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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 伍 アドリアナの流離い篇

1299/1504

0002 定住

 およそ1年間の家庭教師を経て、アドリアナ・バルボラ・ツェツィは再び旅立った。
 彼女の日記には詳細が書かれていないので、その間に何があったか知ることはできない。
 ただ、『十分な旅費を手にすることができた』とのみ書かれているので、可もなく不可もない日々だったのではと推測するのみである。

 そして彼女は西へ向かう。
 今現在『クライン王国』と呼ばれている地域には、まだ町が点在するだけの、ただの一地方であったようだ。

「お父さまから聞いたところによれば、大きい国としてはもう少し西に『ガランディア王国』という国があるはずだけど」
 現在のアルスに当てはめると、フランツ王国に当たる場所である。

*   *   *

「ここがガランディア王国の首都、ラカポーね」
 ゴーレム4体を連れたアドリアナはそれなりに目立っている。
「さて、どうしようかしら」
 路銀はまだあるのだが、行動指針が決まらない。そんな彼女に声を掛けてきた者がいる。
「お嬢さん、何かお困りですかな?」
「あ、はい」
 見れば、初老の紳士然とした男で、着ているものも高価そうだ。
「私は王家に仕えているセインと申します。見れば、ゴーレムを4体も引き連れておられる様子。どこぞの魔法工作士(マギクラフトマン)ですかな?」
「私はアドリアナ・バルボラ・ツェツィ。『魔法工学師マギクラフト・マイスター』です。旅をしております」
「『魔法工学師マギクラフト・マイスター』? 聞かない称号ですな。……ですが、旅をしていると仰いましたか。ならば好都合。私と一緒にいらして下さいませんか? 王家では優秀な魔法工作士(マギクラフトマン)を探しているのです」
 アドリアナは少し考え込む。その様子を見てセインは微笑みながら言った。
「急に言われても信用しきれないこともあるでしょう。気が向かれましたら、王城へおいで下さい。その際、門番にこれをお示し下されば通してくれます」
 セインは紋章の入ったハンカチを差し出した。
「ありがとうございます……」
 礼を言ってそれを受け取るアドリアナ。
「お泊まりになるのなら、この先にある『水鳥の羽亭』がよろしいかと存じます。少々お高いですが」
「重ね重ねどうもありがとうございます」
 頭を下げ、アドリアナは歩き出した。4体のゴーレムは無言で付いて行く。それを見送って、セインは微笑んでいた。

 『水鳥の羽亭』は確かに高級宿だったが、長い旅をしてきたアドリアナにとっては、癒しの宿となった。
 なぜかと言えば、『風呂』があったのだ。
「うわあ……幸せ」
 家庭教師時代、どうしても入浴したくて風呂を作ってしまった彼女である。
 ここの風呂はやや小さかったが、それでも数人は入れる大きさがあり、浴槽の中で思う存分手足を伸ばすことができたので、彼女は満足だった。
(どうしようかしら……)
 王家が魔法工作士(マギクラフトマン)を招聘しているということは、調べればすぐにわかるだろう。
 事実だとしたら、応じるかどうか、が問題だ。
「何のために招聘しているのか、それがわかれば判断材料になるわね……」
 路銀もそうたくさんあるわけではない。アドリアナは、翌日は町に出て情報集めをしよう、と心に決めたのであった。

 宿の食事は彼女の口に合った。
「久しぶりに美味しい食事ができたわ……」
 部屋のベッドも、藁ではなく、獣毛綿(羊などの獣の毛を使った布団綿)の入った布団だったため、身体が痛くなることもなく、ぐっすり休めたのである。

 そして翌日。
 アドリアナは町を見物がてら、情報収集に務めていた。お伴はFー002のみ。4体も引き連れていると目立って仕方がないというのがその理由だ。
「ゴーレムらしきものも、いることはいるのね……」
 とはいえ、本格的なゴーレムは見かけない。初歩的なストーンゴーレムだけだ。
(ああ、これじゃあ目立つわけだわ……)
 Fー002のような精密なゴーレムは1体ですら目立つ。4体も連れていた昨日の自分はどれだけ目立っていたか、省みるアドリアナであった。
 食材を眺め、道具屋を見物する。
(やっぱり魔導具はほとんどないわね……)
 その点においては、おそらくレナード王国が最も進んでいるのではないか、とアドリアナは思った。
(こっちの国々を、こんどは私の力でよくしていけたら)
 それは『賢者(マグス)』であった父シュウキ・ツェツィの意志を継ぐことであると同時に、父を超えることに通じる。アドリアナはそう考えていたのだ。

 1日町を見て歩き、情報を集めたアドリアナは、あのセインという人物の言ったことは本当であると知った。
 この国の王は、人々の暮らしをより良くするための人材を広く公募しているのである。
 彼女のゴーレム技術、いや、『魔法工学』は、その一助になるだろうとアドリアナは考えた。

 翌日、アドリアナは4体のゴーレムを引き連れ、王城を目指した。
 門番に紋章入りのハンカチを見せると、セインの言葉どおり、すぐに入ることができた。
 ゴーレムと共に通されたのは応接間のような部屋。
 そこで待つこと20分、香りのよいお茶を飲んで待っていると、セインが入ってきた。
「アドリアナさん、来て下さったのですね」
 アドリアナは立ち上がって頭を下げた。
「はい。いろいろ考えた末、やって来ました」
「歓迎いたしますよ」
 そしてセインは、まずアドリアナに部屋をあてがってくれた。
 寝室と居間の二間続き……いや、少し離れた場所に工房もくれたのだ。
「い、いいんですか? まだ私、何もしていませんけど」
 だがセインは笑って、
「そのお連れになっているゴーレムを見れば、あなたの実力はいやでもわかりますよ。今日はこのあと城内をご案内しましょう。明日は陛下に謁見することになります」
「そ、そうですか」
 父シュウキと一緒だった頃、権力者と顔を合わせる機会の多かった彼女は、それほど気後れはしなかった。ただ、『面倒臭い』と思っただけである。

 荷物を片付けたアドリアナは、足りないものは一旦城外に出て買ってきて、自分の居場所を整えていった。
 寝具や家具は備えつけてあったので、主に服関係だ。
「礼服はないけど……いいよね」
 ゴーレムたちは工房に配置し、日替わりで1体を身の回りの世話と部屋の留守番とすることに決める。
 工房で何を作るかは、これからである。
「お風呂があったのは嬉しいわね……」
 大浴場が男女別で設けられていて、ゆったりと入れるのでそれだけでもアドリアナはここに来てよかったと思った。
 布団も、昨日泊まった宿以上に高級で、当分定住してもいいな、と思わせる環境である。
(でも、最終判断は明日……)
 王との謁見でどう転ぶかはわからない、とアドリアナは身を引き締めたのである。

 そして翌日。
 アドリアナは執務室で王と謁見……というよりも面接を行っていた。
「儂がガランディア王国の王、ハロドルフ・シラージュ・ガランディアだ。ようこそ、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』アドリアナ・バルボラ・ツェツィ殿」
「よろしくお願いいたします」
「陛下はこの国をより良くしたいと思ってらっしゃいます。そのために何をすべきか、と考えた末、広く人材を求めることになさったのです」
 王の隣にはセインがいて、説明してくれた。彼は秘書のような役職らしい。平たく言えば懐刀ふところがたなだ。
「アドリアナ殿、これからよろしくお願いいたします」
「あの、私は何をすればいいのでしょうか?」
「この国、国民のためになると思ったことをおやり下さい。順序としては、私に概略をお伝え下されば、おおまかに判断し、よいと判断したなら許可を出します。そうすれば予算が出ますので、その範囲で実行して下さい」
 かなり大雑把ではあるが、それだけ自由にやらせてもらえれば、相当いろいろなことができそうだ、とアドリアナは心中密かにやる気を漲らせたのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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