖(オリジン)』には『残留派』と『移住派』があり、残留派は『自然回帰派』と『隠遁派』、移住派は『急進派』と『穏健派』に分かれ、それがまた急進派は『侵略派』と『開拓派』、穏健派は『共存派』と『融合派』、『独立派』に分かれていたという。
 今の魔族領に移住し、魔族の祖となった一派は仁の推測どおり、『独立派』だったのである。
「700672号の最初の数字、7はそういった分類を表すのでは?」
 仁は思いついたことを尋ねてみる。
「いや、そういう話は聞いていないが、その可能性は十分にある」
 700672号も知らされてはいなかったようだ。
「以前ジン殿が出会った600012号、つまり6で始まる連中は開拓派だったのかもしれんな」
 が、確信はないという。
「今度、その『マリッカ』という方を連れて来てはくれぬか?」
「ええ、いいですよ」
 やはり、『主人たち』の特徴を色濃く受け継ぐ者がいるとなると気になるらしい。

「さて、自由魔力素(エーテル)分布を弄らないことにしたということだが、英断だと吾は思う」
「そうですか」
「数万年かけて安定した生物相を再び混乱させるようなことはやめた方がいい」
「ですね」
 700672号にもそう言ってもらえ、仁はほっとしていた。

「しかし、『オノゴロ島』か……この星を改造した『主人たち』のことを知っているとは驚きだ」
「そうなんですか?」
「うむ」
 700672号はヘールで作られたとはいえ、その頃は培養槽の中であったため、『ヘール』のことはまったくといっていいほど知らない。
 ゆえに、少しではあるが、『ヘール』のことを知りたいという欲求がある、というのだ。
「吾にそんな感情が生じるとは思わなかったがな」
 だが、仁はその想いを肯定する。
「いえ、言うなれば父祖の地ということになるわけでしょう? 知りたくなるのも当然だと思いますよ」
 その言葉を聞いて、700672号は微笑んだ。
「ジン殿、ありがとう」
「いえ」
「……さて」
 700672号は話題を変えた。
「その移動基地だが、どうするつもりかな?」
「今のところそのままにしようかと。性急すぎてもいいことはないですしね」
「うむ、それもそうだな」
 ここで仁は、常々思っていたことを相談することにした。
「1つ、聞いていただきたいことがあるのですが」
「うむ、聞こう」
「実は……」
 仁はゆっくりと語り出した。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20161119 修正
(旧)700672号はこのアルスで作り出されたため、『ヘール』のことはまったくといっていいほど知らない。
(新)700672号はヘールで作られたとはいえ、その頃は培養槽の中であったため、『ヘール』のことはまったくといっていいほど知らない。
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