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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

34 破片対策篇

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34-16 前夜、そして

 3458年、10月14日。
 蓬莱島は慌ただしかった。
 あと1日足らずで『破片』がアルスに到達するのだ。

「それじゃあ、行ってくる」
 蓬莱島司令室で仁が言った。
 『行く』とは言っても、『分身人形(ドッペル)』……仁Dを操縦して仮想的に『アドリアナ』に乗り移るのだが。
「ん、私はここでサポートする」
 エルザも司令室に詰め、できる限りのことをするつもりでいた。

 その他に、『空軍(エアフォース)』であるスカイ隊は、小型転送砲を取り付けた『ラプター』300機、『スカイラーク』200機、そして『ファルコン』10機の最終チェックをしていたし、『陸軍(アーミー)』であるランド隊が、万が一の事態に備え、いつでも各国へ『転送機』で派遣できるよう、準備を整えていた。
 また、海上には、戦艦『穂高』『妙高』『浅間』が、海上に落下してくる破片を迎撃すべく展開している。
 仁の愛機『ペガサス1』には礼子が、『コンロン3』にはエドガーが乗り込み、それぞれカイナ村と蓬莱島上空を守る予定だ。

*   *   *

 仁Dが『アドリアナ』の中央艦橋で目を開けると、すでに周囲は宇宙空間であった。
 破片『特大』を推進する補助としての役割は終えたのである。
御主人様(マイロード)、今現在、破片『特大』はアルスの脇13万キロ付近を通過するコースです』
「ああ、これでなんとかなりそうだな」
 当初は3万キロと計算されていたが、その後『アドリアナ』を使って押したり、更に大型力場発生器フォースジェネレーターを増やしたりと、地道な努力を続けた結果だ。
 それでも何があるかわからないため、『アドリアナ』は新開発の『魔導防御盾(アイギス)』を展開して、破片『特大』の影響からアルスを守る予定なのだ。

 今、『アドリアナ』は破片『特大』と並んで飛んでいる。速度は秒速290キロメートル。アルスとの距離はおよそ1300万キロメートル、あと半日でアルスに最接近する。

「破片『大』に関しては、全て無害なんだな?」
 仁は最終確認を行っていく。
『はい、御主人様(マイロード)。『大』に関しては心配はなくなりました。全て恒星セランへ真っ直ぐ進んでおります。大型力場発生器フォースジェネレーターももう停止しており、アルスの軌道を通過した後、回収することになります』
「それぞれに派遣した『コスモス』たちは?」
『はい、全員無事です』
「よし、順調だな。破片『中』は?」
『そちらも全て一箇所にまとめてあります。このあとゆっくりと分別し、利用できる資源は利用することになるでしょう』
「そうだな。利用できる資材が沢山あるといいな」
 今回の騒動で、かなりの資源を使った蓬莱島である。
 おおよそ、100年分の資材が消費されたらしい。
「まあ、消えてなくなったわけじゃないけどな……」

「破片『小』も大丈夫か?」
『はい。『中』と同じです』
「よし、それならいいか。問題は『極小』だな」
『そうなります』
 ここで仁は、かねてから考えていた方法を試してみることにする。
「偵察用宇宙船の1隻……いや、5隻に命じ、破片の来る方角へ向けて、強力な光を当ててみよう。紫外線も含むような」
『なるほど、粒子の存在を見つけやすくなりますね』
 紫外線で蛍光を発するような物質があると、より判別しやすいという発想だった。
 サーチライト機能は全ての偵察用宇宙船に搭載されているので、この作戦はすぐに実行された。

「おお、あそこに雲のように広がっているなあ」
 強烈な光を受けて発光する微粒子の雲。
「あれはもうセラン方向に転移させてしまえ」
 有効利用もできないような、直径数ミクロン〜数ミリ程度の『宇宙塵』。
 第1惑星軌道の内側へ転移させてしまえば、あとはセランの重力に引かれて間違いなく落下するだろう。
『わかりました。指示を出します』

 こうして『極小』に相当する破片は次々に取り除かれていった。
「だが、あれだけの数だ。見落としもあるだろう。警戒は緩めるな」
『わかりました』

 漆黒の宇宙空間を行く『アドリアナ』。その横、500キロメートルほどの彼方には破片『特大』が浮かんでいる。
 速度を同期しているのでまるで止まっているように見えるが、実際は秒速290キロ以上の速度で飛んでいるのだ。
 アルス軌道の通過時には秒速300キロを超えるだろう。
「あと8時間か」
 仁は一旦仁Dの制御をやめ、蓬莱島司令室へと意識を戻した。
「お帰りなさい、ジン兄。こっちに変わりは、ない」
「うん。今のところ向こうも問題ないかな」
 仁は今のうちに食事をし、仮眠を取っておこうと思った。

 トイレや入浴、食事などを済ませた仁は、先日礼子とエルザが作ってくれたソファベッドに腰を下ろした。
「少しだけ眠る。2時間経ったら起こしてくれ」
 そんな仁の横にエルザが座る。
「……よ、よかったら、私の……」
 赤くなりながらエルザはそう言って、膝を叩いた。
「え……」
 一瞬戸惑った仁だったが、すぐに思い直して体を横たえ、エルザの腿に頭を乗せた。
「2時間くらい、こうして……あげる」
「あ、ああ、ありがとう」
 後頭部に軟らかな弾力を感じながら、仁は目を閉じた。
 かえって寝付けないのではと心配したが、あに図らんや、すぐに眠りに落ちる。
 そんな仁の寝顔を見下ろしながら、エルザは微笑んでいた。

*   *   *

 そして、静かな2時間が過ぎた。
「ジン兄、起きて」
 エルザは軽く仁の頬をつついてみる。
「んっ……ああ、時間か」
 寝起きのいい仁は目を覚ますとゆっくり起き上がった。
「ありがとう、エルザ。重かっただろう?」
 エルザは黙って首を振った。
「さあ、いよいよだ」
「お父さま、これを」
 寝起きの仁に、礼子はペルシカジュースを手渡した。
 適度に冷えており、口当たりがいい。
「美味い。ありがとう、礼子」
「いいえ。それではわたくしも『ペガサス1』に乗り込みます」
「ああ、頼むぞ」
「はい、お任せください」
 蓬莱島の全力を注ぐミッションが、今始まろうとしていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

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