挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

06 旅路その2 エゲレア王国篇

135/1567

06-22 恋バナ

 夕方、仁は自分付きの王宮隠密侍女隊ロイヤルシークレットメイド、ライラに案内されて浴場へやって来ていた。
「おや、ジンか」
「あ、クズマ伯爵」
 そこへちょうどクズマ伯爵も入浴にやって来ていた。
 一旦出直そうとする仁に、
「ちょうどいい、君とは少し話をしてみたかったんだ。一緒に入らないか?」
 そう誘いをかける伯爵。そうまで言われては仁も断り切れない。一緒に入ることにした。
「ああ、君達は来なくていいからな」
 侍女達には脱衣所の外で待機するよう命じる伯爵。
 何か込み入った話があるのか、と仁は少々身構えた。まあ、実のところ消身(ステルス)で姿を消した礼子がこっそり付いて来ているのではあるが。

「ふう、やはりお湯を浴びるのは気持ちがいいな」
 クズマ伯爵は湯船の中で手足を伸ばし寛いでいた。身長180センチくらいの伯爵が身体を伸ばしても少しも狭くないほどにここの浴槽はかなり広い。
 やせ気味ではあるが筋肉は適度に付いている伯爵、仁は自分の貧弱な身体が少々恨めしい。いくら鍛えても筋肉が付かないのだから。
「それで伯爵、話というのは?」
 落ち着かないので仁から話を誘ってみた。
「おお、そうそう、そうだった」
 そう言いながら伯爵は何事かを考えるように俯き、顔を上げてはまた俯き、を繰り返す。
 何度かそうしていたが、やがて決心が付いたように、
「ジン、君とビーナはどんな関係なんだね?」
「は?」
 思わず間の抜けた声を出してしまった仁。何か小難しい相談事かと思っていたから尚更だ。
「君はビーナにずいぶんと肩入れしていたらしいし、先日だって君の拠点へ招いている。ビーナも君には心を開いているようだ」
 一度口を開いた伯爵はそのまま話し続ける。
「彼女は……健気、そう、健気だ。決して恵まれた環境でないにもかかわらず、魔法工作(マギクラフト)を学び、弟妹を養い、苦労を重ねたにもかかわらず純粋だ」
「は、はあ」
 仁はそんな伯爵の熱に押されっぱなしである。
「その技能を庶民のために使おうという考えも立派だ。それに美しいし……」
 そこまで一気に言葉を並べてきて、ようやく我に返った伯爵は顔を赤らめ、口を噤んだ。
「伯爵……」
 いくら鈍い仁でも、ここまで言われてはもう察しは付くというもの。
「ははは、笑ってくれ。初めて見た時から、私の心の中に彼女が棲みついたようだ」

*   *   *

 湯から出て、頭から水をかぶっているクズマ伯爵を横目で見ながら、仁はどう答えたものかと考えていた。
 あれからしばらくのあいだ、惚気を聞かされてしまった。
 伯爵は本気のようだ。身分などまるで考えていない。彼ならビーナを幸せに出来るだろう。
「ふう」
 髪から垂れる滴をタオルで拭き取った伯爵は、答をせかすように仁の方をちらりと見る。それを察した仁は答を口にした。
彼女(ビーナ)は手のかかる妹みたいなものですよ」
 ラインハルトに答えたものと同じ言葉。それを聞いたクズマ伯爵の顔が一気に明るくなった。
「そう、か! 彼女は、君にとって、妹、か!」
 そしてその表情のまま、
「だったら、君の意中の人はエルザ嬢なのかな?」
 と尋ねてくる。自分の恋に障害が無いとわかった彼は、元の快活さを取り戻していた。
「い、いえ、彼女(エルザ)は、ちょっと危なっかしい妹、ですね」
 それを聞いたクズマ伯爵は、
「ふーん、2人とも君にとっては妹というわけか。ひょっとして、王宮隠密侍女隊ロイヤルシークレットメイドのリアンナのような成熟した女性が好みなのかな?」
 伯爵がそう言った時、どこかでがたん、と音がした。
「ん? 誰かいる……わけもないか。で、どうなのかな、ジン?」
 そう言われた仁はさあどうでしょう、と首を振った。
「俺が好きになる女性のタイプは、俺が好きになった女性のタイプですよ」
 まるで禅問答である。
「なんだね、それは?」
 さすがに伯爵も理解が及ばず、眉をしかめた。
「まあ、今のところまだそんな人はいませんね」
 仁がそう言うとクズマ伯爵は、
「そう思っているうちにいきなり運命の女性が現れたりするものだぞ。この私のようにな!」
 そう言って浴室を出て行った。

*   *   *

 仁は残って湯船に横たわっていた。そこへ、
「……お父さま」
「礼子、か」
 消身(ステルス)を解除して礼子が姿を現した。そしていきなり、
「お父さまって、胸の大きな大人の女性が好みなのですか?」
 湯船にもたれていた仁がずるりと滑った。
「な、何を言い出すんだ」
 お湯に沈み掛けた仁は慌てて湯船から出る。
「私、大きくなりたいです」
 唐突な礼子の願いに驚く仁。
「お、おい礼子、いったいどうしたんだ?」
「お父さまが、大きな女性がお好きなら、私……」
 そんな礼子の頭をぺし、と仁は叩いて、
「バカ。大きいだけで好きになるわけないだろう?」
 仁がそう宥めると、
「でも、ラインハルトさんは胸の大きな女性がお好きだと、エルザさんが言ってました」
 あの時か、と仁は思い出す。確か、『ライ兄は昔から胸の大きな女の人に甘い』と言った筈だ。
 それを『胸の大きな女性が好き』と読み取る事が出来るのに、なんで俺の事になると盲目になるのだろう、と仁は思った。
「だから、エルザも、ビーナも、友達だから、な。そしてお前は俺の大事な娘だ、お前の顔も姿も俺は大好きだぞ」
「本当ですか!」
 躍り上がらんばかり、いや、本当に躍り上がって喜ぶ礼子を見て、
「だから、あまり周りの女の子達のことなんて気にすんな」
「……わかりました」
 本当にわかってくれたのか疑問は残ったが、あまり浴室を占有しているのもまずいので、仁は上がることにした。
 礼子は消身(ステルス)で再び姿を消す。

 脱衣所から出た廊下にはライラが……床に座り込んで居眠りをしていた。
「…………」
 どうしようこれ、と少し悩んだが、やっぱり起こそうと、仁はライラの頭をつんつん、と突いてみる。
「はっ!? 敵襲ですか!?」
 跳ね起きたライラはスカートをめくり、腿に装着していたナイフを抜き放ち。
 見事にスカートをも切り裂いた。
「きゃああああああ!」
 短いドロワーズと太腿が露わになり、悲鳴を上げるライラ。
 ちょうどそこにエルザとビーナが入浴のためにやって来て、
「ジン! あんたなにやってるの!」
「……ジン君、けだもの?」
 見事に誤解され、
「俺は無実だー!」
 ジンの心からの叫びが通路に響いたと言う。
 はい、男同士の恋バナでした。 え? チガウもの期待してました?
 そして焦る礼子。

 お読みいただきありがとうございます。


 20130627 19時55分 誤字修正
(誤)自分の恋に傷害がないとわかった彼は、元の快活さを取り戻していた。
(正)自分の恋に障害が無いとわかった彼は、元の快活さを取り戻していた。

 障害、ですよね。併せて「無い」も漢字に。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ