挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

35 オノゴロ島篇

1290/1534

35-14 謎の旅人

 魔族領を発った『コンロン3』は、まずカイナ村を目指した。
 道中、シオンとマリッカは眺めに夢中だ。
 シオンはかつて飛行船に乗ったことがあったが、何度乗っても空からの眺めは格別らしい。
 そして。
「ふわああ、す、すごいです! あ、あれが大地峡でしゅね!」
 床窓に這いつくばるようにして、マリッカは下界を眺め続けていた。

 二堂城前広場に着陸する『コンロン3』。
 そこには、ハンナがやって来ていた。近付いてくる『コンロン3』をいち早く見つけて駆けつけてきたのである。
「おにーちゃん、いらっしゃい! お客さま?」
「あ、ええと……ハンナちゃん、だっけ?」
 シオンは、魔族領の食糧危機を助けてもらおうとやって来た際、カイナ村で保護されたのでハンナの顔を見知っていた。
「あ、シオンさんだ! いらっしゃい!」
 一方、マリッカは、サキの陰に隠れて一番最後に降りてくる。
「ヴィヴィアンおねーちゃん、グースおにーちゃん、エルザおねーちゃん、いらっしゃい! サキおねーちゃん……あれ? もう一人?」
「ああ、駄目じゃない、マリッカ。ちゃんと挨拶しないと」
「え、ええと、マ、マリッカです。ジン様の……」
「外弟子、といったところかな」
「ふうん、そうなの? あたし、ハンナ。ようこそ、マリッカさん!」
 物怖じしないハンナと、人見知りのマリッカ。意外といい取り合わせなのかもしれない、と仁は思った。

 仁がシオンとマリッカを一旦ここに連れてきたのにはわけがある。
 いずれ魔族とこちらの国々を融和させたいと思っているので、まずは平和なカイナ村を紹介してみようと思っていたのだ。
 カイナ村が特殊すぎることは自覚していない仁である。

「ジン、ボクらは一旦帰るよ」
 二堂城で一服したあと、サキとグース、ヴィヴィアンは戻ると言いだした。
「魔族領で聞いた話をまとめておきたいからな」
「うーん、そうか。それじゃあ、またあとで」
「うん、またあとで」
 転移門(ワープゲート)があるので『またあとで』などと言えるのだ。
 もう『仁ファミリー』の面々はそうしたことに慣れていた。

「じゃあ、村を案内しようか」
「うん、お願い、ジン」
「行こ、マリッカちゃん」
「え、あ、はい」
 ハンナはマリッカの手を引いてカイナ村への道を行く。
 背はマリッカの方が少し大きいが、年齢は50歳と言うことでこっちの人間に換算して10歳。ハンナとお似合いなのである。
「なんか楽しそうね、ハンナちゃん」
 後から仁たちと共に歩きながら、シオンは珍しいものを見るような顔をしている。
「ハンナはいい子だよ。この村もいい村さ」
「ほんとね」
 以前滞在したときは二堂城にいたので、あまり村の生活を見ていないシオンだった。

*   *   *

「ふむ、素材は炭素鋼。しかし、質が悪いな。リンとイオウが多すぎる」
 謎の旅人は、通りかかった武器屋に入り、陳列されている剣を眺めていた。
「……旦那、こっちの剣はいかがで?」
 その呟きに、少し気を悪くしながらも、店主は別の剣を勧める。
「うん? これか。……ふむ、少しはましだな。だが、金属組織の微細化が足りないな」
 一目見て駄目出しをする旅人。
 そんなことが数回続くと、さすがに店主も黙っていられなくなった。
「ええい、買う気もないくせにいちゃもんばかり付けやがって! 出ていってくれ!!」
 だが旅人は平然と、
「言われなくても出ていく。もう見るものはない」
 と言い放ち、足早に店を出て行ったのである。
「……なんだってんだ、まったく」
 鼻息荒く、店主は旅人の背中に向かって悪態を吐いた。

 ここはショウロ皇国首都、ロイザート。
 驚いたことに、謎の旅人は一晩中歩き続けて、100キロ以上の道のりを一睡もせず、休憩すら取らずに踏破し、ロイザートに辿り着いていたのである。
 そして、ロイザートの町を見物していた。

「前の町よりも多少文化は進んでいるようですが、誤差範囲ですね。首都ならこのくらい当たり前でしょう」
 誰にも聞こえないような声で独り言を言いつつ歩く旅人。
「ゴーレムなどはどこへ行ったら見られるんでしょうね?」
 答えはない。
 旅人はゆっくりと歩いて行く。商人街を抜け、向かう先は貴族街、彼の前にあるのは警備兵の詰め所。
「ふむ、戦闘職の人間ですか。実力を見ておくのも悪くないですね」
 謎の旅人は歩みを止めない。詰め所にいた警備兵が顔を出した。
「何か用か?」
 ロイザートの警備兵は、現代日本の警官のようなものだ。
 貴族街と商人街の境に詰め所があるといっても、別に番人というわけではない。
 一般人でも誰何されずに貴族街へ行くことはできるのだ。
 だが、例外もある。明らかに怪しい場合だ。 
 そして謎の旅人は怪しすぎた。誰何されても歩みを止めず、返事もせず、ただ『真っ直ぐ詰め所を目指して』歩いて行くだけ。
「と、止まれ!」
 だが謎の旅人は止まらない。
「止まれと言っている!」
「どうした?」
 警備兵の大声に、詰め所奥から別の兵士が顔を見せた。そして驚く。
 無表情で歩み寄る男。はっきり言って不気味である。
「いくら言っても止まらないんだ!」
 そんな説明が不要なくらい、謎の旅人は詰め所手前まで歩いてきていた。
「やむを得ない」
 警備兵は剣を抜いた。
「それ以上近付けば斬る!」
 だが旅人の歩みは止まらない。
「くっ!」
 警備兵は、歩み来る旅人の脚を狙って斬り付けた。……はずだった。
「え?」
 天地が逆さに見えた。警備兵は投げ飛ばされたのである。
 そして背中から地面に落ちる。
「ぐはっ!」
 肺の中の空気を全部吐き出し、警備兵は気を失った。
「こいつ! 何をする!」
 もう一人の兵士も剣を抜き、今度は手加減抜きで斬りかかった。
 だが。
「なん……だと……?」
 謎の旅人は、その剣を素手で受け止めていたのである。
「ぐああああ!」
 そしてそのままねじる。
 兵士の腕が折れた。
「弱すぎる。これで警備の役に立つのか?」
 答える者はいなかった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ