挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

34 破片対策篇

1265/1503

34-10 無属性

「今以上に老君を強化、って、どうやるの?」
 エルザには、およそ考えられる限りの改良を施されているように思えるのだ。
「それはそのとおりだ。あとできるとすれば、クロックアップや、周辺機器の充実だな」
 パソコンの例えで説明する仁。とはいえ、仁もそれほどパソコンに詳しいわけではない。

 クロックアップは、パソコンの発展期によく行われた手法だ。
 デジタル処理では、CPU(中央演算処理装置)が、1秒間に何回演算ができるか、が1つの性能の目安であった。
 新型機は、こぞってクロックアップしたことを謳ったものである。
 あとは内蔵ハードディスクの容量アップとOSのバージョンアップ。
 仁が知っているパソコンの性能アップと言えばそのくらいである。

 魔法工学では、制御核(コントロールコア)の属性がクロック周波数を決める。
 これを上げるということは、単位時間あたりに考えられる案件が増えるということだ。
 仁は、選りすぐった魔結晶(マギクリスタル)を使っていたが、天然のものにはどうしても不純物が紛れ込む。
 そこで仁は最高品質の魔結晶(マギクリスタル)に『純化(ピュアリ)』と『構造変形(ストランスフォーム)』、そして『結晶化(クリスタリゼーション)』を施すことを思いついたのである。
構造変形(ストランスフォーム)』は仁オリジナルの工学魔法であるから、この一連の処置は過去に例がない。
 どのような結果になるか、まずは実験である。
「『純化(ピュアリ)』」
 仁は光属性の魔結晶(マギクリスタル)から、ほんの微量な不純物を抜き去った。そして『構造変形(ストランスフォーム)』と『結晶化(クリスタリゼーション)』。
 これにより、内部の結晶構造の欠陥がなくなる。
 出来上がったのは、無色透明な魔結晶(マギクリスタル)だった。光属性の特徴の、まばゆい輝きは抑えられ、落ちついた光を放っている。
「『分析(アナライズ)』……なんだ、これ?」
「ジン兄、どうしたの?」
 何か不具合が起きたのかとエルザが尋ねる。
「い、いや、何と言えばいいか……エルザも調べてみればわかる」
「? ……『分析(アナライズ)』……あ」
「だろう?」
「何、これ?」
 いくら調べても、属性が感じられなかったのである。
「全属性に対して……『無』属性とでもいえばいいのか?」
「ん、確かに」
「ほんのわずかな不純物を取り除いたら属性が消えた、ということは、不純物が属性を決めていた、ということか」
「そうなる」
「これって、サキが大喜びしそうな内容だな」

*   *   *

「ジン! 何という発見をしたんだい!!」
 サキを呼び寄せたら、案の定躍り上がって喜んでいた。
「ううむ、その属性を決めている不純物の正体っていったいなんだい?」
 それがわかれば、人工的に各属性の魔結晶(マギクリスタル)を作れるようになるかもしれない。
「今のところわからないんだ。というより、分離しても出て来なかったんだ」
「うーん、そうか……」
 考え込むサキ。
「そうしたら、他の属性の魔結晶(マギクリスタル)も、同じ処理をしたら無属性になるってことかい?」
「だな。実際、やってみた。火属性の魔結晶(マギクリスタル)が無属性になった」
 その場合の不純物……もしくは『添加物』も不明だと、仁は言った。
「うーん、難しいね。でも、研究する価値はありそうだ。……それで、『無属性』を制御核(コントロールコア)に使ったらどうなったんだい?」
「ああ、そうそう。試しに、エドガーの制御核(コントロールコア)を交換してみたんだ」
「え? なんでエドガー?」
「いや、エルザが是非に、っていうから」

 エルザとしては、自分が作った初めての自動人形(オートマタ)であるエドガーを、最近メンテしてやっていないな、という想いがあったのだ。
 縁の下の力持ち、というか、裏方としての仕事が多いエドガー。その理由の一つには、仁が作ったゴーレム・自動人形(オートマタ)たちよりも性能がやや劣るということがある。
 それで、仁が老君を改良しようという同じ機会に、エドガーの性能アップを考えたエルザであった。

「で、どうなったんだい?」
「驚くなかれ、思考処理速度が1.5倍に上がったぞ」
「そりゃすごいね!」
「それだけじゃないぞ。『魔力反応炉(マギリアクター)』をこれで作ったら、出力が5割増しになった」
「一大発見だね!!」
「ああ、思うに、不純物の存在、種類、それに結晶構造なんかが、魔力周波数を決める要因になっているんじゃないかと思うんだ。それに……」
 単純に速くしただけでは、情報のやり取りが追従できなくなってかえって能力が落ちることもあるのだが、この『無属性』魔結晶(マギクリスタル)はそうした欠点がないようなのである。
 余計な抵抗がなくなった、ということの効果ではないかと仁は想像した。
「ふんふん、あり得る説だね。研究してみたいよ」
「その辺は任せるよ」
「うん、今、ジンは忙しいだろうからね。任された」

 こうして、『無属性』の魔結晶(マギクリスタル)についての研究はサキに一任し、仁は老君の、エルザはエドガーの強化をすることになったのである。

*   *   *

「どうだ、老君?」
『はい、御主人様(マイロード)。はっきりと性能が上がったことを感じます』
「1割2割じゃないものな。1.5倍といえばかなりのものだ」
『はい。これで更に御主人様(マイロード)のお手伝いができます』
「よろしく頼むぞ」

 続いて仁は、礼子の制御核(コントロールコア)魔力反応炉(マギリアクター)も交換した。
 他のゴーレム、自動人形(オートマタ)たちも順次換装していく予定だ。
「どうだ、礼子?」
「はい、素晴らしい調子です。ありがとうございました」
 着々と強化されていく蓬莱島である。

*   *   *

 一方、エルザとエドガー。
「……できた」
 作業の早さは敵わないが、エルザの技術も仁に迫るものがある。
 骨格から筋肉、皮膚まで全て見直し、第5列(クインタ)と同等の性能を得るに至った。
「ありがとうございます、エルザ様」
「これからもよろしく、エドガー」
「はい」

「エルザ、お疲れ様」
「ん、ジン兄も」
 そんな言葉を交わしたあと、仁は半ば戯れに、エルザの肩を揉んでやった。
「ジ、ジン兄?」
「……うーん、エルザはあまり肩が凝らないのかな?」
 施設時代、院長先生の肩や腰を時々マッサージしていた仁は、エルザの肩が凝っていないので驚く。
 そして、『英語には肩凝りという単語がない』という話を思い出した。
「でもあれって、自覚がないだけだよな……エルザは、きっと若いからだ、うん、きっとそうだ」
「ジン兄?」
「……はは、なんでもない」
「そう?」

 こうして、10月8日は過ぎていく。
 夕方、仁は少し仮眠を取り、夜からのミッションに備えた。

*   *   *

 深夜、日付が変わった頃。
「『大聖』、状況は?」
『はい、御主人様(マイロード)。予定どおりです。大型力場発生器フォースジェネレーターにより、『特大』の自転はほぼ収まりました。数分後に移動用の大型力場発生器フォースジェネレーターを起動します』
「そうか、よし」
 ミッションは佳境に入った。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160820 修正
(誤)「うん、今、仁は忙しいだろうからね。任された」
(正)「うん、今、ジンは忙しいだろうからね。任された」

(旧)魔法工学では、制御核(コントロールコア)の属性がクロック周波数を決める。
(新)魔法工学では、制御核(コントロールコア)の属性がクロック周波数を決める。 これを上げるということは、単位時間あたりに考えられる案件が増えるということだ。

(旧)『魔力反応炉(マギリアクター)』をこれで作ったら、効率が3割増し、出力も3割増しになった」
(新)『魔力反応炉(マギリアクター)』をこれで作ったら、出力が5割増しになった」
 以前、魔力反応炉(マギリアクター)の効率は99%うんぬんとしていましたので、そこから3割は上がりませんね……

(旧)「ああ、思うに、不純物の存在、種類、それに結晶構造なんかが、魔力周波数を決める要因になっているんじゃないかと思うんだ」
(新)「ああ、思うに、不純物の存在、種類、それに結晶構造なんかが、魔力周波数を決める要因になっているんじゃないかと思うんだ。それに……」
 単純に速くしただけでは、情報のやり取りが追従できなくなってかえって能力が落ちることもあるのだが、この『無属性』魔結晶(マギクリスタル)はそうした欠点がないようなのである。
 余計な抵抗がなくなった、ということの効果ではないかと仁は想像した。

 以前、周波数だけでは効率アップは図れないと書いていましたので補足説明を。
 実際には抵抗というよりインピーダンス(R・C・Lの和)に近いかと。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ