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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 伍 アドリアナの流離い篇

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「ふうん、さすが『魔法工学師マギクラフト・マイスター』ね!」
「さすがです、アドリアナ様!」
 シオンとマリッカは絶賛状態だ。
「この時、先代の弟子は500人を超えていたらしい。その中でも高弟と呼ばれる者が20人ほどいて、事実上は彼等が、小群国の魔法工学の先駆者といっていいんだろうな」
「え? 高弟が先駆者……って、アドリアナ様はどういう扱いになるわけ?」
 その質問に、仁は少し辛そうな顔をした。
「ああ、それがな……」
「なによ、はっきりしないわね」
 そんなシオンに、仁は真実を話すことにした。
「……先代はこの後、少しずつ疎まれるようになっていくんだよ」
「何よそれ! いったいどうして?」
「……聞くか? 少し重い話になるかもしれないが」
「聞かせて! 尊敬する初代『魔法工学師マギクラフト・マイスター』、アドリアナ様のことですもの」
 仁の問いに、シオンは即答した。
「わかった。……先代が35歳の時のことだ……」

*   *   *

 即位したばかりのアイアルス・ラネース・ガランディア王が突然崩御した。
 当然、王国は大騒動になる。
 最も問題だったのは、正式な王太子が決められていなかったことによる。
 アイアルス王には子供が4人おり、うち2人が男子であった。
 長男のジャッキ・タイジェ・ガランディアは体が弱く、寝たり起きたりの生活であった。
 対して次男のレオガー・ライエ・ガランディアは聡明で才気に溢れているともっぱらの評判。
 どちらも20代後半で、次期国王には問題のない年齢。
 長女・次女はすでに降嫁しており、王位継承とは無関係な立場にいた。

 当然、王城内は2つに割れる。
 長男派と次男派である。
 煩わしい政争が大嫌いなアドリアナ・バルボラ・ツェツィはどちらにも与せず、中立を守った。
 研究に没頭して無視していたともいえる。

 そして年が改まる頃、この政争に決着が付く。
 体の弱かった長男ジャッキが薨去こうきょしたのだ。
 父と兄の喪に服しつつ、レオガー・ライエ・ガランディアは、体制を変えていった。
 長男派だった者たちを粛清したり降格したりし、政治の舞台から追い出したのである。
 その余波はアドリアナにも及んでいた。
 中立、ということはすなわち無視されたということだ、とレオガーは考えたのである。
 予算を削り、弟子たちには数々の嫌がらせをした。
 そんな中、アドリアナの下を訪れた人物がいた。

「セインさん、ご無沙汰してます」
「ええ、アドリアナさん、引き継ぎで忙しかったものですから」
「引き継ぎ……って、お辞めになるんですか?」
「はい。もう私もいい歳ですし、今度の王は私のことが気に食わないようですから」
「……」
 セインももう70歳、普通なら楽隠居していておかしくない歳である。
「ハロドルフ王、アイアルス王と2代に仕えてまいりましたが、そろそろ引退しようかと」
「……セインさんに声を掛けていただかなかったら、今の私はありませんでした。改めてお礼を申し上げます」
「いえいえ。アドリアナさんのように優秀な方でしたら、遅かれ早かれ頭角を現されていたと思いますよ」
「それで、引退後はどうなさるのですか?」
「実は、私の出身はガランドーラ王国なのです。そちらに息子と孫がおりますので世話になろうかと思っています」
「ガランドーラ王国ですか……」
 アドリアナは先年の会談を思い出した。
「私も行こうかしら……」
 その言葉に、セインはにっこりと笑った。
「それでしたらご一緒しますか? アドリアナさんほどの方なら、すぐに登用されますよ」
 セインも立場上、アドリアナが最近冷遇されていることを知っていたので、好意的な言葉を掛けたのである。

 アドリアナの辞表はすぐに受理された。その話は弟子たちにあっという間に伝わり、50人を超える者が一緒に付いてくることになったほどである。
 それから4日後。
「先生、お元気で」
「先生、お世話になりました」
「俺は付いていけないが先生をよろしく頼むぞ」
 ガランディア王国に残る弟子たちに見送られ、アドリアナはセイン、そして55人の弟子たちと共にガランディア王国の首都、ラカポーを発ち、西へと向かったのである。
 この時に伴をしたゴーレムはM−010とF−010の2体であった。

*   *   *

「なんていうか……勝手な王様ね。あ、まだ王になっていないんだっけ」
 仁が一旦話を区切ると、案の定怒りを露わにしたシオンである。
「そうなんだが、こういう人間って一定数いるんだよな」
 ブラック企業時代のことを思い出す仁。
「周りが見えなくなるというか、自分が、自分が、という気持ちが強すぎるとなあ……」
 少し遠い目をする仁であった。

*   *   *

 十数日掛かって、一行はガランドーラ王国に辿り着いた。
 彼等のことは既に伝わっており、国境には出迎えの使節が待ち構えていた。
「ようこそ、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』、アドリアナ・バルボラ・ツェツィ様、そしてお弟子の方々」
「我がガランドーラ王国は貴殿たちを歓迎いたします」
「お世話になります」
 アドリアナたちを出迎えたその中に、マリオーサ・ド・フォーレスもいた。
 マリオーサは今ガランドーラ王国の内務卿を務めているのだという。
 彼の父親はアドリアナの父、シュウキ・ツェツィに直接学んだ世代である。
 その娘であり、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』であるアドリアナは、ガランドーラ王国でも歓呼を持って迎えられた。
「よかったですね、アドリアナさん」
「これもセインさんのおかげです!」
「いえ、貴方のお力ですよ。それでは、またいつかお会いしましょう」
 セインはにこやかに告げると、一行と別れ、息子の住む町へと向かったのであった。

 数日後、首都フーダルスに一行は辿り着いた。
 そこには、既にアドリアナの居場所が用意されていたのである。
「ここがあなた方の工房です」
「こ、こんなに?」
 マリオーサ・ド・フォーレス自らがアドリアナと弟子たちを工房に案内した。
 そこは、下手な貴族の屋敷など問題にならないほどの広さがあった。
「教室も建て増ししますので、お弟子さんを育てていただきたく」
「はい、それはもう」
「明後日、今上陛下に挨拶をお願いします」
「は、はい」

 ここに、アドリアナ・バルボラ・ツェツィは再び安息の地を得、後進の育成に励むこととなる。
 それと同時にガランドーラ王国の隆盛も始まるかと思われた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 お知らせ:本日27日は早朝から夕方まで不在となります。
      その間レスできませんので御了承ください。

 20160927 修正
(誤)ガランドール王国
(正)ガランドーラ王国
 7箇所修正しました

 20160929 修正
(旧)それと同時にガランドーラ王国の隆盛も始まったといえよう。
(新)それと同時にガランドーラ王国の隆盛も始まるかと思われた。
 次の章との整合を取りました。
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