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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

33 予兆篇

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33-28 シューリレー遺跡

「脱退したものがそんな悪さを……」
統一党(ユニファイラー)』改め『懐古党(ノスタルギア)』の本部では、美少女自動人形(オートマタ)のエレナがトップの2人を前に話し込んでいた。
「場所は、あそこで間違いなさそうですね」
 鈴を転がすような声でエレナが言った。
「だな」
 あそこというのは、一般には『シューリレー遺跡』と呼ばれている場所。
 実際は魔導大戦時の砦跡で、かつての『統一党(ユニファイラー)』が整備し、拠点とした場所。
 本部の『カシムノーレ遺跡』の更に西にあり、開発・研究を主軸に置いた基地であった。
懐古党(ノスタルギア)』となった今、規模が縮小したために放棄した基地の一つである。
「で、おそらく頭目は……」
「ロンダーだろうな」
「まず、間違いありませんわね」
 ロンダーはかつて彼等の配下で、かなり優秀な魔法技術者(マギエンジニア)であった。
 が、野心が強過ぎたため協調性に欠け、かといって洗脳してその創造力を半減させるのも得策ではない、というわけで辺境の研究室で魔導具の開発やゴーレムの改良をさせていたのである。

「で、どうする?」
 懐古党(ノスタルギア)トップ、ジュール・ロランは、エレナにうかがいを立てる。
「戦闘用ゴーレムを2体用意して下さい。私がまいります」
「エレナが!? 危険では?」
「いえ、今のところ、懐古党(ノスタルギア)で表立って動けるのは私ですから」
「……わかった。だが、連れて行く戦闘用ゴーレムは4体、それに万能ゴーレムも1体連れて行ってくれ。熱飛球も2機用意するから」
 ナンバー2であり、技術部門の長でもあるドナルド・カローは懇願するように言った。
「わかりましたわ。我が君様、ドナルド様、心配してくれてありがとうございます」

*   *   *

 エレナと4体の戦闘用ゴーレムは、2機の『熱飛球』……懐古党(ノスタルギア)では、統一党(ユニファイラー)時代からそう呼んでいる……で出発した。
 エレナ、戦闘用ゴーレム2体、で1機。万能ゴーレム、戦闘用ゴーレム2体、で1機という割り当てだ。
 懐古党(ノスタルギア)本部とシューリレー遺跡の距離はおよそ60キロ。
 2時間ほどで、エレナたちの眼下に遺跡が見えてきた。
「2キロほど離れた場所に降りましょう」
 そのあたりは岩場である。熱飛球を隠す場所にはこと欠かない。
 適当な平地を見つけ、2機の熱飛球は着陸した。
《エレナ様、これからどうされますか?》
 万能ゴーレムが尋ねてきた。
「まずは一番離れた非常用出入り口をチェックしましょう」
《わかりました》
 元々エレナたちが改造した基地であるから、そうした出入り口は全て把握している。
「あの岩が目印でしたね」
 尖塔のように聳え立つ10メートルほどの岩。その根元から5メートル真西にあるずんぐりした岩が、最も外縁部にある非常用の出入り口である。
「ここは特に弄られてはいないようです」
 それも道理、幹部にしか知られていない出入り口である。
《ロンダーが知らされていなかったかどうか……それは記録になかったんですが》
 万能ゴーレムが補足する。
「とにかく、ここから基地に入ってみましょう」
《エレナ様自らというのは危険です。自分が行きます》
「大丈夫よ。私を信じてちょうだい」
《そう言われましても、エレナ様の代わりはいませんが、自分の代わりはいくらでもいます。ですから、ここは自分が。それに、戦闘力では今の自分の方が……》
『黄金の破壊姫』と呼ばれたエレナならいざ知らず、礼子に敗れ、仁によって再生された今のエレナは、反応速度はいざ知らず、人間と同程度の腕力しか持たない。
 対して万能ゴーレムは、人間の50倍以上の性能を持つのだ。
「ふふ、そうですね。でも、今の私が前より弱くなっていることをロンダーは知らないはずです」
 仁と蓬莱島勢に敗れたあの時も、ロンダーはシューリレー遺跡……いや、基地で研究をしていたのだから。
《理由は納得できました。では、ご一緒させていただきたい。これは譲れません》
「まあ、その辺が落としどころかしらね。でも、それなら全員で行きましょう」
 そういうことになった。

 非常口の開け方はエレナが知っており、必要な手順を行うと、隠された出入り口……岩が少しずれ、通路が口を開いた。
「さあ、行きましょう」
 戦闘用ゴーレム、戦闘用ゴーレム、万能ゴーレム、エレナ、戦闘用ゴーレム、戦闘用ゴーレム、という順序で通路へと足を踏み入れる。その背後で扉は閉じた。
 通路はほとんど真っ暗であったが、全員暗視機能は持っているので不都合はない。
 音を立てないよう、慎重に進んでいく一行。
 非常用の通路なので、監視カメラや警報装置のようなものは設置していないはず、と記憶を確認するエレナ。
 そして、非常用通路と通常区画を隔てる扉の前へ辿り着いた。
(ここまでは順調でしたが、ここからが問題です。……物音は聞こえませんね)
(《エレナ様、自分が開けます。少しお下がり下さい》)
 万能ゴーレムが進み出た。エレナも彼に任せることにする。
 万能ゴーレムは、できるだけ音を立てないよう、扉を開けた。
(誰もいませんね)
 これまでと違い、通常区画はやや暗めながらも魔導ランプによる照明が灯っている。
 明るい分見やすいが、自分たちも見られるということ。
 そして通路は真っ直ぐで、隠れられる場所はない。
(人気はないですわね……)
 物音もせず、静まりかえっている。廊下にはうっすら埃が積もっていた。
(かえってまずいですわね)
 埃の上に足跡が残ってしまうのだ。仕方なくエレナは、風魔法『(ブリーズ)』を使って埃を巻き上げ、足跡を消していった。埃で咳き込むことがないのでできる荒技だ。

 一行は、いよいよ基地の中心部に来た。
(いっそう注意しましょう)
 だが、ここにも人の気配はない。
(下……でしょうか)
 因みに、基地の大半は、岩山をくり抜き、補強された『砦』をそのまま使っているので、いわゆる『地下式』ではない。
 エアーズロックのごく小規模な岩を改造した施設であると思ってもらえればいい。
 当時の『統一党(ユニファイラー)』では、そこに地下室を加えて基地としていたのである。
 エレナのいう『下』とはそうしたフロアのことを指していた。
(そうですね。下には研究室があります。ロンダーはそこにいるのではないでしょうか)
 エレナはそう判断し、階段へと向かう。やはり人の気配は無い。
(要員はほとんどいないのかもしれませんわね)
 慎重に階段を下りていくエレナたち。だが、やはり人がいる様子はない。
(見込み違いだったというのでしょうか?)
 エレナがそんな疑念を覚えた時。
 研究室の方で物音がした。
「誰かいますね」
《自分が見てきます》
 万能ゴーレムは一言そう言うと、エレナの返事を待たずに足を踏み出した。
 そして研究室のドアの前で足を止め、耳を澄ます。
 しばらくそうしていたかと思うと、いきなりドアを開けたので見ていたエレナはびっくりした。

 万能ゴーレムが部屋の中へ飛び込んで1分。
《エレナ様! こちらへ!》
 大声でエレナを呼ぶ万能ゴーレム。
「一体何があったの?」
 返事をしながらエレナも、何か予想もつかないことが起こったことを感じていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20160729 修正
 前半部の読点『、』が多すぎた箇所を修正しました。

(誤)「まずは一番離れた非常用出入り口ををチェックしましょう」
(正)「まずは一番離れた非常用出入り口をチェックしましょう」
+注意+
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