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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 伍 アドリアナの流離い篇

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0005 交代

「今、貴女は『衣食足りて礼節を知る』と仰いましたね? それは古の『賢者(マグス)』、シュウキ・ツェツィの言葉です。貴女はなぜ知っているのですか?」
「なぜと言われても……シュウキは私の父ですし……」
 それを聞いたマリオーサ・ド・フォーレスは驚きに目を丸くした。
「何と! 貴女は『賢者(マグス)』のお嬢様でしたか! ツェツィ、という姓なのでもしやと思っていましたが……」
「父をご存知なのですか?」
「ええ、私はお父上の孫弟子になります。私の父は貴女のお父上から直接に学んだそうで、小さい時からそのことを自慢されて育ちました」
「そうだったのですか」
 ここで、別の使者も口を開いた。
「私はジョルテス・ド・ルバーンと申します。弟子ではありませんが、幼少の時、2度ほどお父上をお見かけしたことがあります」
 ジョルテスは50過ぎに見える。それならば父シュウキが諸国を巡った際に会ったことがあるのも頷ける、とアドリアナは思った。

 会談は脇道に逸れたが、このことによりガランドーラ王国側がガランディア王国を侮るような態度が鳴りをひそめたので結果オーライだろう、と当の本人、アドリアナは思った。

「それでですね、この国では高度なゴーレムを作っていると聞きましたもので、我々が派遣されたというわけです」
「ああ、どの程度のものか視察にいらしたんですね」
「まあ、平たく言えばそうです」
 実際には、属国に近い小国が最近何やら発展してきているようだが、その実情を調べてこい、というものだったのだが。

「それで、先程の続きですが、単純作業専用のゴーレムを使って、作業の効率化を図ろうというものです」
 王太子が発言した。
 先程の目配せは、公表するタイミングを見計らった結果なのだろう、とアドリアナは考えた。
 この言葉には、ガランドーラ王国の使者たちだけでなく、ガランディア王国側の首脳陣も驚いた。
「では、開発者から説明してもらいましょう」
 王太子に促され、今度はアドリアナが説明を開始する。
「ゴーレムは疲れません。睡眠も必要としません。力があります。この特性を使わない手はありませんよ?」
 ことが自分の分野になると、アドリアナは饒舌になる。
「だが、ゴーレムは高価で……」
「ストーンゴーレムを使います」
「それでは精密な動作ができない!」
「ある程度はできますよ? やり方が悪いだけです」
 難点を列挙しても、アドリアナはそれをごく簡単なことのように言って覆していく。
「……ふうむ……」
「なるほど、益が大きいようですな」
「とはいえ、理屈通りに行くかどうか。明日にでもそのストーンゴーレムを作ってもらいたい」
「わかりました」

 もちろん、アドリアナはいい加減なことを言ったわけではない。
 翌日、質の悪い魔石(マギストーン)を集めたアドリアナは、衆人環視の中、ストーンゴーレムを作って見せた。
 まずは、漬け物石くらいの魔石を並べ、『融合(フュージョン)』で1つにしてみせた。
「お、おおお!?」
「こうすれば、質の悪い魔石を有効活用できます」
 そしてそのボディに魔導式(マギフォーミュラ)を刻んでいき、ゴーレムを作り上げた。
「……と、こういう具合です。どうですか?」
「う、ううむ」
 魔結晶(マギクリスタル)魔石(マギストーン)を採取した後の母岩ぼがんは、質の悪い魔石(マギストーン)で、ほとんど使い途がなく廃棄されていたのだが、こうやってストーンゴーレムの材料にすることができるということは大きな改革であった。
「もっとも、質が悪いのは事実ですから、複雑な命令は無理です。用途としては単純に畑を耕すとか、鉱石を採掘するとか、ですね」
「いやいや、それで十分、人手の代わりになる!」
 昼も夜も休みなしに働けるということで効率はおよそ3倍。力が人間の3倍から4倍はあるということで、総合するとおおよそ10倍の仕事をさせることができる計算になる。
「これは正に革命だ」
「いや、恐れ入りました。さすが『賢者(マグス)』様のお嬢様です」

 こうして、会談の目的である友好と国力向上の試みについては成功裏に終了することができたのだった。

*   *   *

「……すごいすごい! 先代様はやっぱりすごいわ!」
 聞いている方も胸のすくような活躍をしたアドリアナ・バルボラ・ツェツィ。
「そうやって先代はガランディア王国を富ませ、発展させたらしい」
「最初はどうなるかとハラハラしたけど、理解してくれる人たちに出会えたのね。ほっとしたわ」
「因みに、そのストーンゴーレムの発展型は、今も蓬莱島の地下で鉱石を採掘してくれているよ」
「そ、そうなんですか? ……えと、1000年も動き続けているんですかあ!?」
 マリッカは目を見開いている。
 仁は頷いた。
「そこがすごいよな。余剰魔力をボディの維持に回しているのさ。だから、文字どおり魔力が尽きない限り動き続けるんだ」

 そして仁は更に先を続けた。

*   *   *

 年月は過ぎ去り、2371年。アドリアナは31歳になった。
 アドリアナの『魔法工学』教室は200人を超え、十数人の卒業生も出ていた。
 卒業生達は皆、王家や大貴族のお抱えとなり、その技術を役立てていた。
 あるいは他国で一旗揚げることを夢見るものもいて、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』アドリアナ・バルボラ・ツェツィの名は内外に知れ渡っていた。
 そんな5月のある日。
 アドリアナら魔法技術者(マギエンジニア)魔法工作士(マギクラフトマン)を優遇し、重用してくれた国王、ハロドルフ・シラージュ・ガランディアが崩御した。
 すぐに王太子であるアイアルス・ラネース・ガランディアが政務を引き継ぐ。
 即位は喪が明ける3年後となる。

「どうして3年後なんですか?」
 自分が知っている限り、他国では喪に服す期間は1年が普通だったので、アドリアナはセインに尋ねてみた。
「子供は、手が掛からなくなるのに3年は掛かるでしょう? ですから、その恩返しとして、親の喪は3年なのですよ」
「なるほど……」
 父親を尊敬し、愛しているアドリアナ・バルボラ・ツェツィとしては納得のいく理由であった。

 国のトップとなった王太子は、父王の政策を継承しつつ、独自の考えも進め始めた。
 その1つが魔導具の低価格化である。
 一般庶民にも手の出せるような価格で魔導具を供給する、という政策の下、アドリアナは毎日を魔導具研究に没頭していた。
「安くする方法……お父さまから教わった方法としてはコストの削減よね……それには大量生産とか、あと……何があったかしら」
 今まで、辛うじて一般庶民が使う魔導具としては『魔導ランプ』が挙げられる。
 アドリアナは、余計な装飾を省き、調光のような機能を無くした、必要最低限な魔導ランプを作ってみた。だが、これは彼女が目指すものではない。
「ええと……『安かろう悪かろう』、だったかしら?」
 父シュウキの言葉を思い出すアドリアナ。
「『分業』と言ったわよね」
 分業は、製造工程を作業ごとに分け、それぞれを別人が受け持つやり方である。
 1人が受け持つ作業内容は単純なのですぐに習熟できるし、作業者によって向き不向きのある作業を振り分けられる。
「なるほど、やってみましょう」
 セインに相談すると、すぐにそれは採用された。
 この頃になると、アドリアナの発言権は大きなものになっていたのである。

「ほほう、生産性が10倍以上になったと?」
 王太子アイアルスは報告を聞いて満足そうに笑った。
「やはりアドリアナ殿は素晴らしい。彼女を重用した先王の英断は讃えられるべきだな」
 そしてこの後の10年間で、ガランディア王国は国力を飛躍的に伸ばすのである。
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